みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

軋轢という名のロックバンド:FRICTION THE BOOK

FRICTION The Book フリクション・ザ・ブック DVD付

FRICTION The Book フリクション・ザ・ブック DVD付

ロックバンドというもん自体に最近必要性を感じられず興味がますます減退していく過程にありますが、やはりフリクションだけは別、としておきたい気持ちがある。その点にこそ驚いてしまう。この「フリクション本」もこの唯一無二のバンドをめぐるそんな特異な空気が凝結して出来ている。
としても、ここ数年の間フリクションについて書かれてきたことは、どうも褒め方も似たり寄ったりになる傾向があるように思えるので、この本もレビュー類だけならいまいち興味がわかなかったろうが、しかし、付録の「1980年当時のライブ映像DVD」というのがハートをわしづかみに(『’79ライブ』についてた映像は結構ツライもんがあった)。
というのも生まれて初めて行ったライブが、『レプリカント・ウォーク』リリース時のフリクションだったのですよ。心斎橋のミューズホールだったかと。唯一「軋轢」から演奏された「BIG-S」の迫力は今でも憶えています。当時フリクションを知っている友人は皆無(当たり前か)でした。一番マニアックな人で「筋肉少女帯」だったなあ・・・寂しかったなあ・・・。
よく1st『軋轢』asin:B00005JZMNは全盛期のライブのダイナミズムを捉えきれていない、という当時を知る人のコメントが書かれるのが常套になっている感があって、確かに当時(80年くらい?)を知らない身としてはなんにもいえないが、ちょっと抵抗も感じてきました(やっかみですね)。
付録DVD収録の「RECK+ツネマツマサトシ+チコヒゲ」のトリオでの80年の演奏を観てみる。
たしかに、速い。
それはやかましいだけでなく、スピードに殉ずる心意気がある種のストイックさを醸していて、それに感じ入ってしまう。「否」の表現として、これほど格好良い顕れかたはないように思える。カメラの具合が変なのか、RECKの姿がよく残像になるのが、また異様なスピード感を増長する。どの曲も、演奏途中で映像が終わってしまうのが恨めしい限り。
これを生で観た経験から『軋轢』を聴くと、確かに坂本龍一によるダブっぽく冷えた音像は、バンドの迫力を十分には生かしきれていない、となってしまうのかもしれない。それはわかる。
ただ、これはこれで的を射たプロデュースなんじゃないかと思うのも、案外単なる開き直りではないのではないかなと思う。この冷蔵庫の中で演奏しているようなバンドの音は、金属的に跳ね回っていてどことなくエロティックな爬虫類みたいである。
それは自分が、この後にリリースされるツネマツマサトシ名義のソロEPやチコヒゲのソロ「キラーウッド」や「TRAP」(再発せんかな〜)を気に入っていて、これらの作品をただポスト・パンクの非人間的なインダストリアル風味とする印象は浅いなあと思っているからでもある。少なくとも自分にとっては、これらの作品の冷えた肌触りは、十分イマジネイティヴでユーモアすらも感じていた。
はじまりにその種が含まれていたからこそ、そしてRECKの以下のような肩の力の抜けた台詞までもどうしようもなく腑に落ちてしまうからこそ、今も多くのファンが次のアルバムを待ち焦がれているのでもある。

うん、たかがエイト・ビートだ、でもそれの本当の気持ちよさをタッちゃん*1は知らないんじゃないか。あるときオレは、エラそうにそう思った。オレは再びエイト・ビートに戻っていたからね。じゃあオレとやったらエイト・ビートも面白いって思うかもしれないよ、一緒にスタジオに入ってみるかって、タッちゃんを誘って、結構ガンガンなエイト・ビートをやってさ。で、どうだった?って訊くと、気持ち良かったって(笑)。

FRICTION THE BOOK p.62

みんな大好き、フリクション
で、この「フリクション本」ですが、もし難癖つけるとしたら、ツネマツマサトシ氏のインタビューだけが無いことくらいでしょうか。