みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

羊歯たちのザーウミ:大石雅彦『彼我等位』、Rufus Harleyのバグパイプ・ジャズ

nomrakenta2009-04-19


運動不足を痛感して汗を絞りやすいように昼の一時を過ぎてから瀧道へ。軽めのウェイトを右手左手に持ち替えながら腕も怠けないようにする。

4月の羊歯の緑は新鮮で麗しい。
植物にデジカメをぐぐっと近づけて接写するのが割と好きなのですが、羊歯が一番好きである自分を上手く説明できない。
瀧道の谷間は夏日でも心地よい木陰を作り出すので、羊歯の群生にはうってつけらしく、至る所に「シダ溜まり」があります。それが4月になると、若い羊歯が鮮やかな若葉色をして、敬礼でもするかのようにピンとなって、こちらに向かって大葉を差し出してくるのが目にとまります。
陽光を透かして葉を見ていると、羊歯たちは緑色の宝石のように思えるし、その緑色が自分の中にきもちよく入り込んでくる。
自分がとても小さなものになったように感ずるというより事実、自分がとても小さくて幸せだという感情ではなくて極私的なサイケデリアが訪れて(もちろん歓待し)、それはとても心地よいのでいつまでもそうしていたいのだけれど、そうもいかないのでピクセルのデータに切り取らせていただく、というのが普段の収まりのつけ方です。

葉の裏に胞子嚢が等間隔で並んでいます。

葉のまわりに光った和毛のような毛羽立ちが見えます。

まっくらやみのにらめっこ

まっくらやみのにらめっこ

収録の「荒神さま」は、おそらく、ここ10年のあいだに書かれ演奏され録音された日本語の歌の中で、一番好きな曲。

彼我等位―日本・モダニズム/ロシア・アヴァンギャルド

彼我等位―日本・モダニズム/ロシア・アヴァンギャルド

大学時代に、大石雅彦氏の講義をとっていたことがある。確か教授ではなくて講師のご身分だったのだと思う。本書はそのころに出版された『ロシア・アヴァンギャルド遊泳』に書かれた内容を引き継いだ形になっている。ロシア・アヴァンギャルドやフォルマリストたちの詩の言語への仮借ない追及が、大石雅彦氏の手にかかるとなんとも軽やかで豊かな姿を現し始めるのは、今も変わらず嬉しいところ。未完の革命の収束から世に散っていったアヴァンギャルドたちへの共感をこめた『ロシア・アヴァンギャルド遊泳』を読んだとき、彼らが作りだした新言語「ザーウミ」や手法「ズトヴィーク」なんかの聴きなれない読みなれない単語が、僕の中に新鮮な感触をして入り込んできたように思う。
本書でさらに新たに嬉しいのが、ずいぶん前に梅田の古本屋で見つけておきながらずっと読みつけていなかった岩波新書をやっと読み始めた、牧野信一について一章を割いていることです。大石雅彦氏にはライフワークであるロシア・アヴァンギャルドのほ他に『「新青年」の共和国』という著書もあるので、なんら違和感のあることではないし、本書の第一章によれば、世界の周縁で同時に起こった「未来派」としては、日本では稲垣足穂も挙げられるようなので、その線でいけば、牧野信一の、いともたやすく郷里の小田原が古代ギリシアと直結してしまう世界が、本書に取り上げられるのも納得できます。
ゼーロン・淡雪 他十一篇 (岩波文庫)

ゼーロン・淡雪 他十一篇 (岩波文庫)

Courage: The Complete Atlantic Recording

Courage: The Complete Atlantic Recording

モダン・ジャズの世界に「バグパイプ」を持ちこんだ男ルーファス・ハーレイ。
http://en.wikipedia.org/wiki/Rufus_Harley
最近はどうも凄い人のことを、彼/彼女が鬼籍に入ってからやっと知ってしまうという悪い癖がついている(2006年に)。
そもそもバグパイプというのは、普通に音を出すこと自体が体力勝負のところがあるそうですが、その楽器でスウィングしようというのだから、この決意はものすごいものだった筈である。しかし、ルーファス・ハーレイのドローン&ブロウが走りだすと、バグパイプがジャズに合うのかどうか、など最初から問題ではなかったのだ、ということがわかる。
これはハーレイがアトランティックに残したデビュー作「バグパイプ・ブルース」から4作をコンパイルしたCD2枚組。さすがライノの仕事でライナーもきっちり。「バグパイプ・ブルース」収録のトラディショナル「Kerry Dancers」は、ジョニー・グリフィンのものしか知らなかったけれど、バグパイプで聴くのも新鮮。アトランティック時代の最後は60年代ポップス曲を取り上げたりしているが、ハーレイの音楽がそこで収束したわけでは、もちろんまったくない。
Re-Creation of the Gods

Re-Creation of the Gods

この1972年のアルバムでは、ハーレイの音楽と精神性が全開。バグパイプ通奏低音とメロディーは美ノイズとして怒涛のようである。赤ん坊の鳴き声と説教ではじまる4曲目「Nobody Knows the Trouble Us People Done Seen」などは高い精神性と音楽的な高揚がありながら、クラブでも十分使える(んじゃないかと)しなやかなグルーブを持ち合わせている。