アメリカのWeとYou:モーガン・フィシャー編集の1分小品集『Miniatures one+two』
バラク・オバマ氏の勝利宣言を聞いていると、「We」あるいは「You」を巧みに使い分けて、アメリカの「主体」を形成しようとしてかなり成功しているのだなと思って、そこに感銘を受けた。
で、最後の部分をちょっと訳してみました。
America, we have come so far. We have seen so much. But there is so much more to do. So tonight, let us ask ourselves – if our children should live to see the next century; if my daughters should be so lucky to live as long as Ann Nixon Cooper, what change will they see? What progress will we have made?
ああアメリカ、思えば遠くまでたどり着いたものです。われわれはこれまでにとても多くのことを見てきました。しかし、それ以上のことをこれから成し遂げなくてならないのです。だからこそ今夜、われわれ自身に問おうではありませんか。もし、わたしたちの子供が次の世紀まで生きることができて、たとえばわたしの娘が幸運にもアン・ニクソン・クーパーと同じくらいに長生きできたとして、彼らはどんな変化を目にするでしょう?そのときまでにどれほどの進歩を我々は成し遂げているのでしょう?
This is our chance to answer that call. This is our moment. This is our time – to put our people back to work and open doors of opportunity for our kids; to restore prosperity and promote the cause of peace; to reclaim the American Dream and reaffirm that fundamental truth – that out of many, we are one; that while we breathe, we hope, and where we are met with cynicism, and doubt, and those who tell us that we can't, we will respond with that timeless creed that sums up the spirit of a people:Yes we can.
その問いに答えるチャンスが今なのです。今こそ、子供たちの未来に向けて扉を開け放つために、もういちど一丸となって取り組むための、その瞬間なのです。繁栄を取り戻し、平和を創成し、アメリカンドリームを復古し、「多から出でて、一である」という原理の真実を見つめ直しましょう。息継ぎしながらでも我々は希望を抱くことができるのです。そうであってこそ、わたしたちは、シニシズムや疑念や「そんなことできるわけがない」という人たちに出会っても、人々を束ね続ける不変の教えをもって、こう答えることができるのです。「そう、わたしたちには可能なのだ」、と。
初のアフリカ系の合衆国大統領という、それ自体変化であることを差し引いても、勝利者を「あなたたち」としながら、前途の多難さもしっかりとアピールする。アン・ニクソン・クーパーという106歳の投票者の人生を軸にして、アメリカの現代史を「わたしたち」の実績として、おさらいしてみせ、共有財産として掲示してみせる。勝利宣言としてこれほど気品があって卆ないものはなかったような気がします。
先週からジャック・アタリの『21世紀の歴史』を読んでいたのですが、これの日本語版への序文を読むと、日本(東京)は80年代に市場民主主義の「中心都市」になるチャンスがあったにも関わらず、それをモノにすることができなかったと、軽く一蹴してある。
- 作者: ジャック・アタリ,林昌宏
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オバマ氏は、機会の扉を開け放つといっているが、この扉は、絶えず複数でパラレルに開かれているものでなければならない筈なのだ。
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- アーティスト: オムニバス,デヴィッド・ベッドフォード,フレッド・フリス,モーガン・フィッシャー,ニール・イネス&サン,ロル・コックスヒル
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フィッシャーが尊敬するアーティストたちから、手紙やFAXや、わざわざテレコを持参したりして1分の音源を集めた小品集で、1980年のものには、レジデンツ、ハーフ・ジャパニーズ、ロバート・ワイアット(個人的に忘れられない官職のものがワイアットのこの『Ranger in the night』)、デビット・ベッドフォード、ロル・コクスヒル、ロン・ギーシン、マイケル・ナイマン、ヘクトル・ザズー、デビット・カニンガム、ギャビン・ブライヤーズなど、アヴァンギャルド系が多くて(大好きですが)、デュシャンの自作のミニチュアをおさめたトランクなんかを引きあいに出しているところや、誰の音源か確認できていないのだけれど、クルト・シュヴィッタースの『原音ソナタ』をカヴァーしているものもあったりで、短い断片同士のダダ的な小宇宙加減が他では得難いものでしたが、はじめて聴く2000年のものは、時代とフィッシャーさん自身の変化を反映してか、音源を寄せているアーティスト自体も、ジョン・ポール・コーンズ、リントン・クウェシ・ジョンソン、テリー・ライリー、メレディス・モンク、ロバート・フリップ、ペンギン・カフェ・オーケストラ、ヘルメート・パスコアル(特にパスコアルが浅草の市場の活きのいいおじさんの声に鍵盤ハーモニカ?の音をプカラ♪プカラ♪と当てて音楽化してしまうのが新鮮な驚き+秀逸な印象。浅草のおじさんのイントネーションに、日本語のわからないパスコアルは絶妙な音楽性を見出している)、宮沢和史、ムーンドッグ、加藤登紀子、ジェーン・カンピオンなど、アヴァン系に捉われない、いい意味で風通しのいい感じで音源にもそれが出ていると思う。1分ずつの稚気に充ちた断片たちが折り重なって繋がっていく感じは1980年も2000年も共通だけれども、その空気の違いがおもしろい。