みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

本厄耳瞬日乗⑤野ざらし骨釣りスローなカセット

6月18日(火)
松葉杖をやめてステッキにして一週間ほど経過。だんだんステッキなしで室内なら歩けるようになってきている。少しずつ復調しつつあることを実感。
早く普通に歩きたい。千里の丘陵を歩いて越えていきたいんです。

6月19日(水)
山森さんから著書『ジル・ドゥルーズの哲学』(人文書院)asin:4409030809をお送りいただいたのが届いていたことを、出勤前に知らされる。
あわてて、そのまま鞄に入れて会社に持っていきながら読み始める。

ガタリ論文、後半に補論として掲載されている。以前からの『ガタリ・トレーニング』の成果のようで嬉しい。
『ミル・プラトー』の重要概念「リトルネロ」は音楽形式を元にした反復の概念だと思っていたが、少なくともガタリの『機械状無意識』においてはそれに留まらないようだ。もったいなくて通勤時に少しずつ読み進めている。

会社で、月間MVPとやらで表彰される。Windows8対応用の画面をこさえて準備したからという理由だが、なんだかなあ。よっぽど他がなかったのだろうなあ。
就寝前に『倍音』を読み耽る。

倍音 音・ことば・身体の文化誌

倍音 音・ことば・身体の文化誌

倍音と、山森さんのガタリ論文にあった「冗長性」について妄想が走る。

6月20日(木)
雨。
帰りタクる。

昭和元禄落語心中(4) (KCx)

昭和元禄落語心中(4) (KCx)

最近の漫画では『落語心中』が断トツに面白いと思うので、どんな話だったか確認のため、Youtubeで落語をいくつか見る。
柳屋小三冶の『野ざらし』と桂米朝の『骨釣り』。
『野ざらし』も『骨釣り』も、基本は同じ話で、江戸前が上方から派生して、上方はいったんネタ自体が廃れたのを桂米朝が復活させた、と色んなところに書いてある。両者に共通した噺の骨格は、最初に骨を見つけて回向し若い美女の幽霊の訪問を受ける成功者Aと、次に隣の部屋に住む、それを知って二匹目のドジョウを狙って果たせない失敗者Bがいる、という事だろう。そして、単なる諺の教訓話ではなくて、失敗者Bの憎めなさをどう表現するかが落語として面白みになっているのだと思う。
先ず、自分と同じく独り者のAの部屋から女の声が聴こえてくるので、Bが覗いてみたら若い女が来ている。翌日BがAを問い詰めると、来ていた女は、前日回向してやった髑髏の幽霊だという。その話をきいてBも骨釣りに出かける…とこのあたりも同じ運びをしている。
江戸前の『野ざらし』では、Aが侍で、骸骨を見つけて回向するのはA自身によるBに向けた「語り」になるが、上方の『骨釣り』ではAは侍ではなく幇間で旦那につきあって釣りに行き骸骨を見つけるまで落語としてAの視点で「語られる」。Aが家に帰って寺に骸骨を収めた後幽霊の訪問を受けるが、その後、視点は隣から覗いていたBに受け継がれるという形。『野ざらし』ではBが骸骨を釣りに行って果たせないままサゲとなるが、『骨釣り』ではBも骸骨を見つけて回向し、部屋で待った結果、石川五右衛門の幽霊の訪問を受けることになる。という風に、『骨釣り』のほうが、米朝のアレンジがかなり効いているのかもしれないが、濃厚な、というか痛烈なクドさをもった構成になっている。
『落語心中』は江戸前落語の話なので、出てくる噺は『野ざらし』。『野ざらし』の沸かせどころの一つはおそらくBが釣りに行くときの上機嫌ぶりだが、漫画の中でも上手く表現されている(と思います)。
 


6月21日(金)
雨。
帰りに2ヶ月ぶりに堀江の中古レコード店『○か×』に寄ると、ずっと探していたCDを発見。

伝説的な1981年のフレッド・フリス初来日の時のロフトでの、突然段ボールとのセッション。セッション2(12分)とセッション3(20分)が収録されている。なぜセッション1が収録されていないのかとても残念だが、蔦木栄一氏がオルガンを弾くセッション2が特に好きだ。即興演奏に限らず良い音楽を聴くと自分もエア楽器で参加したくなってしまうものですが、このセッションもそういう空気があふれている。
しかし、20%引きという『○か×』さんの会員サービスはとても有難いです。

Christian Wolff: 8 Duos

Christian Wolff: 8 Duos

最近の室内ヘヴィーローテーション。
昨年ロンドンのロイヤルアルバートホールでのJohn Cageフェスでご本人に会えてしまったChristian Wolff作品の新録音『8 DUOS』。女性パーカッショニスト、Robyn Schulkowskyが、フレデリッゥ・ジェフスキのピアノ、ジョーイ・バロンのパーカッション、そしてヴァイオリン、トランペット、チェロ、最後にはウォルフ自身のメロディカなどと8つデュオを組んでウォルフ作品に取り組んでいる。
どんな小さな音の気配も逃さずに、しかしどこかユーモラスでもあるジョーイ・バロンとのデュオ2つが先ず良いし、ジェフスキのピアノとの絡みも秀逸。ウォルフのメロディカとの間歇的でありつつ、「音楽」が漲ったデュオも聴きどころだと思う。
2000年代初めのMODEからのウォルフ作品集リリースラッシュから割と継続してウォルフ作品は良い演奏・録音に恵まれていうイメージがある。おそらく録音のたびにウォルフが演奏者と音楽を立ち上げることに真摯に向き合っているからだと思うし、演奏者の自発的な創意を促す、というよりはそれが無ければ成り立たない楽曲をウォルフ自身が書いてきたからだろうと思う。ウォルフの音楽が政治的なのだとすれば、まずそれは作曲家と演奏者、そして聴衆との間に、民主的な関係を音楽が奏される間架橋するためにあるのだ、とも思う。



6月22日(土)
LAFMSの紹介者であるT坂口さんとソルマニアの大野さんによる『スローなカセット魂』が複眼ギャラリーであったので覗きにいく。

一部は坂口さん持参のカセットから

・竹田賢一のピナコテカから出ていたカセット。大正琴のソロ。デレク・ベイリーの如き大正琴を初めて聴く。
・トム・レッシオンのクルト・シュヴィッタースの『原音ソナタ』を素材にしたコンクレート作品。
・トム・レッシオンの10ミニッツ・インプロ・フェスに送付参加したテープ。シンバルにギター弦を張ったもの、そしてそれを再生スピードをスローに変えたもの。
・ピナコテカ・レコードのカセット。五十嵐えりこ 三曲 早川義男のカバーあり。

ここでゲストに階下のJOJO広重さんが参加

アルケミーレコードサンプラーカセットのおまけトラック
・アーントサリー79年京都ライブ音源    ・螺旋階段

二部 大野さんのカセット

ハナタラシtake back your penis?
・当時、山塚アイが会いたいといっても会ってくれなかったという編集人による一本6000円だったという伝説のオムニバステープ Beast 666 Tapes 85年に完全限定で出たカセットからソルマニアやその直後にポンチャック?らしき怪しい音。ボアダムスの初期、トランスのオムニバスに収録されたもの、金沢のアジェンスメントの金属的かつ植物的なドローン(これは完全に現在でも有効な音)。と、ここまでBeast 666 Tapesから。
・すべてを人骨で演奏したという怪しいテープ。

このあたりから第三部になって大野さん坂口さんが交互にカセットをチョイス

・第五列のDEKU氏による「ビニール解体工場」
・クランプスのカセットシングル
・ギター用アタッチメント「e-Bow」の取説カセット(!)。通常ギタープレイヤーが再現不可能な「e-Bow」プレイ(大野さん談)が怒涛のように繰り広げられてました…。
マタギ 84年  ・イディオットオクロック89年エッグプラントでのLIVE
・最近復活してるらしき、Camper Van Beethoven絡みのバンド、Box O' Laffs
・アマリリス88年
・ドゥドゥエッツのメンバーとノイバウテンアレクサンダー・ハッケの「フレンドシップパゴダ」
・阿部怪異  ・メルツバウ初期  ・John Duncanとメルツバウ
・フォークテイルズ  ・ハフラートリオ

・・・と、メモできたのは以上のような感じでした。
大野さんが仰っていたのは、物によってはカセットテープの耐久性は、CDよりも良い場合があるというのは、チューバ奏者の高岡大祐さんも同じ事を仰っていたのでやはりそうなのかと思った。あと、これもテープによるだろうけれども、テープ独特のコンプ感と高音と低音の分離再現具合への言及は流石だなあと。カセットレコーダーの録音モードを空押ししてステージでコンプレッサーとして使っていた人もいた。
あと、音源を聴くというのは、その中のその人の音楽(演奏)を聴くということでもあるけど、前提としてその人が聴いたものを聴くという事、という当たり前のことに気づかされた。もうちょと掘り下げて考えてみたいことではあるが。

6月23日(日)
シトシト雨が降ったりやんだりの一日。
昨日届いていた、WカセットデッキをPCにセットアップし、もうひとつ、この日にヤマト便で届いた「カセットデンスケ」TC-D5M の具合をみることに決めていた。充実の一日。