みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

冬のオーガスト:Sarah Jane Morris『August』

August

August

2001年に何故かイタリアのレーベルからリリースされたアルバム。サラ・ジェーン・モリスとギタリストのマーク・リボーと数人のミュージシャンとでロンドンのスタジオでたった3日間で録音された様子。カバー曲が中心で、ニック・ケイブレナード・コーエンジョニー・サンダース(!)、ジャニス・ジョプリンカーティス・メイフィールドマーヴィン・ゲイビリー・ホリデイジョン・レノン・・・等の洋楽好きにはたまらない選曲を、割とドスの効いた低めの声で歌い上げ、「歌」の心を掬い上げているかと。多分全曲彼女のオリジナルではピンとこなかったであろう歌の表現力が、とてもわかりやすく伝わってくるのも狙い通りでしょう。
リボーのアコギの伴奏も、『Don't Blame Me』asin:B000009Q8T『Saints』asin:B00005NSQWラした前衛ジャズタッチが信じられないほど(だからこそ、か)繊細で穏やか、歌のあくまで付き添って雰囲気を作っている。
といっても、しっとりと聴かせるという風では案外なくて、「女トム・ウェイツ」といえそうなところをぎりぎり踏みとどまりつつ、しゃがれ声から感極まったような声、喜びに満ちた声まで、表現力の幅が広い、といえば陳腐だが。相当あくが強い声なのに、それでいて強弁めいた聴こえ方にならずに、豊かさになる。
たとえばジョニー・サンダースの「You Can't Put Your Arms Aroud A Memory」。ハートブレーカーズの「LAMF」とか「DTK」のステディなパンクロックの面が圧倒的に語られることが多かったけれど、時折聴かせるアコギ一本の歌は他とは隔絶とした寂しげなロマンティシズムがあった(アコギ一本の元祖宅録(?)『Hurt Me』も忘れられない)。サンダースのどん底のよれよれ状態から搾り出されたこのセンチメンタルなメロディーが、このアルバムでサラ・ジェーン・モリスに歌われ、マーク・リボーに伴奏されることで、なにかが成就したような気分にさせてくれる。このしんみりから一転して次のジャニス・ジョプリンの「Piece Of My Heart」は、レゲエ風の幾分コミカルなアレンジで、ジョプリンのブルースの絶頂感を確実に押さえながら、サラ・ジェーン・モリスの歌いまわしには見事な抑制を感じれる。
ジャケットやインナーのブックレットのモノクロ写真もなにやら「コーヒー&シガレッツ」といった風情で、真冬に聴いても乙なものかと。
So Alone

So Alone

「You Can't Put Your Arms Aroud A Memory」のオリジナル初出はこちら。ここまでエレキギターでヨレヨレと弾けるのかという驚きがまずあるが、しかし、明らかに後年の『Hurt Me』の方がこの曲の心象にはふさわしいようにも。ガンズ&ローゼスもカバーしてたなあ。
Cheap Thrills

Cheap Thrills

そういえばジャニスもカバー多い人だったかと。
身も蓋もないが、聴く方としては「うた」に関しては、別にその人のオリジナル作詞作曲である必要は全くない。「歌いっぷり」でうならせてくれれば、それでいい。それさえあれば十二分ですら、ある。