みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

10月なのにたそがれない国

(エントリーのタイトルはまったく内容と関わりません。すいません)



先週は出張で富山へ一泊。
大阪からサンダーバードに乗ったが、車内がかなり揺れて読んどかないといけない書類があって辛かった。富山のA社さんのCCを見学。単に見学というだけでなく数年後に控える合併への腹の探りあいという面もある。職場の文化の違いはもちろん目立っていたが、共通する価値観も見つけることができた。こちらも負けてない。しかし、オフィスから立山連峰が見えたり富山湾が見えたり、羨ましいかぎりの環境…。

水曜に前乗りで木曜が本番。最初は二日間の予定だったが、先の見学隊が良い仕事をしてくれちゃったおかげで、最後の僕含む4人は二泊も要らんだろと三日目はカットされた。木曜夜に帰ることになるし、今週手持ちの宿題はないので金曜は有給をとった。四連休。例年の職場離脱長期休暇が今年は取得不可能なので、どうもこれがその替わりになりそう。
とはいえ、遠出できるわけでもなく、こないだの社内イベントのDVD作成の仕事がまだ後をひいているんでいい加減片さなくてはいけない。なので、やたら時間だけはかかる動画のエンコード中はYoutubeを漁っていた。
で、なにかの拍子にクリックして最後まで観てしまい、その後延々関係のライブ映像を見るはめになってしまったのがこれ。

このブログでこれまで一言も触れたことのない男。それは、エドワード・ヴァン・ヘイレン
ヴァン・ヘイレン…。これでも中学時代に通過したのである。ヴォーカルはサミー・ヘイガーでしたが。すでに、デヴィッド・リー・ロスはヤンキー・ローズでスティーヴ・ヴァイにヴリヴリ弾かせてました。この機会にめったに聴かないHR/HMのバンドをいくつか聴いてみましたが、ヴァン・ヘイレンの音だけは違うという気がする。カラッと、突き抜けてる。能天気でマッチョなアメリカ白人以外の何者でもないのだけれど、積極的に嫌いにもなれない。

あらためて観るとエドワード・ヴァン・ヘイレン、確かにタバコ吸い過ぎですが、エディヴァンといえば(いわんか)ライト・ハンド奏法。今観て聴いて思うのは、ちゃんといいなあということに尽きる。途中、ちょっとバッハみたい。そうなんだ。エドワード・ヴァン・ヘイレンのライト・ハンドのフレーズって、全然ブルースっぽくないんだ。でも頭でっかちな感じでもない。音への感度の良さだけで紡がれているような感じ。
今あらためて思うのは、この人のギターのトーンの素直さも、デレク・ベイリーのギターのトーンの美しさも、自分のなかではたいした違いではないということ。デレク・ベイリーの著書でスティーヴ・ハウが即興演奏について語ったことは(下記の引用)、エドワード・ヴァン・ヘイレンにもあてはまる、と感じました。

かならずしも音のことではなく、もっとフレージングで自由になることなんだ ― 言葉は厳密に正確に使いたいから ― フレーズが透明になるんです。こうなるとほんとうに興奮するーぼくがいい即興と認めるのはこれ…。 音が前に押し出されてくる ―ひとつひとつの音がそれだけで価値をもってくる。



日曜日。
Iさんに誘われてコモンカフェに即興演奏を観に。
ひとから誘われて即興聴きにいくというのははじめてのスタンスかもしれない。
ラドゥ・マルファッティ Radu Malfatti、クラウス・フィリップ Klaus Filip、ノイド noid aka arnold haberl、マティヤ・シェランダー Matija Schellander、リュウ・ハンキル Ryu Hankilのツアー。
トロンボーンのラドゥ・マルファッティ Radu Malfattiは初めて聴いた。噂通りの静謐な演奏。トロンボーンの口に輪ゴムをつけて時折ポンとかペンとか鳴らし、また深く静かな呼吸に戻っていくのが印象的だった。

この夜はとにかく韓国のリュウ・ハンキル Ryu Hankilさんが一番面白かった。
ハンキルさんは、キャリアも長い韓国の即興シーンのキーマンらしいのですが、恥ずかしながらこの夜初めて聴いた。いや、観た、か。ハンキルさんの「楽器」はタイプライター
タイプライターをリズミカルにタイプすると何かがトリガーになって、マイクロチップで回路を繋げたオブジェたちが、スネア・ドラムの上でバタコンバタコン跳ね回る。その無機質な筈の動きと音が、タイプ音の連打と相まってとても生き生きとして聴こえてきた。このツアーでは毎晩デュオの相手を変えているという事だったが、この夜のハンキルさんはラップトップを操作するノイドさんとのデュオ。ハンキルさんのタイプライターとオブジェによるスネア連打の後の静寂を縫うようにして電子音を鳴らすノイドさんと、とても相性が良いように思えた。

終演後、ハンキルさんにタイプライターの仕掛けを見せてもらいながら、「Human Jean Tinguely!」と感想を伝えたら、ニコッと笑ってくれた。以前韓国に旅行したときにハンキルさんと面識があったというIさんとハンキルさんの会話にちょっと混ぜてもらいながら話して、その日はお開き。



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この夜、もうひとつうれしいことが。
会場に半野田拓さんも観に来ていて、物販を見ていたら、Matija SchellanderのCDが良いらしいです、と半野田さんから声をかけられた。長年ファンをしていて目があったら挨拶したりしなかったりですが半野田さんから声かけられたのは、はじめて…(←うれしい)。
「と、いうよりもですね!最近買ったCDで一番良かったのは、半野田さんの5枚組のソロです!」となんとか一言返した。

最近「円盤」からリリースされた5枚組CD(+バッヂ)はショップでは『5CDs』と書いているようですが、僕はこれを『半野田拓(s/t)』と呼んでいます。
7年かけて録りためた半野田さんのソロ音源は、そろそろあちこちで話題になってくるんじゃないかと思います。

突拍子もないまどろみ、イスタンブールの路地から聴こえてくるようなメロディー、意表をついた平穏、飄々として痛烈、フィールド・レコーディングあり、コの字型に浮かぶトーン、ハーシュノイズよりもある意味厳しいノイズ…、どの音のどの一瞬も、凡人ならしがみ付いてこねくり回して延々と引き伸ばしたくなるような感覚に溢れているが、半野田さんは、数分か数秒で潔く手放してしまう。この濃密さに、目が回る、耳がまわる。
言葉が絶対にたどり着けないところでやはり半野田さんは音を作ってきている。

昔、新世界ブリッジが即興演奏家の根城だったころに、僕は半野田拓という音楽家を知ったのでした。半野田さんのギターのトーンにすぐにいかれてしまった僕はすぐに既出の音源は全部買って聴いてしまいなおかつライブで感じるフィーリングとの距離があり、無礼にもライブ後の半野田さんにもっとCD作らないんですかと詰め寄ってしまった(今では絶対言えない台詞です…)。半野田さんがその時なんと仰ったかというと「ライブと音源は違いますから」という至極まっとうな一言だった。

この夜、僕は続けて「待ったかいがありました。」とも言ってみた。半野田さんがブリッジでした会話を憶えて居る筈もないのだけれど、半野田さんは少しはにかんだようだった。



***


ポルトガルデレク・ベイリー系(?)ギタリスト、マニュエル・モタManuel Motaの二枚組『Outubro』(2006)。

一番最近に出たという5枚組は聴けていない。
これは2006年だからかなり時間が経過している。1枚はアコースティック、一枚はアンプを通したエレキギターの演奏が入っている。
モタを聴くのは2作品目で、前はパートナーの女性ダブルベース弾きと録った『"For Your Protection Why Don't You Just Paint Yourself Real Good..." 』というものだったから、かなりこちらの時間も空いた。しかしそのときとほとんど同じ印象。好きな人は好きな音だ(僕は好きです)。個人的にはアンプの小さな囁きも逃さず薄氷を踏むような爪弾きを保っているエレキ盤が好みかな、と。
マニュエル・モタは、Art into life経由でしか情報がなかったので、Youtubeで探ってみるとモタ以外でも面白そうなのを見つけた。


このモタとデュオしているサックス吹きPedro Sousa のバンドも面白い。


Pedro Sousa はたぶんバリトン・サックスを吹いているが、音はとことん微音。バンドの音量も気合の入った抑制を感じる。

ACRE live @ Trem Azul-Clean Feed Store
Pedro Sousaもかなりのユニットをやっている人みたいだが、この↑トリオ、ソニック・ユースを聴いてフリージャズを始めた世代、なのかどうか知らないが、好みド真ん中。ギター+アンプの歪みとサックスが混じり合って盛り上げていく感じ、最高だ。
ポルトガルリスボンか…リスボンといえばヴェンダースの『リスボン物語』で、あれは音楽がマドレデウスでなんだかなあ…という印象だったが、リスボン、マニュエル・モタを始め、こんなミュージシャンが蠢いているんならロンドンよりも面白いかもしれない。

追記))
Pedro SousaとTurntables, Electronicsを演奏するPedro Lopesという人のデュオ・ユニット「EITR」のLP『Trees Have Cancer Too』が最近リリースされたみたい。
かなりおもしろそうだったので、ポルトガルのショップ(上の映像でライブをしている「Trem Azul」というお店)にオーダーしてみた。届くのが楽しみだ。



Mashrooms @ Mittwochs Exakt
こちらもその流れで遭遇した、イタリアのインディー・ロック・オーケストラ『Mushrooms』。かなりキャリアがあるみたいで、3作目にあたるセルフタイトルの新しいアルバムは取り寄せてみたくなった。

最近の就寝前のおとも本。

胞子文学名作選

胞子文学名作選

『胞子文学名作選』。倉敷の蟲文庫田中美穂さんによる選。ものすごく凝った「製本」だけれども、しっとりと入ってくる感触の「造本」。まったくノーチェックだった小川洋子『原稿零枚日記』にのっけからやられてしまいました。つづく太宰治『魚服記』。伊藤香織『苔やはらかに』。谷川俊太郎の詩『交合』は言葉が胞子のように舞い飛び散っている(ここまで読み進んでいるということ)。
それでは。