みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

Steve Lacy Four "MORNING JOY"


「Steve Lacy Four」というのは、Steve Potts(alto-&soprano-sax)、Jean Jaque Avenel(bass)、Oliver Jonson(drums)にもちろんSteve Lacy(soprano-sax)を加えた、後期レイシーのパーマネント・カルテット。
80年代、このカルテットでのアルバムは多数リリースされていて80年代から90年代はレイシーのコーナーにはCDが多数並んでいたけれど、最近は少なくとも大阪では見ることがない。本盤は、1986年パリでのライブ録音でHat Hutからリリースされている。ヤフオクでたまたま見つけて即効で落としてしまった。
フリージャズとして新しいところはまるでない(この言い方もおかしいですが)。どころか、モンク曲2曲にオリジナル4曲という、私的な独断で言えば、レイシーの良質な部分がもっとも出やすいと思われるセット・リスト。
常々感じてきたのは、「森と動物園」や「Moon」のようなフリーを超えるような「どフリー」な試みもレイシーだけれど(実は僕はレイシーの奥さんのヴォーカリゼーションが入っていると苦手)、たとえば一曲目モンク「エピストロフィー」での、誰もが親しんできたテーマ重奏後の、耳をつんざく厳しさとは対極にあるボンヤリとして諧謔にとっぷりと二度漬けに浸された節回しの、その滞留のなかに、レイシーのもっとも「フリー」な瞬間が聴き取れたりするのだ(その前のPottsのエネルギッシュなアルトとも好い対象関係になっている)(Jean Jaque Avenelの変質的にミニマルなベースラインも凄い)。
なんどもこのブログで書いてきたかもしれなくて恐縮なのだけれど、うまれてはじめて生で聴いたジャズが、僕の場合このSteve Lacy Fourの京都木屋町RAGでの演奏だった。そのときは熱に浮かされたようになって終演後テーブルで寛いでいたベースのJean Jaque Avenelにサインを求めて脱兎のように逃げ出した記憶しかない(終電を逃してからふねやカラフネヤで夜を明かした)。
今、そのときとほぼ同じ時期、同じメンバーによるこのライブ盤に耳を傾けていると、記憶が鮮やかに上書きされていく快感が止まらない。
当時このCDは冒頭書いたように普通にレコ屋に並んでいた。手に取らなかったのはお金が限られていたのでUSインディーロックのCDやレコードにまわしていたのと、ジャケットがあまりにアートっぽくて秘教的に感じて(Hat Hutのアルバムは軒並み同じように感じていた)「レイシーは好きだけれどもまさかここまではいけないなあ」と怖気づいていたのだと思う。
今夜、出会い直すことができてとても嬉しい。
このジャズ、この音楽は、確かに、僕のDNAに刷り込まれていると感じる。