みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

Smells Like a Radio!:ブリジット・フォンテーヌの再発『ラジオのように』『野ばらは素敵かもしれない』、SION『I DONT LIKE MYSELF』

先日の『異本論』で本文から引用したような「あたまのなかの見えない編集作業」というのは、読むよりは、はるかに受動的ではあるにせよラジオを聴くときにも起こるよなあ、と。

ラジオのように(紙ジャケット仕様)

ラジオのように(紙ジャケット仕様)

なんど再発されているのか。
その度にボーナストラックが増えるので買いなおし、となってしまう。出る度に決定盤だと思ってきたが、今回は『ラジオのように』の英語ヴァージョンまで収録。内ジャケまで再現、CDのラベルもLPのラベルを再現しているんだと思うし、今度こそ、だろう。
60年代のフランスのある意味到達点的なアルバム(68年・シャンソン・アングラ演劇・フリージャズ)という文脈を超えて、「翻訳家よ、翻訳せよ」という、凍りついたような呟きと、背後に蠢くアート・アンサンブル・オブ・シカゴのスカスカなのか濃密なのか判然としない演奏にフリージャズの妖しい開放性を感じつつ(それでいて、口ずさむこともできるのだ。『ラジオのように』って曲は。)、ジャケットはというと、紫色のフレームの中でこれ以上ないくらいアンニュイな視線を荒れた粒子の中から無時代的に投げかけてくる、すべてが「噛み合った」ひとつの現象として、長く日本では愛聴されてきたわけですが、僕自身はこのアルバムを聴いたのは、中学生の頃で、そのころ梅田の紀伊国屋にはまだレコード売り場というものがあって、その狭いシャンソン棚で、唯一興味を引いたのがこのジャケットだった。シャンソンのCDジャケットのなかで、媚びない視線を放っていたのは、このフォンテーヌのジャケットだけだった。
それはもちろん初めての媚びないシャンソンの体験などというものではなくて、初めての、何にも媚びようとしない異様な表現を音楽として聴かされてしまうという体験だった(「歌ってない・・・これは朗読じゃないか!」「この不定形な伴奏はなんだ!」(もちろんこのときはまだオーネット・コールマンの『ダンシング・イン・ユア・ヘッド』は聴いていない))。Dancing in Your Head
世の中には、若いころに、その方向にただ引っ張られるというのではなく、いつまでもその違和感の中でまどろむようなかたちで衝撃を受けておかなければならない種類のアルバムが何枚かあって、これはその中の一枚だ(トム・ウェイツの『レイン・ドッグス』も入れておく)。Rain Dogs

実際、フォンテーヌの「歌」がありえないような磁場を有しているのは、やはりこのアルバムだけ、ではないかとも思う。
初期の「さかな」のアブストラクトな雰囲気も、今思えば、この罪深いアルバムの影響の傘の下にあったのではないか、とも。
タイトル曲『ラジオのように(Comme a la Radio)』はいまさら言うまでもないのだけれど、ボーナストック『やに(Le Goudron)』『黒がいちばん似合う』のアクの強さも必聴かと。
と、ここまで書いて、SHING02のこれを貼っておきたくなった。

緑黄色人種

緑黄色人種

野ばらは素敵かもしれない(紙ジャケット仕様)

野ばらは素敵かもしれない(紙ジャケット仕様)

80年リリースのサラヴァ最後のアルバム、の初CD化とのこと。冒頭から、フォンテーヌとアレスキの決して混じり合わない独白が、ああ、やっぱりと感無量にさせる、が、それに続く80年代らしい諧謔ポップな音作りに多少戸惑いも。
『ラジオのように』のような、一枚のアルバムが、世界と対峙しているかのようなスリリングな体験は得るべくもないのだけれど、ここには壊れたおもちゃのような魅力があるのかもしれない。
しかし、フォンテーヌを置いておくとして、あらためてアレスキっていい声だと思う。録音を通じてリスナーと一気に距離を詰めることができる資質の声というのか。


I DON’T LIKE MYSELF(紙ジャケット仕様)

I DON’T LIKE MYSELF(紙ジャケット仕様)

SIONはセカンド『春夏秋冬』以来、NY勢とのレコーディングを数回行っていると記憶。このアルバムも、マーク・リボー、故ロバート・クワイン、グレッグ・コーエン、セバスチャン・スタインバーグ、ジョン・ゾーンジーナ・パーキンスなどニッティング・ファクトリー界隈の名士たちと心地よい緊張感を刻みつけている。ルー・リードの『Last Great American Whale』(アルバム『New York』収録)へのアンサー・ソングだと思うとなお愉しい『しろながすくじら』など、メロウな曲もいい。『えらいこった』の諧謔風味は、『かわいい女』にも通じる。
New Yorkそれよりもなによりも、SION本人によって、「これはロバート・クワインさんのアルバム」と温かく回想されていることが、何故だかとてもかけがえのない感覚で、嬉しい。
「ロバート・クワインの、アルバム」。
http://www.robertquine.com/
BLUE MASK-NEW VERSION

BLUE MASK-NEW VERSION

Live in Italy (1983)

Live in Italy (1983)