みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

2008年の「みみのまばたき」

nomrakenta2008-12-31



今年のまとめは、ポメラを使って「紅白」を観ながら、下の階で書いています。
今日は、散髪にいきモコモコになった髪を梳いてもらうだけにして、線路沿いの「王将」で餃子の食べ納めをして、商店街で、ミカンと団子とタバコを買って家に帰り、部屋のガラスを全部拭いて、あとは夕ご飯まで寝てしまった。
森山直太郎の歌「生きてることが辛いなら」の出だしの歌詞「いっそ小さく死ねばいい」というのが、自殺を助長するとかで話題になっていたらしいけれども、そんな風に聴きとることはできなかった。まっすぐな歌でいつも素晴らしい。

晦日に「みみのまばたき」のまとめを書くのは2回目になるかと思いますが、今年は思うようにエントリーできないことが頻繁にあったし、ライブにも思うように行けなかったということがありましたが、とにかく自分の生活の一部として継続できていることを嬉しく思っています。
このブログを書き始めた頃を今思い出してみると、とにかく自分の好きな音楽のことを文章したくて仕様がなくて、始めたわけですが、その時は今とは違うブログ・タイトルでした。そのままでも構わなかったのだけれど、友人に読んだ、という感想をはじめてもらったときに、変な言い方ですが、他人が読むものなのだなと思って、ブログタイトルは「ひらがな」がいい、となんとなく思って、そうすると「みみのまばたき」という名前が自然に浮かんできたのでした。だから、ブログの説明にある少しくどい文章は、嘘ではないですが、少し後付け、ではあります。

はじめた頃は、「ブログスフィア」とか「グーグル・アマゾン化する世界」とか「セレンディピティの減少」とか、大層な言葉に取り囲まれているような気がして肩にちからが入っていましたが、そのころの自分が考えていたのは、ブログというものは、アルフォンソ・リンギスの著書のタイトル「何も共有していない者たちの共同体」みたいなものであればいい、ということでした。

何も共有していない者たちの共同体

何も共有していない者たちの共同体

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今年の「みみのまばたき」の(僕の、じゃなくて)思い出をサラサラと。
今年の5月は、鈴木志郎康さんの映画『極私的にコアの花たち』を観に、京都のドイツ文化センターで開催されていた「イメージ・フォーラム・フェスティバル」に行った。映画は鈴木志郎康さんのご自宅の中庭の植物たちの歳時記といえそうな作品で、この中庭の映像は、鈴木さんの極私的映像作品の初期から出てきていて、ずっと観続けているひとにとっては、中庭にたまる陽光と一緒に、なじみのある庭だった筈。その帰りの鴨川沿い、自転車に乗って自分を追い越すひとの悉くが鼻歌を歌っていた。
ブログの写真用にはじめて自分でアジサイの花を買ったら、近所を歩いていてもアジサイが気になるようになった。

あまり行けなかった(しつこい)ライブでは、『HOP-KEN』が、「フェスティバル・ビヨンド・イノセンス」を半ば引き継いだ精神でよかった。その中でも、印象に残っているのは、OORUTAICHI×町田良夫×森山ふとしの当意即妙な即興、ドラム二つで、驚異のミニマル・トランス・ビートの旅に連れていってくれた『PARARIRA』、梅田哲也のヒバナ飛び散る扇風機が得難い感触でした。夏の終わりの「千野秀一トリオ + 川端稔」のオーネット曲集ではあらためてジャズっていいなあ、と。「ふちがみとふなと」は多分今年は3回くらいしか観ていないけれど、30日の印象が冷めないまま継続しています。


<<本>>

1)水無田気流『黒山もこもこ、抜けたら荒野』

黒山もこもこ、抜けたら荒野  デフレ世代の憂鬱と希望 (光文社新書)

黒山もこもこ、抜けたら荒野 デフレ世代の憂鬱と希望 (光文社新書)

世代論、としては唯一共感を覚えるものでした。
2)アレクサンダー・マスターズ『崩壊ホームレス』
崩壊ホームレスある崖っぷちの人生

崩壊ホームレスある崖っぷちの人生

結末は、やるせない。どうしようもなさと裏腹の笑いがパンクでした。
3)エドマンド・ホワイト『ジュネ伝』
ジュネ伝〈下〉

ジュネ伝〈下〉

しかし、下巻未読。
4)香山リカ『ポケットは80年代がいっぱい』
ポケットは80年代がいっぱい

ポケットは80年代がいっぱい

80年代サブカルチャーを振り返る企画本が多かったですが、本書はそのなかでも、著名な著者自身の青春時代が垣間見れるようで、おもしろかったですね。
5)打海文三ハルビン・カフェ』だけでなく『裸者と裸者』『愚者と愚者』『覇者と覇者』なども。
6)ジャック・アタリ『21世紀の歴史』
21世紀の歴史――未来の人類から見た世界

21世紀の歴史――未来の人類から見た世界

7)鈴木志郎康『声の生地』生い立ちも含めて赤裸々に、語るように綴られたこの詩集は、「詩のことば」を静かに拡張されたと思います。「詩のことば」と「肉声」が離しがたいものなのだ、ということ。「萩原朔太郎賞」を受賞されて、本屋さんで平積みされていたこともとても嬉しかったです。
8)Robert Rauschenberg『Combines』
Robert Rauschenberg: Combines

Robert Rauschenberg: Combines

ネオ・ダダ芸術家の根幹となった「コンバイン」手法をまとめた作品集。西洋美術の枠内の語法だった「コラージュ」を、さらに「生活」のなかに放流したような印象。クルト・シュヴィッタースの本当の後継者。素材と素材の組み合わせに、ラウシェンバーグの大らかな笑いとどんな細部も疎かにしない眼差しが感じられます。ラウシェンバーグは、僕にとってダ・ヴィンチのように思える作家でした。厚手のトレーシングペーパーに印刷された装丁も良し。
9)外山滋比古『異本論』
10)リチャード・ブローディガン『芝生の復讐』 再読で、ホロ悲しい語り口にまたはまりました。
11)フェリックス・ガタリカフカ夢分析
カフカの夢分析

カフカの夢分析

ガタリカフカがたり。ドゥルーズとの共著『カフカ -マイナー文学のために』の遙か以前から(そしておそらく最期まで)、カフカは生涯ガタリのインスピレーション源だったんです。
12)ホアキン・M・ベニデス『現代音楽を読む -エクリチュールを超えて』古本。年の瀬に梅田「古書のまち」で見つけた掘り出し物。80年代の時点での「現代音楽」の中の「前衛」と「実験」の腑分け。マイケル・ナイマンが著書『実験音楽-ケージ以後』でやったことを補足しつつ、精緻な論理で解説しています。ただし80年代時点での視点であることは、著者もはっきりと自覚している。
13)平井玄『千のムジカ』
千のムジカ―音楽と資本主義の奴隷たちへ

千のムジカ―音楽と資本主義の奴隷たちへ

14)市田良彦ランシエール―新〈音楽の哲学〉』
ランシエール―新〈音楽の哲学〉 (哲学の現代を読む 5)

ランシエール―新〈音楽の哲学〉 (哲学の現代を読む 5)

ロックンロールを哲学する、最重要書。「リトルネロ」に関した章が、どの類書よりも深く、良い風が吹き抜けるものでした。ただ、こちらの予備知識不足のため、ランシエール自体の哲学については、よくわからなかった。
15)宮地尚子『環状島=トラウマの地政学
環状島=トラウマの地政学

環状島=トラウマの地政学

本書は、当事者によって語られにくいのであろう「トラウマ」問題に、ある補助イメージをさしだしてくれていると思い、その鮮やかさに、門外漢のくせに感銘を受けました、ということです。
16)フルシチョフ秘密報告『スターリン批判』
古本。用意周到にスターリンをボコボコにこき下ろすフルシチョフ。そこには、ある種のわかりやすいカタルシスもあるものの、スターリン時代の闇の深さが口を開けているようで、恐ろしい。
17)内田百輭『私の「漱石」と「龍之介」』
18)井上靖『四角い船』これも『日本の古本屋』で探した古本。下の「本の雑誌血風録」で触れてあったので気になって読みました。癖のある登場人物たちが織りなす現代の救世主譚。読後には、たしかにこんなふうにしか語り終えることはできないのだ、という納得感。
19)椎名誠本の雑誌血風録』
本の雑誌血風録 (新潮文庫)

本の雑誌血風録 (新潮文庫)

ブックオフ古本。『本の雑誌』が危ないらしい。みんなで買い支えよう。
20)多賀茂三脇康生 編『医療環境を変える -「制度を使った精神療法」の実践と思想』
医療環境を変える―「制度を使った精神療法」の実践と思想

医療環境を変える―「制度を使った精神療法」の実践と思想

ガタリ経由で知ったフランスのラ・ボルド療養所が実践する「制度を使った精神療法」の日本での成果と課題をまとめた本。いろいろと、興味深かかったです。
21)クロード・バラン『斜めにのびる建築』
斜めにのびる建築―クロード・パランの建築原理

斜めにのびる建築―クロード・パランの建築原理

22)茂木計一郎・片山和俊『客家民居の世界 -孫文訒小平のルーツここにあり』
客家民居の世界―孫文、〓小平のルーツここにあり

客家民居の世界―孫文、〓小平のルーツここにあり

以前読んだ台湾の彰化の都市計画の本で興味が湧いた民居の本。丸い形の民家(といっても集合住宅といえそうなもの)の写真がなによりすばらしい。
23)ブラッドリー・エドワーズ『宇宙旅行はエレベーターで』
宇宙旅行はエレベーターで

宇宙旅行はエレベーターで

すげえ!実現すればスペースシャトルよりも安価、らしいです。

<<音楽>>

1)Gavin Bryars『The Marvellous Aphorism of Gavin Bryars The Early Years』

Marvellous Aphorisms of Gavin Bryars - The Early Years

Marvellous Aphorisms of Gavin Bryars - The Early Years

実験音楽時代のブライヤーズ。モンティ・パイソンにも通じる洗練された諧謔を感じました。
2)サーストン・ムーア『Sensitive/lethal』やりたい放題のソロ。最近のサーストンは80年代地下文化専門文化人としての活躍が盛んなようですが、ソニック・ユースの新作もそろそろ…お願いしたいところです。
3)メレディス・モンク『impermanence』
4)V.A『Ambient Not Not Ambient』
Ambient Not Not Ambient

Ambient Not Not Ambient

アンビエントって盛り上がっているのか?という個人的疑問に、ある種の答えを与えてくれました。『No New York』を思わせる上に、さらに蝶番状になった否定句が、やたらと気にかかりました。
5)Iva Bittova 『Superchameleon』(DVD)
6)ふちがみとふなと『フナトベーカリー』ライブで感じる温かい肌ざわりも音盤として定着感が増した、名作、と思います。
7)タージ・マハール『The Real Thing』
8)SUZMENBA 『enitohanicolte』
9)YTAMO『Limited Leafいまはなき「新世界ブリッジ」で、半野田拓とインプロ共演をされていたのがYTAMOさんでした。このアルバムには、あのときの即興ののびやかさに通じる空気が流れていて嬉しい。
10)タワレコで買ったアヴェマリア
アヴェ・マリア名曲集~10人の作曲家による

アヴェ・マリア名曲集~10人の作曲家による

シューベルトが一番好き。
11)Faces『OOH LA LA』
12)ピグミー族の歌唱『Heart of the Forest』
Heart of the Forest

Heart of the Forest

13)Ethan Rose『Ceiling Songs』『Oaks』
Oaks

Oaks

最新作は、古いローラースケート場におかれた年代物のオルガンの音をサンプルし、最新の技術で繊細な音楽に仕上げたもの。
Ceiling Songs

Ceiling Songs

14)さかな『ETCETRA VOL.3』90年代のミニコミのVTR収録のホーム・リハーサル映像。12月29日のエントリーでとりあげたものです。
15)Atomic 『Retrograde』
16)Peter Garland『Three Strange Angels』
Three Strange Angels

Three Strange Angels

Border MusicをTzadikがリイシュー。
17)Lou Harrison『Por Guitaro』
Por Gitaro

Por Gitaro

18)Dax Pierson Robert Horton『Pablo Feldman Sun Riley』タイトルの通り、オーガスタス・パブロモートン・フェルドマン、サン・ラ、テリー・ライリーという意外でもないところがおもしろい顔ぶれの人々にオマージュを捧げた作品。
19)『How Low Can You Go? Anthology of the String Bass』
How Low Can You Go: Anthology of the String

How Low Can You Go: Anthology of the String

Dust-to-DigitalというSP音源を興味深い括りでアンソロジー化するレーベルからの、これは、「ベース」という楽器のアンソロジー第二次世界大戦の前後で、ガラッと変わるような気がする。これは『Mag for Ears』でお世話になったIさんに教えていただきました。
20)Fred Frith & Evelyn Glennie『The Sugar Factory』
Sugar Factory

Sugar Factory

スリリングな演奏で充実作。
21)Thirry Pecou『L'oiseau Innumerable』
L'oiseau Innumerable Piano Concerto Works for Solo

L'oiseau Innumerable Piano Concerto Works for Solo

初めて聴く作曲家。緊迫感のある音の動き、不協和音がある美意識に収束していく様子に、はっとさせられました。ジャケットの現代美術の作品が好き。フランス語が読めたらもっと楽しめるんですが。
22)Gordon Mumma『Music for Solo Piano』
GORDON MUMMA/ MUSIC FOR SOLO PIANO(1960-2001)

GORDON MUMMA/ MUSIC FOR SOLO PIANO(1960-2001)

ゴードン・ムンマといえば豪快な電子音楽と思ってましたが、こういうピアノソロのための静かな音楽も書いていたんですね。
23)Group Inerane 『Guitars From Agadez-Music of Niger』
Guitars From Agadez (Music of Niger) (Reis)

Guitars From Agadez (Music of Niger) (Reis)

年の瀬ギリギリに飛び込んできたアフリカ・ニジェールの音楽!これは衝撃かつ必聴、です。ワールド・ミュージックという括りよりも、「サイケ」と思ったほうが座りがいいくらいだと思う。それも60年代後半のインプロをとにかくダラダラやるジャーマンサイケバンドみたいなギターリフに、アフリカらしい合いの手やコーラスが入って、◎。
24)Hisato Higuchi 『Butterfly Horse Street』
Butterfly Horse Street

Butterfly Horse Street

日本にこんなギターを弾くひとがいたとは知らなかった。ジャケット写真の通りに、陽光を受けた葉のささやきが聴こえるようなギターワーク。鈴木志郎康さんの植物への眼差しにも似たCDでした。日本のローレン・マツァケーン・コナーズと呼ぶと失礼になるのかだろうか。でも、なって欲しい。
25)ジョーゼフ・スペンス『ハッピー・オール・ザ・タイム』
ハッピー・オール・ザ・タイム

ハッピー・オール・ザ・タイム

ブルースで(僕が)発見したのは、この人でした。ヨレヨレボーカルに軽快なギター奏法。デルタだけがブルースじゃないよなあ。

音楽からはもちろん、上に挙げた以上の感動をいただいていますが、とりあえず書き起こせるのはこれくらい。

今年(と書きながら年を越してしまいましたが)は、緒方拳が逝ってしまったし、ボー・ディドリーも、ロバート・ラウシェンバーグも逝ってしまった。アメリカでは黒人大頭領が誕生しましたが、グローバル経済の迎える不況の波及の凄まじさを誰もが感じた年だった思います。来年は自分の職場でも不穏な嵐が吹き荒れそうな予感がしています。そんな中で読んだジャック・アタリの著作「21世紀の歴史」は、自由主義経済の来し方・行く末に見取り図というか、リトマス試験紙をもらったような気もしました。
紹介できなかったCD、自分のなかで感想をまとめきることが間に合わなかった本など、本当は色々ありますが、来年に向けての「残心」(剣道の)としていきたいと思っています。
それでは、良いお年を…というか、本年もよろしくお願いいたします。