本厄耳瞬日乗③6月のホケトゥス
5月28日(火)John Russell×豊住芳三郎 & .es(ドットエス)@中崎町コモンカフェ
John Russellと豊住芳三郎さん。
昨年夏にロンドンのVortex Jazz Clubでも堪能したこのデュオ。
こんなに早く日本で観れるとは…。
共演の .es(ドットエス)のお二人から一部開始。リードをつけた尺八のソロが壮絶な響き。
二部よりJohn Russell×豊住芳三郎のデュオ。
ラッセルは、ベイリー直系のギタリストの代表格のように言われる(事実そうかもしれないが)。
ラッセルさんの白熊のごとき巨体でこれまは大きなギターを抱えて、奏でられる音はデレク・ベイリーというより、なぜかスパニッシュギターなんじゃないかとふと思った。ベイリーが初期に下敷きにしたというウェーベルンの不連続よりも、フラメンコの即興のスピード、激しさ、柔軟さのほうが近い、そんな気がした。
http://john-russell.co.uk/interviews/#grundy
しかし、上のラッセルさんのインタビューを読むと、割と若いころから直に即興演奏に入り込んでいって他の音楽から経由していったわけではないようだから、上の感想は的外れだったみたいです。
ラッセルさんの太い指が素早くフレットのうえを駆け巡り、あんまり指が太いのでそのために、ハーモニクスだって出ているのではないかというのは恐らく全く誤りで、きしり、たわみ、うたい、促進する流麗さは、しかしどこかいつも後景にあるかのようなまろやかな佇まいで、それが豊住さんのドラムあるいは二胡の弓奏、と絶妙なブレンドで立ち上がり収束する。この日の豊住さんは二胡が特に素晴らしいと感じました。
5月29日(水)
会議。
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以前出た『日本フリージャズ史』の続編というか今度は世界編という位置づけ。メインはやはりメールス・ジャズ・フェスティヴァルの連続レビューかな。当時のアンソニー・ブラクストンのヨーロッパでの超絶人気ぶりをはじめて知る。
ちょっと前に千里中央の書店で購入した『レクイエムの歴史』と同時進行。
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入祭唱、キリエ…という風にミサの典礼式次第そのものだった「レクイエム」が次第に劇的表現にシフトし、西洋音楽のふたつのメインフィールドとしてオペラと併走しだす。そして現代においては、入祭唱の「Requiem æternam dona eis, Domine,(主よ、永遠の安息を彼らに与え、)」の「安息を」が次第に「鎮魂」に読み替えられ(これは日本のこと)、典礼形式とは離れて死を悼む音楽的表現となっていく過程がおもしろい。宗教とヨーロッパ人の関係性の変化が「レクイエム」という音楽表現の形式といっていいものの変遷から、かなりわかりやすく掬いとられている。
3大レクイエムのうちのひとつのモーツァルトのレクイエムに関しては著者に別の著書があるためかそれほど詳しくは記されていない。むしろどの時代も作曲家も、ヴォリュームとしては均一に扱っていることで面白い効果が出ている。
興味が沸騰したのは中世・バロック期のものだった。
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有名なノートルダムのミサを聴けるのだけど、前半は教会の前で演奏される設定で『ヴィルレー「恋人に会った帰りに」』などの器楽曲が数曲演奏されていて、アルバム全体で、町から教会へ入っていき、ミサを体験するという流れになっている。特にこの『「恋人に会った帰りに」』の冒頭の数小節めくらいから通奏低音ふうに破れたトランペットのような音が鳴り響くのだけれど、これはもしかしたら、「トロンバマリーナ」かもしれない。
直接このレクイエムとは関係ないのだけれど、最近、高橋悠治の『カフカ/夜の時間』を読んでいたら、こんな一節があった。
ホセ・マセダがすべての音楽はドローンだ、と言ったときもそうだった。二つの音をつかうメロディーは、順序のおきかえと思えばメロディーだが、二つの音の交替するリズムと見ればドローンに過ぎなかった。
AAABABAABBABAAB。
これは変化する線。
AAA・A・AA・・A・AA・、・・・B・B・・BB・B・・B。
これらは交差する二つのリズム。
数人がそれぞれ一つの音しかでない楽器をもって交差するリズムで演奏すれば、楽器間にメロディーがうまれる。これをマセダはただようメロディーと呼び、ヨーロッパ中世ではホケットと呼んだ。
----高橋悠治『カフカ/夜の時間』P.51
引用文の最後に出てくる「ホケット」。ポケットではなくてホケット。ホケトゥスともいうらしい。
このホケットという言葉にちょっと記憶があったので自宅のCDをゴソゴソしてみたら、
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paul hillierのこの盤は、本格的な中世ヨーロッパのホケット歌唱を復元して録音したもの(ホケットではないモケットも含まれている)。複数の朗唱が併行していくのだけれど各声部はふいに休符となったりしてこれが他の声の下に一瞬もぐりこんで他の声にバトンを渡してリレーしていくような効果があるのがわかる。
ここまで聴いて、最初の高橋悠治の引用文「数人がそれぞれ一つの音しかでない楽器をもって交差するリズムで演奏すれば、楽器間にメロディーがうまれる」に戻ってみると、リズムとメロディー、それからふたつの基底材(「休符≒リズム」の下地)としてのドローンということがちょっとわかったような気がしてくる。
5月30日(木)
会議…。
5月31日(金)
愚直でなければ、とば口にさえ立っていない。
6月1日(土)
医者。レントゲンを撮ってもらう。
右足先骨の亀裂まだ完全に治っていない。半分くらいはもやもやと治癒しかけているみたいだがあと半分にはくっきりと黒い影はまだ走っていた。思ったより治りが遅いので少しへこむ。でも車の運転はできるようになっていたので、足骨を折ってから一ヶ月覗いていなかった貸し倉庫の状態を見てみると、積んで柱状にしておいたダンボールがひとつ派手に崩れていた。元に直しながら、目についた本を何冊か読みたくなって部屋に持って帰る。ちょうどレクイエム本がモーツァルトに差しかかっていたので『マドモアゼル・モーツァルト』とか…。
6月2日(日)
I田さん宅で飲み会。かねてからI田さんがやろうやろうとおっしゃっていた『Step Across The Border』と「友川カズキ映画」鑑賞飲み会。昼過ぎから暗い部屋で酒呑みつつ妖しい音楽を聴いて盛り上がる怪しい集会。
8人くらいでフレッド・フリスを撮った映画『Step Across The Border』鑑賞。
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高岡さんから、コモンカフェは経営が変わってこれから音楽イベントが減るだろう、と聞く。本当なのだろうか…。音波舎の中沢さんの仕切るライブがなくなったら、自分としては確実に、新世界からBridgeがなくなった時と同じレベルの喪失になってしまう。
6月4日(火)
靭公園 CHOVE CHUVAでブライト・モーメンツ(高岡大祐tuba 有本羅人 tp,bcl 橋本達哉ds )とバリから一時帰国された堀越大二郎perさんのライブがあるとのこと…。行けず。
6月5日(水)『触境(そっきょう)』宮西淳acoustic guitar、有本羅人tp,bcl@阿波座シェドゥーヴル
5月28日のコモンカフェのライブで隣り合わせて初めてお会いしたギタリスト宮西淳さんに教えていただいたデュオライブ。
行ってみると、シェドゥーヴルはギャラリーを持ったカフェでした。いい感じでした。
奥のギャラリースペースで自然な感じでライブが始まりました。宮西さんのソロ>有本さんのソロ>そしてお二人のデュオという展開。
宮西さんのギターは繊細なタッチで良い響き。ベイリーの「バラッズ」のアルバムを思い起こしたりしました。
有本さんはバスクラからトランペットにスイッチ。擦れるようなバスクラの音からかすかな倍音が聴こえて、トランペットもミュートから静動そして静への展開。
最後のデュオはお二人の音が混じり合い、ずっと聴いていたいような時間が生まれていて、またこのお二人のデュオ、聴いてみたいと思わせていただきました。
有本さんにお伺いしたところによると、前日のCHOVE CHUVAライブはダイジロウさんとの演奏がえらい興奮の坩堝だったのだとか。泣いて悔しがる。
そして、ブライト・モーメンツは現在、小ホールを借りてアルバムの録音中(!!!!!!!!!)で、この日の昼間も録音してきたとのこと。リリースが楽しみでなりません。
昼休みに本屋で購入した二冊。
冒頭にアベノミクスに関して相反する二つのインタビューと論文を掲載しているのが面白い。この後の株価の乱高下とあわせて読めば考える材料が出てきそうな気がします。『現代思想』のガタリ特集。近年、ナドーの本の邦訳が数種出ていたのもあるのかな。