あめのさかいめ
一昨日、梅田に旅行の用意で買い物に行って、阪急梅田駅から出るときは雨なぞ降っていなかったのに、箕面線に乗り入れたら車窓から見える家並み・道路が黒く濡れそぼって水がしたたっている様子で、こちらでは雨が降っていたらしかった。そういえば、梅田のホームで宝塚線から降りた人たちが「降られた降られた」と喋っているのを耳にした筈だった。
惜しい見逃した、と思った。
何が惜しいのかというと、晴れと雨の境目を見るのが好きなのである。
気になりだした最初の記憶は、子供の頃お盆で田舎に帰る高速道路の後部座席からみた光景だったかもしれない。
その時は、後部座席で酔わないように窓の外を努めてぼんやりと見ていた。それほど激しくない雨だったと思うが、外は暗く、窓ガラスを雨滴が撃ち続けていたが、それが突然止まった。「止まった音」が聴こえたのではないかと思うくらいに、これは突然に止まった。前方を見ると、それまでの濡れて黒く飛沫いていた路面がすぐ数メートル先で途切れて、陽光を受けた乾いた路面ときっぱりと高速道路を横切って境界線を描いていてそれがみるみる迫ってくる。雨の降る/降らないが、こんなにハッキリ分かれているものなのかと素直に驚いたのだった。あの境界線を車が越えれば、何か別の世界に行けるかもしれない、などと夢想しそのまま車は通り過ぎた。そのまま別の世界にいるのかもしれない。
それから数十年、生活に影響がない範囲で人よりは境目を気にしながら生きてきたつもりだが、実はこの時ほどはっきりと境界線を見たことはなかった。だから雨の境目を見るのが好き、というよりもはっきりと見たいと常々思っている、くらいに留めて書かなくていけなかった。
一本の境界線を挟んで、状況がまるで違うというのは妄想を刺激される。
境界線自体が異郷であるような気もする。
境目というのではないけれど、「雨の降る/降らない」の温度差という意味でいうと、ひとつ忘れられない夜がある。
大学生の時に、夕方、友人と石橋周辺で集合、そのままビリヤード〜カラオケで夜更けまで遊んでいた時、BOXのエレベーターから喉を枯らして出てくると外はゲリラ豪雨になっていた。数メートル先が見えない。石橋は窪地なので、氾濫した水がどんどん流れ込んで逃げ場がない。みるみる車道が街灯や店の看板、ビルの窓明かりを反射して上も下もますます分からなくなる。車を連ねて(今なら飲酒運転で即アウト)とにかく水嵩を避けて山の斜面のように逃れようとしたのだったと思うが、前の車のテールランプさえ見えなくなって終にコンビニの駐車場で溝に前輪を落とし込んでしまった。そのあと、同じく駐車場に停まっていたタクシーに助けを求めるも無視して走り去られたり、友人3人と豪雨の中で何とか車輪を溝から出す苦闘が続いてやっと溝から出してそれぞれ家に帰った。この夜はもう世界中が豪雨だと思っていたのだった。しかし、次の日バイト先で隣の市では一切降っていなかったと聞かされて気が抜けた。
ありがちな話である。
日本には雨を形容する特に言葉が多いようだ。
こちらを見ると数の多さとそれぞれの意味の確かな細やかさに驚き戸惑いつつ使ってみたくなる(けど使う状況にまず巡り会えないだろう)。
雨の辞典というのもあって驚いた事がある。
こんなに雨の言葉があるなら、ついでに大雨を表す漢字もこんな風に建て増したらいい。
もしくは「森」の伝でいけばこうか。
大人げないか。
- 作者: 倉嶋厚
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2000/09
- メディア: 単行本
- クリック: 1回
- この商品を含むブログ (5件) を見る
『時間割』を書いたビュトールに言わせれば、「日本は雨が美しい国」らしい。
それなら、こういう雨の境界線を表現する言葉があるのじゃないのかと思って検索していたら、「雨境(あまざかい)」という言葉があるようだが、これは長野のほうの実際の地名であるらしい。少しは、上に書いたような感覚が滲んだ言葉なのだろうか。そうだといい。
歌川広重が描く雨はどれも美しいが、あれと自分の持ってる感覚は違っている。音が聴こえてきそうなほど、鋭利で過度に視覚的。自分にとって雨は、もっと膜とか襞につつまれるようなものだ。
月曜の朝は大体6時過ぎに目が覚める。
今朝は突然のゲリラ豪雨の音で5時半過ぎに起こされた。正確にいうと、降り始める直前に何だか急に気が重くなるというか胸にずどーんと溜まる感じがあって目が覚めてしまったのだった。急に気圧が下がると体が感じるようになったのか。
http://d.hatena.ne.jp/nomrakenta/20090530
http://d.hatena.ne.jp/nomrakenta/20080408
http://d.hatena.ne.jp/nomrakenta/20081109
えー。すいません。ここからは「雨ソング」貼り付け祭りです。ほんとは梅雨時にミックスして音雲にあげようかとも思っていたのですが…。
SAKANA(いや初期だから「さかな」か)初期に『レインコート』って名曲がありますが、Youtubeにないので『招待状』。
同じくSAKANAで『雨音』。
Velvetsのパリでの最初で最期の再結成時の『Hey,Mr.Rain』。ディドリー・ビートとラ・モンテ・ヤング直系ドローンの混血、というのは、まんまVelvetsの初期のアイデンティティだと思う。