みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

蝙蝠盤、ついに。Beefheart『Bat Chain Puller』

ROAD TAPES? 2

ROAD TAPES? 2

入手するのがとんでもなく遅れてしまった。
当時のマネージャー、ハーブ・コーエンがザッパとの間で引き起こした訴訟問題により、アルバム一枚分の録音が完了していたにもかかわらず無念のお蔵入り。『Bat Chain Puller』の制作費がザッパの印税から無断で支払われていたそうで、ザッパが怒るのも無理はない。葬り去るには惜しすぎる曲群は、その後の牛心隊長後期のアルバムに少しずつ分けて収録されたという曰くつきの牛心隊長版「Smile」(違うか)が遂にあるべき姿でリリース(『DustSucker』もあったけど)。
ハーブ・コーエンの采配により、同時期コーエンがマネージしていたトム・ウェイツと同じスタジオを使用して録音されたとのこと。こっちの部屋では隊長がキュビスト・ブルースを彫刻し、あっちの部屋ではトム・ウェイツがピアノを弾いている、という状況は凄いものだったろうと想像する。
ドン隊長の再生への意気込みも相当だったらしく、冒頭に置かれた重要アルバムタイトル曲『Bat Chain Puller』のリズムパターンは、雨の日ドンがスタジオに向かうヴォルヴォの中で聴いたワイパーのリズムと洗浄液のポンプの音が元だった。ドンがその音に魅せられている間に助手席のジョン・フレンチがマッチ箱の包みに書き留めてスタジオに入り2時間で仕上げたらしい。
素材を多くを引き継いだ『ShinyBeast(Bat Chain Puller)』や切れ味鋭い『Doc at the Radar Station』そしてラスト作『Ice Cream for Crow 』ももちろん名盤だが、このオリジナルには、アルバム全編に首尾一貫とした一筆書きのような気配がある。
『Doc at〜』にも収録されたインスト小品『a Carrot is as close as a Rabbit gets to a Diamond』や『Flavor Bud Living』も本作では少し緩めでしっとりした空気をまとっている。2曲ある隊長のスポークンワード曲からは強烈なビートニクの男意気が香りもする。
ボーナスの『Hobo-Ism』はDenny Walleyが自宅で話したホーボーの話にインスパイアされた隊長がWalleyのギターにあわせて即興で妻を殺して逃亡中のホーボーの物語を歌いはじめたのをWalleyがカセットレコーダーですかさず録音したものとのこと。

これが、76年に今回聴ける形で無事リリースされていれば、少なくとも「鱒盤Trout Mask Replica」に次いでビーフハート節をさらにハードコアに洗練させた「蝙蝠盤」と呼ばれたりして隊長の状況も少しは異なっていたのではないか、砂漠に引きこもって絵描きに専念するのを数年は先に延ばせたのではないのかというのはもはや勝手な妄想か。

Lunar Notes: Zoot Horn Rollo's Captain Beefheart Experience (Music)

Lunar Notes: Zoot Horn Rollo's Captain Beefheart Experience (Music)

ルナー・ノーツ―キャプテン・ビーフハート

ルナー・ノーツ―キャプテン・ビーフハート

Captain Beefheart

Captain Beefheart

Beefheart: Through the Eyes of Magic

Beefheart: Through the Eyes of Magic

牛心本というのも割と揃っているもんだなと。
『ルナーノート』は邦訳を読んだけど、マイク・バーンズの伝記本は未読。2010年に出版されているジョン・フレンチ本はかなり読みたいものです。