みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

師走の解像度

12月の日録になります。
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7日(金)
退社後に十三の七藝に立ち寄って、上映最終日だった『スケッチ・オブ・ミャーク』を観る。

スケッチ・オブ・ミャーク

スケッチ・オブ・ミャーク

MYAHK 宮古 多良間 古謡集1

MYAHK 宮古 多良間 古謡集1

初めて知ったのですが、宮古島の「ミャーク」とは「人が住む」という意味らしい。「人間」を意味する「アイヌ」と似たところがある。人間が認識している「環世界」という意味なら、「現世」とも近く呼び合う言葉だろうか。

9日(日)
えらく寒い日。午後に、箕面から池田まで歩いてみる。
以前、天神の古本市で知った古書肆が池田に店舗を構えていると知ったので機会があれば探してみようと思っていたのだった。箕面市役所の筋から池田市に道一本で向かうと、五月山のドライブウェイ上り口をかすめるようにして池田市役所前の国道176号線に出るが、付近に古本屋は見当たらないのでスマホで確認すると、ずいぶん石橋駅方面に戻るようだった。
国道沿いの吹きさらしの駐車場の奥に、年季の入ったプレハブ倉庫がひとつっきり建っていて、そこが探していた古書肆だった。
近づいてみると窓ガラスごしに中を見ると、雑然と古本が積まれた倉庫である。ドアをカラカラと開けてみるとモジャモジャな頭の初老のご店主がいらっしゃったので「みせてもらっていいですか?」と声かけて入る。「出品があったばっかりだから散らかってますけど」との事だったが、もっと年季の入った雑然である。棚に差された本と床に平積みにされた本たちが銘々勝手に放射するキュビズム的角度の交差に由来する「雑然」の中に分け入ると、それら平積みも大まかにジャンル分けされており、行き届いた「雑然」であることがわかってきて、目は背表紙を物色し始める。



ミュージックマガジンの1980年10月号があって、中を開くと、竹田賢一によるインプロイベントのレポートと、サンフランシスコのアングラバンドシーンの芳醇さを伝える特集記事が。



左ページ上は「エアウェイ」。右ページ橋はハーフ・ジャパニーズの1stEP。となりはジョン・ダンカン『オーガニック』。

左ページ上はデニス・ダック。
LAFMS界隈の事はもちろん、ここでは「スクリーマーズ」が新人バンド、と書かれていたりする。LAFMSのジョー・ポッツ情報提供による脚注のほうが本文よりも明らかに分量が多い凄い記事。

後日、入手した、電子音楽作家の石上和也さん編集による音楽雑誌『音人(ONZINE)』に、「アクスモニウム」特集。

自分はこれまでこの記事で説明されているものは大雑把に「ミュージック・コンクレート」なのだと思ってきたが、違っていたみたいだ。音源のみではなく、音源の再生空間についても作品として掲示する手法、ということなのか。そしてT・坂口氏によるLAFMS記事。凄いヴォリュームである。
LAFMSは未だ「歴史」になってはいない。昨年、複眼ギャラリーで観たリック・ポッツのパフォーマンスの柔軟さはそれを教えてくれました。


古書肆を出て、寒い中、石橋まで歩く。箕面→池田→石橋と北摂をさまよい歩いたことになる。石橋の商店街に入るとほっとする。「あほや」のたこやきを買って店中のベンチでふうふう言いながら食べていると、おばあさんに手をひかれた幼い女の子がこちらをというか手元のたこ焼きを見ている。次に女の子をする事をこの時点で僕ははっきりと予測できたのですが、その通り、女の子はおばあちゃんを見上げて「たべたいー」とたこやきをねだったのだった。おばあさんがたこ焼きを発注しているあいだ中女の子はこちらをというか僕のたこ焼きをまだ見ていた。
目の前のものを欲しがるのと、実際手に入れることの違いってあるよなあと考えた。


次の週、忘年会的なものが続く。ずいぶん早い忘年会に感じる。毎年こんなものだったろうか?

22日(土)
3連休初日。翌日のafuでのライブに備えて、お酒類の買い出し。

22日(日)
afu「ブライト・モーメンツ」ライブ当日。
9時に車で買い出したものを心斎橋のafuに搬入。DJやっていただけるIさんとも合流。ビル屋上のafuに機材や酒類を運び込み、とりあえずそれぞれ車を自宅に置くため一時撤収。トンボ帰りで今度は阪急・地下鉄と乗り継いで11時半には再びafu入り。テーブル設置、DJ機材設置などなど。
両替するためにパチンコ店に入るがやり方がわからない。しょうがないので本屋に入って500円以下の文庫を万札で購入して崩す。その時何も考えずに値段で購入したのがこれ。

アマニタ・パンセリナ (集英社文庫)

アマニタ・パンセリナ (集英社文庫)

ECDの本で触れられていたが読んではいなかった一冊。この週通勤時間に読んでいるが、ぐだぐだのラリ中ばなしが何故かペース・メイキングしてくれる。
14時半に演者さん到着。リハ。
16時から予定通り開場。フードのHさん到着。17時過ぎに開演。ぎりぎりに直前まで仕事で来られないときいていたKさんも来場。Kさんは昨年はじめてafuでやるときにIさんや演者さんに紹介してくれた恩人だけに、ブライト・モーメンツをafuで観て欲しかった。高校来の旧友H(フラワーデザイナー)、また、和歌山に引っ越したうどんとコーヒー好きのS上さんもわざわざ来てくれた。中津のI佐さんともうひとりのS上さんも、その日の昼にあったベアーズでの「渚にて」のワンマンライブのあと来てくださった。
1部終了。2部終了。どちらもぶっ通しの即興演奏。ブライト・モーメンツの特徴である作曲と即興の混淆、というのではなく完全な即興。橋本さんのドラムは見るたびに凄くなってきている(と感じる自分がいる)。高岡さんのチューバも。トランペットの有本さんはこの日、バスクラリネットも持参してくださって、このバスクラの音が好い音で鳴っていた。
2部の終盤には有本さんのトランペットからホワイト・クリスマスのメロディーが滲み出るようにして流れてきて思わずニヤリ。
afuの室内から、デッキ上で演奏している3人を見ると、ものすごくかっこいい。写真に撮りたくてしょうがなかったけれど、この格好いいというリアルな気持ちが定着できるわけではない、我慢しました。
開演時間にはすっかり寒くなってきていたので、完全に密閉できないafuはかなり寒かった。4パック買ってあった缶ビールはほとんど出ない(当たり前だ)が赤ワインと焼酎お湯割りが飛ぶように出る。そのうえ、ご希望の方にフリーでお出ししようと思っていた手製ホットジンジャーも量が少なくて行き渡らなかった。
モーメンツの演奏は17時過ぎに始まって休憩をはさみ、19時半には終了。あとはDJタイム。NICHEさんが曲をつなぐたびに、「これ何?」とブースにできる人の壁。Hさんの手料理に舌鼓をうちながら、音楽好きたちの時間が11時半まで続きました。
終電の時間になってしまってやむなく解散。片づけは次の日(afuお休み日)に回すことに。自分は近所のカプセルに泊まることに(昨年もそうでした)。


終演後、お客様のひとりから、afuでのライブの風情がNYに似ているとのコメントを頂きました。また、演者の高岡さんからも今回のafuでの生演奏あり、DJあり、フードあり、という形がベルギーでのパーティーに似ているともおっしゃっていただきました。NYもベルギーも、自分は行ったことがない場所。自分としては、聴きたい音楽を聴きたい人たちと聴きたい場所で聴ける場をつくる、ということしか頭にない。それに対して頂いた評価として、何だかとても嬉しいのだった。


24日(月・休)
アメ村のカプセルホテルで起床後、9時半から、afuで昨日の片づけの続き。箕面には帰らずそのまま中津のI佐さん宅にて、クリスマス・パーティー
普段は甘いものを食べないがこの日出たケーキはどれも美味しく最後まで食べることができた(昨年は3個半で脱落)。それと合間のS上さんの淹れてくれたコーヒーの「ちょうどよさ」。会いたい人には皆会えた感じでやっと帰宅。

25日(火)
クリスマス。23日の興奮をひきずったまま、この日は堀江Futuroで「ボイラーズ(高岡大祐tuba×ワタンベdrum)+天田透flute」。ボイラーズのお二人は、ボイラーズとしてのライブは久しぶり。ボイラーズのお二人でしか成り立たない即興グルーヴ(というか目の前のグルーヴが生成するのを体験できる)に、はじめて拝見する天田透さんの、アンプリファイ&リヴァーヴされたコントラバス・フルート、バスフルートの音が加わって、最高の甘美な破壊力が持続するという、最上の音楽でFuturoが満たされていた。
間違いなく今年のベストライブの1本。

ベルリン

ベルリン

天田透さんのソロ。サインも頂きました。

26日(水)
25日の興奮をひきずったまま、この日は中崎町のコモンカフェで、江崎さんと高岡さんのデュオ
ワタンベさんも観に来ておられて、前日の感動をお伝えしました(迷惑だったろか)。演奏に対する想いとかお伺いできてとても面白かった。
江崎さんが高岡さんを招いてのデュオとの事。はじまりからおわりまで、楽器の音はもちろん、江崎さんがトランペットのピストンバルブをカタカタ言わせる音、高岡さんがチューバではなしに(チューバを吹き始めたのは15分くらい経過してからだったと思う)脚の肉離れのために持っていた杖を笛にして吹く音、カフェ店外から周期的に聴こえるJR環状線高架の電車通過音、生起する音すべてが濃密な演奏として観客に迫ってきた。
日曜からこの数日間連日で高岡さんの充実した音楽を堪能させていただきました。っどの夜もはっきりと音楽性は異なっていたけれど、演奏にあふれる音楽への愛情、その激しさ(もちろん音量のことではない)と純度・密度に、もはや言うことなし。
心おきなく年が越せる想い。
会場で渡された年明けの江崎さんのソロのフライヤー『図鑑朗読とボールペンソロ』。はっきりとした美学が息づいている。

29日(土)
Iさんの年末行事「音忘」に参加する予定。