みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

読書中:デイヴィッド・ソズノウスキ『大吸血時代』

しかし、この邦題はひどいなあと思いながら、内容からすると大袈裟めな愛ある揶揄ともいえるし、大仰な題訳のパロディとすらいえるのかも。ゴシック趣味皆無のユーモラスな語り口と合っていないくもない。

大吸血時代

大吸血時代

そう楽に思わせてくれるくらい心地よい訳文でいいです。って原書はもちろん知らないんですが。訳者のひとりの金原瑞人 氏って、作家の金原ひとみのお父さんなんですね〜。はじめて知りました。
チビチビと読み進めています。
先日書き漏らしたことに、この小説の舞台設定があって、ほとんどこの小説のプロットのミソといえるところですが、この物語世界は、おそらく1990年代くらいから世紀の変わり目にかけて、人間と吸血鬼の立場が入れ替わってしまっているパラレルワールド、ということになっていて、しかも21世紀も多分半ばを過ぎている設定ということ。なぜ、1990年代からなのかというと、主人公の「人間時代」のほとんど最後の思い出として、ストリップ・バーでかかるトーリ・エイモスの音楽、というのがあるから。
ヴァンパイアたちは終わることのない自分たちの人生を普通に働き(夜ですけど)マンションに住み、人工血液を呑んで暮らしていて、人間を襲って血を吸うなんていうことは、もはやほとんど起こらず(人間自体の存在がもはやイエティ並みになってしまっており)、あるとしても金持ちヴァンパイアのために「人間牧場」での特別なメニューということになってます。
そんな中で主人公のマーティは、「人間牧場」から逃げてきた女の子と出会ってしまう(拾ってしまう)。始めはもちろん「食事」にしちゃうつもりだったのが、母親を殺された少女「イスズ」(誤記ではないです)に情が移ってしまい、イスズを匿いながら成長を見守ることになります。

「吸血鬼」ものというのに、自分としてはあまり思い入れは感じてこなかったのだけれど、子供の頃は「ヴァンパイア・ハンターD」とか「ポーの一族」とか(あ、あと「ドン・ドラキュラ」とか)、映画ではコッポラの「ドラキュラ」とか「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」とか「ブレイド」とかありましたね。というかまだまだあるんでしょうけれど。「吸血鬼もの」って、やはり設定と限界の極端さのオプションが出揃っているので、それのどれを残してどれを省くか、どう料理しているのかが、こちらも楽しみどころといえば楽しみどころなのかと思うのですが、この小説、まだ終わりまではいってませんが、よく出来ている・・・というより、作家がニヤニヤしながら書いている様が非常に良く伝わってきます。
あと、イスズの描写の仕方がかなり上手いと思った。
物事シニカルにみて茶化さずにはいられないようなマーティのモノローグとして、この小説の「語り」はあるのですけれど、訳文のコナレ具合もあって、終盤にかかるにつれて、なんだか強烈にウルッとさせられそうな予感がしてます。
ハロウィーンの場面とか、アラスカでスケートする場面なんかは、良かった。

勝手に脳内映画化してみたとことでは、「イスズ」は、ちょっと丸めのダコタ・ファニング(ベタか。海外ドラマの『ミディアム 霊能者アリソン・デュボア』の次女役の顔がまっさきに浮かびましたが)で、「マーティ」は・・・よくわからない、トム・クルーズだと笑えないだろうし、そうだな『LOST』のジャック役のマシュー・フォックスなんかだと、観てみたいかと。

Vamped: A Novel

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