みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

ドーナツ日乗②MELODY DOG、THE PASTELS


Melody Dog / Futuristic Lover c/w Tomorrow's World, Sun Drenched Beach in Acapulco

 
パステルズのカトリーナが1991年にKレコードからリリースした7インチ。
このシングルを買った頃、英米問わず、多くのバンドのシングル盤が毎月輸入盤屋さんの棚に並んでいて、どれも瑞々しかった。平凡な日常を切り取ったような歌がジャケット、7インチというフォーマット全部とからまって、パステルズやグラスゴー周辺、ひいてはUSのK周辺のシーンがこういうものか、とよくわかった気がした。
誰にでも、あの時、あのお店で出会って手に取ったことが、そのままパッケージされている気がする思い出深いシングルがあるものだと思いますが、このシングルはきっと今でも多くの人にとってそういうものであるのだろうと。

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そして、

Slow Summits【ボーナストラック2曲、ライナーノーツ、対訳付き】

Slow Summits【ボーナストラック2曲、ライナーノーツ、対訳付き】

本家(という言葉もあまり似つかわしくない)パステルズのパステルズとしては16年ぶりになるというニューアルバム。
『Illumination』からそんなにも時間が経ってしまったのかという静かな驚愕がまずありました。
初めてパステルズを聴いたのは『Up For a Bit With The Pastels』でした。
Up For a Bit With The Pastels

Up For a Bit With The Pastels

ジーザス&メリーチェインのジム・リードが、クランプスなんかと共にフェイバリットに挙げていたのがパステルズだったから手に取ったのだったけれど、当時はよくわからなかった。そうこうしているうちに、BMXバンディッツだとかユージニアスだとか、ジャングリーだかアノラックだかの名称で括られたバンドが大勢出てきて珍しくないスタイルだしその最初のバンドのうちの一つ、という認識になりましたが、聴いたときに感じたパステルズのよくわからなさというのは、後から出てきたバンド群にはなかなか感じないもので、それは「不安定さ」というかゆるい「ゆがみ」というかゆがんだ「ゆるみ」というか。他のバンドがスタイルとしてそういう「ゆるみ」を出してもすぐにコーラスで引き締めて「ポップソング」をこしらえるのに対して、パステルズは徹頭徹尾「ゆるくてちょっとゆがんだまま」でパステル調というよりクレヨンによるドローイングであるかのような印象を持っていました。

それでこの新しいパステルズ。悪くない、というよりかなり良い。良いですよ。カトリーナが歌いはじめる3曲目『Check My Heart』、個人的には一瞬シー&ケイクの魚影もかすめるポップソング。こういう曲が3曲目に自然に収まっているアルバムは良いアルバムです。

朴訥としたメロディーは変わりようもなくパステルズだし、一番大事なのは、ほんの少し、ギターを強く弾いたときのゆがみの感覚をこの人たちは絶対に手放さないという安心感がアルバム全体を貫いている(ちょっと強張った表現で、それはパステルズには似合わないけれども)。
だからなのか、「16年待った」という表現をここで使えるほど僕は忠実なパステルズのリスナーではないのですが、16年ぶりという感じもあまりしない。『Illumination』を聴いたときのように「ああ、こう変わってきたか」という感慨もない。「ない」のがネガティヴに働かないのは、結構珍しい。
ポンと「これだよ」と差し出された良質のアルバム。世の中には、こういう強さも存在する。