みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

やっと、紅葉。旧グッゲンハイム邸で「ミン・シャオフェン / 田中悠美子 / カール・ストーン TRIO」

nomrakenta2009-11-29



3連休では空振りだった箕面の紅葉も、今朝瀧道を登ってみると、じゅうぶんに深まっていました。


先週出勤時に駅から、お山を見上げる度に色彩が豊かになるようで、早くあそこまで登ってみたいなあと思っていました。


3連休には随分と行楽客が来ていたのだけれど、口々に残念そうに「まだだなあ」と呟いていたから、一週間遅れでシーズンになったみたいです。

瀧道はところどころ見所があったけれど、瀧の上の大日の駐車場からビジターセンターに抜けるところが、もっとも壮絶な色相の折り重なりになっていました。


ビジターセンターの人のいない(まだ)BBQ場あたり。



瀧です。

ジャクソン・ポロックの絵にこんな構図のものがあったような…(「ブルーポールズ」)

車で来る人のために、例年通り、瀧の上の道路は、片側を通行止めにして駐車スペースにしています。向こうに見える山の斜面の色の多彩さに嬉しくなる。
右は、ほぼ下りきった聖天さんの灯篭。ここでも見事な色の紅葉が見れました。

帰りは、ぼちぼちと行楽の人出も出てきていて、下るスピードに気をつけながら、目についた落ち葉を拾いながら、ゆっくりと帰りました。

手の中に11月の色彩が溢れている。お皿に盛ってみたり。

夜、NHKで『坂の上の雲』の第一回を観る。以前、原作を読もうとして、正岡子規が死ぬあたりで中断してしまっていた。最初から読み直したくなってきました。


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昨日は、行ってみたいと思いつつ、ずっと訪れてこなかった神戸の塩屋の旧グッゲンハイム邸に行って、「ミン・シャオフェン / 田中悠美子 / カール・ストーン TRIO」を観てきました。
三宮でぶらぶらしてから、夕方6時にJRで塩屋に向かったのですが、駅を降りると、もうとっぷり闇の緞帳が降りていて、HPから印刷してきた地図を片手に、案の定、迷ってしまって(隣り合っている山陽の駅すらわからなくなってしまった…)、店を仕舞いかけの八百屋のおばあさんに、ここにいきたいんですけど〜とすがり付き、なんのことはない、駅の踏切から階段でちょっとあがると、目的地の旧グッゲンハイム邸、でした。

会場に入ると、7時開場のはずなのに、お客はまだ僕ひとりでした。
ミンさんとカールさんが、出番を待ちながら寛いでいた。寛ぐカールさんを見ると、立派なヒゲが生えておられた。似合っている。カール・ストーンさんを最後に観たのは2007年のFBIでのことだったので、2年ぶりになる。この2年の間にたくわえられたお髭であろう(あたりまえか)。口髭をたくわえていると、常時、ぼんち揚げの匂いがするというのは本当であろうか。
義太夫三味線でインプロしてしまう田中悠美子さんもFBIで何度か聴いているけど、中国琵琶(pipa)奏者でデレク・ベイリーとも共演したミン・シャオフェンさんは初めて聴く。
生ビールと煮込みかけごはんを頼みながら開演を待っていると、お客もぼちぼち到着して、25人くらいは入っていたろうか。先日京都でケージ生誕100年カウントイベントで、「0分00秒」のパフォーマンスをしておられたHACOさんも会場におられました。
7時40分くらいから、カールさんひとりが出てきて、おもむろにラップトップから音源を変形させつつ即興演奏を始めた。


まずは、お一人ずつの即興演奏ということのようだった。次は田中さんの番で、三味線を弾くのかと思うと、三味線本体は、台の上に寝かせたまま、弦を弾いたり、灰皿などの異物で叩きこすりあげたりして尋常でない音を繰り広げた。ミンさんの中国琵琶の形状がおもしろくて見とれてしまう。ゆっくりと垂れてくる大きなしずくのようなボディラインもおもしろいが、ギターでいうならフレット?にあたる部分が、恐竜の背骨のようなギザギザのオロシ金のようになっているのも面白く、また、長年の演奏の跡だと思いますが、はじく爪があたる部分に、線条になった大きな抉れがあったのに、凄いなあ…と感心してしまった。pipaって4弦なんだ、あ、そうか日本の琵琶も4弦なのか、と初めて思った(4弦のものと5弦のものがある様子ですが)。

第一部の最後は、トリオでの即興合戦になり、ここでのカールさんは、よくわからないが、二人の演奏の音を加工しているようだった。
小休憩をはさんでの第二部は、カールさんとミンさんのデュオで始まった(…たしか)。ミンさんのpipaの演奏を、カールさんはラップトップに取り込んでデジタル加工をして同時併走的に音で投げ返していた。pipaそのものの音と、BOSEのスピーカーから出るデジタル加工されて深いエコーとパースペクティヴがつけられた「元pipa音」とが侵食し合って、とてもいい感じの効果を生んでいた。
それから、ミンさんと田中さんのpipaと三味線のデュオ。これは正統派(?)な掛け合い即興と感じられ、相互に響きがやっぱり全然違うのだな、思った。三味線の田中さんが、即興のときでも、楽譜のようなノートを開きながら演奏しておられるのがおもしろかった。なんらかの演奏の「型」なんだろうか。
そして田中さんとカールさんのデュオ。最後は三人そろっての演奏(だったと思います)。


今回は、カールさんの純粋なコンピュータ音楽、という意味ではまったくなかったけれど、トリオの音をリアルタイムで取り込んで加工して演奏の場そのものをスタジオみたいにして聴かせる方法は、興味深かった。
それと、塩屋という土地も、今度は昼間に是非来てみたいなあ、と。旧グッゲンハイム邸からすぐ、JRと山陽のふたつの線路と海を見下ろせるようだった。
帰りは、塩屋からひと駅の須磨で快速に乗り換えて、そのまま大阪まで帰えるのが楽だと気づいた。


会場で購入したカールさんの初期のミニマル作品『Woo Lae Oak』(タイトルは、制作当時に本人のお気に入りだった東洋料理の店の名前から採られているそうな)。以前、今日との古書肆「砂の書」さんに寄らせていただいたときに、アナログで聴かせていただいた曲で、CDが出ていないのかなと、ずっと思っていたものだった。

細かくトレモロされているように聴こえるテープ加工された音と(砂の書さんの情報によると、気が遠くなるような編集作業によるもの、とのこと)、ループされているようなフルートのように聴こえる音のふたつの音だけで、50分以上の長さを埋めている作品全一曲なんだけれども、これが非常に美しい。
緻密な手作業からくるのかわからないが、微妙な差異がどんどん膨れ上がって陶然とした状態を作り出していると思う。
裏ジャケのカールさんは、とても若い。

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週末にタワレコによると、凄い音源がHQCDで復刻されていました。

無装飾無調音

無装飾無調音

音を聴く、ということに、これほど深くつきささる演奏もないんではなかろうかと思える。音の鳴っている間も凄いが、音の途絶えた後、次の音との間の静寂(しじま)が凄いのだ(凄いすごい、と阿呆のようですが)。

Tap Dancing in the Sand

Tap Dancing in the Sand

アメリカ現代音楽家のロバート・アシュリーの新作が、Unsoundというレーベルから出ているのをアマゾンで見つけて注文してみました。
これはビデオオペラの音版的なものではなくて、アンサンブルMAEによる旧作も含めたプログラムになっています。
「砂漠でタップダンス」という表題作は2004年の近作のようで、ベルリオーズに関するビデオオペラのために書かれた作品のようすで、ナレーションの声はアシュリーご本人によるもの。英語のヒアリングがもっと出来ればよりおもしろいのだと思いますが、久々に聴くアシュリーの声は、あいかわらず、脆さとダンディさ裏腹な感じで、短いセンテンスに区切って微かに調子をつけているようでもあって、バックのアンサンブルのジャズと現代音楽のあいだの真空地帯をたゆたうような音楽と相まって、優雅ですらあると思う。
2曲目は、パーカッションの単調なリズムのうえをギターやフルート、ヴィオラのソロが霞のようにやさしく移動していくインスト曲。
3曲目は、重く単調だけでも広がりのある音楽に女性・男性のナレーションが入ったもの。
4曲目も、異様に引き伸ばされた弦のドローンでダークに始まるが、ドローンの押し引きがゆったりしていて、夜空に星が散らばるような広大さがあって、ちょっと、ルーマニアイアンク・ドゥミトレスクの数曲を思いだしたりした。
最後の「She Was a Visitor」は、Lovely Musicの最高傑作でもある(と勝手に思っている)『Automatic Writing』の最後に収められていた作品。そこでは、一人のナレーターが「She Was a Visitor」というワンセンテンスのみを6分近く繰り返すという極度にミニマルでコンセプチュアルなものでしたが、この盤では、LovelyMusic盤よりも早いピッチでタイトルセンテンスを繰り返すナレーターに加えて、アンサンブルによるうめきのような「ウオオオー…オオ―…」というコーラスが入っている。これは…戸惑いのようなものが邪魔をして、成功しているのかどうか自分には判断できない。