みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

NOISE MUSIC, LOVERS ONLY?:ソルマニア 25周年ワンマン@難波ベアーズ

nomrakenta2009-11-16



のっけから埒のないことなのですが、むかし、山田詠美の『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』について、「ソウルミュージック好きに限る(ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー)」なのか、「恋人たちのためだけのソウルミュージック(ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー)」なのか、悩んだ時期があります。今冷静に考えれば、後者以外ありえないと素直に思えるのですが。

そして、そのころ、勝手に妄想してかなり楽しかった記憶があるのが、「ノイズ・ミュージック・ラバーズ・オンリー」という本のタイトルでした(その後10年くらい経って、中原昌也が小説を書き始めたので、もういいか、と思いました)。

さて、昨日のこと。ソルマニア。25周年だそうです。
この日は朝から冷えた空気と、曇った空に風邪気味の鼻をすすりあげていて、気分もかなり憂鬱でした。5時半くらいまでは、本気で今日はライブはキャンセルしようと思ってもいた。

多分、軽く7年振りくらいになる(突然段ボール×湯浅湾×オシリペンペンズ)難波ベアーズでしたが、こんなに狭かったけか?と入るなり驚いた。そしてステージに奥は大小のアンプが壁面を構成するかのようであり、床には40個(JOJO広重さん情報)のエフェクターが繋げられており、なによりも楽器というより「マシーン」な改造ギターが2本。これはちょっと、殺されるかもしれない、と思った。

開場から30分ばかり過ぎて、おもむろにソルマニアのお二人が登場、MCもなくいきなり始まる。

僕はソルマニアを生で聴くのは、この日が初めてでした。
昔、『D.L.O.(Destroy Loop Osaka大阪環状線破壊!)』というアルバムを持っていたはずだけれど、今は無いから、いつかどこかで中古に出してしまったのだと思われます。あの頃、たしかサーストン・ムーアがソルマニアに限らず「ジャパノイズ」と一括されてしまう(ったのか、それとも自己ブランド化だったのか?よくわからない。誰がはじめに言い始めたのだろう)日本のノイズ・メーカー達を激賞していたっけ。コアなファンでもないのに、なんだか嬉しかった記憶があります。

そんな極私的な追憶は余所に、眼前のソルマニアのお二人の演奏は、ビキビキと耳障りな(あたりまえか)導入から、次第に音が厚みを増して加速していって、複層化し始める。
耳も頭もからだの中も、2本のノイズ発生装置であるギターの出す轟音で満たされはじめると、不思議とクリア―な律動が感じられはじめるし、冷たい熱を帯びた音が巨大な彫刻のように立ち上がってくるのです。それは、「ドロドロした怨念」とか「めちゃくちゃ」とは次元の異なる、フィジカルな演奏であって、この日の観客の反応は、その律動に身体を預けて揺さぶるか、それとも身じろぎもせずに目を閉じて浸っているか、そのどちらかでした(僕は前者)。

ソルマニアの時間を無化した爆音空間は、中断一切ナシの全1曲(「曲」というかわいらしい単位が適当なのかどうかわかりません)。9時には演奏は終わっていたから、90分くらいの長尺な演奏だったのだと思いますが、時間の感覚はなかった。これで1800円は安すぎるのではないか。お客の入りもショウの出来からしたら、腹立たしいくらいの人数だったと思います。こんなに凄いのに、ノイズ好きだけが聴いているというのは、とても勿体無い話と思うのです。


大野さんのギター(マシーン)には(あるいは両方だったのか)、マイクが付いていて、演奏中盤以降にヴォコーダー(?)みたいな使い方をしていた。ただ、分厚い音に埋もれて、その声を認識するのは難しかったけれど。
エレクトリック・ギターでヴァイオリンのようなドローンを発生させる小物「Eボウ」の演奏を初めて観たけれど、Eボウをピック扱いで弦を掻きむしるのをみて興奮。


先に書いたように、この日はちょっと風邪気味でした。しかし、ソルマニアの爆音彫刻を全身に浴びて、深呼吸してみると、身体の不快さが霧が晴れるように消えてしまった。
数年前に青山真治監督の映画で『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』というのがあって(かなり恥ずかしいエントリーを書いていた)、それは「自殺病」という謎の病が、なぜかノイズ・ギターの爆音で治癒されてしまう、という設定だったですが、これ、まんざら嘘でもないと思った。
少なくとも、ノイズが風邪を蹴散らしてしまうのは確かなようです。


物販で購入した昔の(1994年くらい?)アメリカの雑誌『BANANAFISH』にはSOLMANIAの大野さんのインタビュー記事が掲載されていました。ちらりと読むと、これは「ノイズ聴かずぎらい」な人にこそ(僭越ですが)、読んでほしいコメントでしたので、ちょっと以下に抜粋訳出してみます。

Q:ノイズのパフォーマンスするにあたって、音のコントロールという意味でいえば、どれくらいコントロールしたいものなんですか?ランダムさをどれくらい許容しているんですか?
A:私は、完全なコントロールを望んでいます。
Q:そして、完全に制御できる?
A:どんな機材を使い、どこで演奏するかによって変わってしまいますが、ライブの音に関しては70〜80%くらいはコントロールできていますね。残りの20%は、機材に実行不可能な新しいことを試してみようとしたときのトラブルでもあるし、観客の反応に依るものであったりします。でも、このシステムでの音の質と演奏については完全に制御しています。
Q:制御できなかった20%について悔やんだりしますか?
A:いいえ、それは失敗という意味ではないんです。いずれにせよ、そもそも完全無欠のコントロールに至ることはないことはわかっています。ですから、残りの20%というのは、私にとっては楽しみなんです。たぶん私は、その80%が20%とせめぎ合っているのを楽しんでいるんですね。
Q:ライブでは新しい発見がある?
A:いつも、ね。説明するのは難しいけれど、ライブで演奏をすることは本当に楽しいのです。なにか計画したとしても、それをステージでやると、まったく違ったものになったりするんです。飽きることがありませんね。
Q:6月から、SOLMANIAは10周年を迎えていますよね。1984年の6月に、貴方にこれを始めさせる何があったのですか?
A:私は、SPKのファーストアルバムとセカンドをかなり聴いていたと思います。EYEちゃんやハナタラシと知りあいました。メルツバウのライブも観て、相当印象付けられました。あのころ、メルツバウNullと演奏していたんです。第3のメンバーも入ったカセットがリリースされていたと思います。彼らは大阪でハナタラシと共演しようとしたんですが、ショウの前日に、京都でEYEちゃんが回転ノコギリで自分の足を切っちゃってね。いずれにせよ、私も何かそのようなことをやってみたいと思ったわけです。同時に、バンドで何かポスト・ニュー・ウェーブ的なことをしたかったんですね。ディス・ヒートのような。
Q;暗くて、陰うつな?
A;いいえ。暗さというよりもヘヴィーさに興味があったんです。聴くという立場から言えば、人がハードロックやヘヴィメタルを聴く理由と何の違いもなかったと思います。ただテイストが違っているだけでね。それらの楽曲には、それまでロックの中には存在していなかった普通じゃない変化の感覚があったんです。それらに印象づけられ、そして励まされたわけです。

会場で会ったIさんとMさんと、もうひとりとても若い方と、ライブの後、近くの居酒屋で、全員、耳鳴りのするなか、楽しく呑んで話をしていたら、IさんもMさんも2001年心斎橋クワトロの「ノイズ・フォレスト」という、JOJO広重INCAPACITANTS、SPACE MACHINE、怖、abmなどが出演したイベントを観ていたことがわかった。
インキャパの小堺さん(?)に最後、Mさんの鞄が放り投げられたというのはもはや憶えていなかったけれど、東瀬戸悟さんがMCしていたのは憶えていた。
IさんもMさんも僕よりも半周強ほど若いのだけれど、お二人の中には、ノイズもURCのフォークもアングラ・ヒップホップも、ほとんど等価に存在している。これが僕には驚きで、昔いろいろと聴き始めた頃、やっぱり「ノイズ」というと、内蔵系のドロドロとしたジャケットで、酷いタイトルが付いていて、ライブでは何があっても主催者に責任はありません、みたいな書類に署名させられる(ハナタラシ)本当にヤバイもの、という恐怖感があり、なかなか手は出せずに、ヴェルヴェッツの「シスター・レイ」あたりで耳を痺れさせていたと思う。でも、音としてのハードさへの純粋な憧れみたいなものは、怖々手に取ってみるノイズのLPの中に、確実にあった。でも、やっぱり多くのジャケットと言葉のセンスはどうにかした方が売れるのに、と思っていた(そういう問題でないことも今はわかるが)。「ノイズ・ミュージック・ラバーズ・オンリー」とか考えていたくせに、気合いの入ったノイズ・ヘッドどころか、今に至るまで、とんだ邪道だと思う。
おふたりは、とても自然にノイズやほかの音楽について語られていて、僕はうらやましい気持ちと単純に感心しているので、ふんふんきいていたのだった。

そのあと、Iさんの昔のライブレポを読んでいたら、「調子悪かったけれど、風邪が治った」と、おんなじような事が書いてあった(笑)。

Dlo

Dlo

エリ・エリ・レマ・サバクタニ 通常版 [DVD]

エリ・エリ・レマ・サバクタニ 通常版 [DVD]

ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー (幻冬舎文庫)

ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー (幻冬舎文庫)