みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

いくつかのライブとJohn Tchicai

4月23日

EpokであったNewManukeなども出演した企画ライブで初めて観たイトケンさん。
途中の機材の不良があったみたいなのだけれどイトケンさんがそう表明するまで観客の誰もそうと気づかなかった。小さな音素材を生で演奏してループを積み重ねて音楽が自生していくようなパフォーマンスだったから、皆うっとりして誰もそれが付随意なノイズであろうとは思えなかった。イトケンさんでしか多分無いような体験だった。

今更ですが…今年のGWはあっという間に過ぎ去ってしまった。
5月2日 バーント・フリードマン@TRIANGLE
連休中日。仕事終わってから知り合いのバーの顔を出して開演まで時間を潰すつもりがついつい長居してワタンベさんの演奏を見逃す。22時を過ぎてバーント・フリードマンがやっとブースに立ったが、なんだかあまりに「白人」な音にノれなくて途中で退散。CANのヤキ・リーヴェツァイトとシリーズ共演していたりで有名な人なんだが残念。帰る直前にワタンベさんと少しだけお話できたのでこの夜はそれで十二分と納得して帰宅。

5月4日 春一番@緑地公園野外音楽堂
今年の春一はこの日だけ。目当ては坂田明ユニット。この日はずっと雨だったのだけれど、坂田明ユニットの演奏中にパカッと晴れたのが、なんとも示唆的な光景だった。坂田さんサックス、ドラム、高岡大祐さんのチューバに高良久美子さんのvibraphoneが入った演奏で浮遊感にvibraphoneは柔らかな楔をうつような効果をあげていた。昨年よりも高岡さんのチューバがよく聴こえた。
ギター一本で出島ステージで遠藤ミチロウも良かった。ナオユキをビートニクスだと言っている若い人がいて感心したが、ビートニクスでは笑えない。

5月5日ECD@CONPASS
はじめてのECDのライブでワンマンライブ。一時間ほどECDがDJをやったあとにライブ。ソニックユースのWashingMachineのTシャツを着ていったら主催者の方に声をかけられた。
江戸前なイリシット・ツボイさんに煽られて会場は汗だく。後半半分以上は知られているレパートリーだったと思う。新作からは「まだ夢の中」も演奏していた。それにしても「ポッケにロック」(Rock in my Pocket)っていいフレーズだ(Stoogesにたしか「Cock in My Pocket」という曲があったがもしや…)。歌いだされると同時になんとも少年な気持ちが爆発してしまう。


一言一言音の中に叩き込むようにして言挙げするECDはどんなラッパーとも異なっている。異なっているけれども根源的だ。観客も年齢的なレンジが広いし単純なヒップホップヘッズらしき人をほとんど見なかった。

ドント・ウォーリー・ビー・ダディー

ドント・ウォーリー・ビー・ダディー

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フリージャズをアナログで聴いていきたいという長息な欲求が数年前から継続中。昨年Iさんに出会うことでさらに火が点いてしまった。

こういう新書まで出てきて、さらに気分は勝手に盛り上がっている。この新書、タイトルにはそれらしき文句が混ぜられていないけれど、中身は徹頭徹尾フリージャズ入門・紹介書になっていて頼もしい。
別にこの本を読んで、というわけではないけれど、ここ数ヶ月でジョン・チカイを2枚聴いた。ジョン・チカイという人はどうも捉えどころのない人というイメージのようだ。そういえばあまり参加盤も聴いてきていない。
John Tchicai
HARTMUT GEERKEN, JOHN TCHICAI / The Kabul and Teheran tapes (2LP)

AB面はカブール、CD面はカブールの音源にテヘランでのライブが混ざる。美しいモスクの扉の中にモノクロのコンサート風景の写真が半ば無理矢理嵌め込まれているジャケットをパララックスレコードで見つけた時はこれはただ事ではないと思った…これはイタリアのレーベルからリリースされたジョン・チカイとHARTMUT GEERKENの1977年のデュオライブ。2009年本盤のリリースで初めて陽の目をみたテープらしい。
HARTMUT GEERKENという人ははじめて聴くが、ミュージシャン、文筆業、役者とただならないキャリアのある人の様子。ミュージシャンとしてはサン・ラとも共演している。ドイツ人のようだが、裏ジャケットの日焼けした長髪のなりは国籍不明の妖しげな人である。バイオによれば、アラブ、トルコ、ペルシア語に堪能だったGEERKENは60年代〜80年代にかけてゲーテ・インスティチュートに雇われてカイロ、カブール、そしてアテネなどを転々としていたようだ。このアルバムもカブールに居た頃にチカイを招いて催されたライブなのかもしれない。この時代にはチカイともう一人、Don Moyeとの三人の録音もあって、そちらも有名なようだ(African tapes)。
音のほうは、いわゆる「ど」フリーとはいえない。フリーだけでなくジャズも度外視して美しい音楽といっていい。
A面のGEERKENのピアノにかすみのように絡んでいくチカイのサックス、とりとめない観想が緩やかに走っていく。疾くはなくしかし歩いているわけでもなく(それが音楽だ)。ピアノ、ピアノ弦(内部奏法?)、プリペアド・ピアノ、パーカッション、サン・ラから譲り受けたというSun Harp、短波ラジオ、親指ピアノ、京劇の銅鑼…等を駆使するGEERKENがかなり前面に出ている。C-1では深い残響が鳴る中、訥々としたパーカッションが鳴らされて、もはやどちらが何を演奏しているのかまったく判別できない。D-1ではいきなり達者なブギウギピアノの上をチカイもブロウがのりまくる…と思ったら次第にピアノは偏執的な反復マニアの症状を呈してくる、なんなんだこのアルバム…(←嬉しい)。
Wavelength Infinity: Sun Ra Tribute

Wavelength Infinity: Sun Ra Tribute

この90年代に出たサン・ラのトリビュートアルバムにGEERKENも参加していたらしい(チカイも!)。GEERKENはここでもSun Harpを使っている。自分の耳はThe CocktailsとKen Vandermarkの共演、Malcolm MooneyやThe Residents、Miss MurgatroidやThurston Mooreそして何よりTri-School ArtestraのヘロヘロなPlanet Earthにかまけていたのでまったく知らなかった。まだ自分のCD棚に残っているだろうか。

Live in Athens(LP)

上の盤の少し後、1980年にギリシャアテネで開催された 「Praxis Jazz '80' festival」でのチカイのソロパフォーマンスをまるごと録音したライブ盤。
チカイのソロは、わかり易い哭きのメロディーがあるわけではないし、この頃だからかもしれないがブロウも力任せのエナジーミュージックというよりはどこか力の抜けたフレーズを延々と展開させていくところは少しスティーヴ・レイシーにも似ている。フリークトーンよりは中音に丸みがあって特徴的だと思うのだけれど、妙なフレージングを意図的に頻繁にするのでやっぱり定まらない印象がある。
この盤の白眉はB面2曲に収まっている観客との声の掛け合いから「一曲」作ってしまった「Frobenius Stomp」。リラックスしたムードで、「アテネ!(おそらく)」と叫びを連呼して客にも叫ばせ、妙なヴォーカリゼーションをしてみせてこれもお客に歌わせる。これを繰り返してお客をルーパー代わりにしてしまってからアルトの高い音色をかぶせていく。音楽って、こういう事でもいいのではないかと思わせる瞬間が刻まれている。