みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

『雯(ぶん)2010』@心斎橋クラブ・クアトロ

nomrakenta2010-04-29


進行役しておられた森本アリさんがいみじくも仰っていたように、これは自分にとっては、「ブリッジ同窓会」と思って観に来たし、そうも感じた。そして決してブリッジのあの場の空気は戻ってこないものだとも実感できたイベントになりました。と書くとおもいきり後ろ向きのようですが、そうでもなく、クアトロに来るのは数年ぶり(2001年くらいのドクター・ジョン以来)だったので結構新鮮な想いもお持ち帰りできたものでした。

『雯(ぶん)』は、ブリッジのPAマンだった奥成氏の2006年にお亡くなりになったご息女から。4周忌イベント。ちょうど自分がブリッジに通い始めたころが2006年の暮れなので、そのころすでにブリッジはある悲痛さのなかにあって、しかもそのあと一年も経たないうちにブリッジという場所そのものがなくなるという過酷な運命とおそらくはその予感のようなものの中にあったと想像できるのですが(と書くのもおこがましいのですが…)、自分はそんなことはまったく知らず、ただ新鮮な音楽を呼吸することだけに夢中だったし、今もそれしかできない。でもそれでいいのだとも思っています。


ライブは、「どうしても参加したかった」と口火を切った「neco眠る」のENGAWAファンクで幕を開け、奥の一角に設けたサブステージを挟みながら進行。おかげで幕間に退屈することなく過ごすことができました。以下、すでに正しい出順がわからなくなっていますが、印象深かった演奏をピックアップ。

ふちがみとふなと千野秀一」//4月のはじめに「ロック食堂」でワンマンを観たばかりでしたが、「(ぶん)」ではピアノに千野さんを迎えての演奏。「ロック食堂」で聴いたレパートリーが多かったけれども、千野さんのピアノが入ってまた音が拡がって、渕上純子さんの唄の良さが際立ってもいた。

「川端稔」//サイドステージでおもむろにはじめられた異能のひと川端さんのソプラノサックス(たぶん)ソロ。虫の声とか擬音語とかを、サックスで音声模写してみたというような、どれも短い演奏だったけれど、音の切り立ち具合が地味に凄まじい。スティーブ・レイシーより凄いかもしれない。


「popo」//定番感のある(、そして日本が世界に誇れる、と思う)チェンバー・ダブ・トリオもサイドステージ。popoの演奏中は子供が楽しそうで、大人はニコニコしているのは、ブリッジの頃から変わらないことである。ジャド・フェアーがpopoの演奏に接して狂喜した、というエピソードを知ってから、popoを観る自分のよこにはジャドさんがいる(ような気分、ということ)。


「音遊びの会」//近日映画も上映されるそうで、そちらも楽しみですが、かなりダイナミックな展開だった。バラバラな演奏が次第に一つの律動を持ち始めるところは、おそらく万人が共感できる音楽的な興奮があるのかと。


「WON JIKSOO+梅田哲也」//これもサイドステージ。予想を裏切り期待に応えた感あり。いきなり二人で相撲を取り出す「1曲目」から、エコーをドブドブ効かせて即興的な風呂場トーク〜即興絵描き歌などなど。途中、popo江崎氏を駆りだして「ジャズかズージャーか?」論争に持ち込もうとするWON氏に対する「僕、ジャズじゃないから」との江崎氏の返答は今振り返るととても含蓄があったりなかったり。即興的な「むちゃ振り」に互いが即応しあうというのは「即興演奏」の基本的スキルなのでしょうが、それを演奏でなくて会話でもできるはずという趣旨。しかも、その「むちゃ振り」を観客にまで波及させようというWon氏の意図が見え、これはとても凄いことではないかと、今にして思います。ああ書いていて楽しい。ま、梅田哲也のしっとりとしたソロ演奏も聴きたかった思いはありますが…。


トリの「かきつばた」//これも4月に中崎町で西川文章+半野田拓のセッションを聴いてからとても聴きたかったバンド。今回は「ウリチパン郡」からオオルタイチさんとYtamoさん、それと三田村管打団?の管奏者3人が合流した豪華バージョンでタジ・マハールの「The Real Thing」ライブにもどこかで通じる至福のポストロック・オーケストラ。そういえば「かきつばた」のアルバムって見たことがない。

そのほか//オシリペンペンズ井上智士。DODDODO。三田村管打団?。山本精一

どのバンドも、いつもとは違う編成で別の顔をみせてくれていた。「ぶんちゃんが好きだったバンド。ぶんちゃんを好きだったみんな」によるイベントであることがやっぱり伝わってきた。
最後に奥成夫人が「わたしたちの「ぶん」は、もうみんなの「ぶん」になっていて、それをわたしたちはわりと客観的にみています」と仰っていたのはおそらくとてもいいことなのだと思う。



最後の写真は、「かきつばた」演奏時のステージ前。大きな背中は森本アリさん。音楽とこどものとりあわせって、いつも僕に絶対的な安心感をもたらしてくれます。