10数年越しのロッキングチェアー:さかなLIVE@SHINBI京都烏丸
アンコール2曲目のイントロを、西脇氏が爪弾き始めたとき、思わずおおおっと呻きを発してしまった。
『ロッキング・チェアー』。
1994年にSSEから『ポートレイツ』と同時にリリースされた名作アルバム『光線』収録の、10数年以上、生で聴く機会を待ち続けた名曲。
メロウかつリリカル、たとえば「サイケデリック」などという下品なものからはるか遠いところにおいて奏でられるこの曲には、やはり強い芯がある。これはポコペンさん独自の「こぶし」なのだとさえ思う。
いや、さかながずっとライブのレパートリーとして残してきたことは、もちろん知ってはいるんですが、少なくとも俺がさかなのライブを観る機会があったこの4,5回において、この曲が演奏されることはなかったのです。だから、感無量。
夜明けを告げに降りてくる天使は
軽やかな煙の翼で
夜明けを告げに降りてくる天使は
やわらかな大理石の素足で
//
このあなたのロッキングチェアーに
主(あるじ)が座っていようといまいと
おかまないなしさFrom “Rocking Chair”さかな
『光線』は、ギターの絡みと「うた」を全面に出した最初のアルバムで、現在のさかなの原型がはじめて音盤の形になった作品だといえる。
- アーティスト: さかな
- 出版社/メーカー: インディペンデントレーベル
- 発売日: 1995/04/21
- メディア: CD
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普通の音楽なら、ここは思い起こすのも恥ずかしい記憶のアイテムとなるところだろうが、『光線』はそうはならない。『Lady Blue』、『Lost Words』、『Rambling Rose』、『Sunset Davie's Home』など全曲が名曲だと、このアルバムに関しては、言い切ってしまえる(多分そんなアルバムが、誰にでも、一枚はある。あるよね?)。
飾りや加工、軋ませ・歪ませ、といった便宜を全く必要としない「うた」。
思えば、現在の予感がその時、このアルバムに詰まってもいたのだ。
興味深いとはいえ、いってみればブローティガンの『西瓜糖の日々』のような夢の中にでもいるような感触でもあった『夏』までの初期さかなの時代から、この『光線』へは、ある種の断絶が確かにあった。
この間さかなに何があったのか、それがただの変化だったのか、基本的なスタイルを見直すことだったのか、それとももっと別の新しい音楽が生まれてきたのか、その実際は、俺などにはわからない(オフィシャルHPの西脇氏のバンドヒストリーが実に興味深い)。わからないけれども、『光線を』最初聴いたときの印象は、ついに「うた」の芯が表出した、というのはおこがましい後付なわけで、「ついにオールタイムベストを作ってしまったな」という感慨だったのだと、今にして思える。
はたしてそんな意識があったのか定かでないけれど、インディーズな音楽の影響圏(というか辛気臭いカテゴリー圏)から早々と脱却してしまった/収まらない自分たちをさらに認識した?ような感があったのだ。
この後、さかなはバンド形態をとったり、また二人に戻ったりして安定した活動をしながら確実に彼らの音楽を必要とする人たちを増やして今に至るわけです。
今日、はじめて最前列で二人が演奏している様子を間近で観ることができて、最近の一聴「カフェー」で聴き易い音楽の中に、やはり、微妙なニュアンスが込められ尽くしていることが、よくわかった。
ポコペンさんも西脇氏も、フィンガーピッキング。
あんまり奏法に詳しくはないけれど、極微なニュアンスから、大きなうねりまで、何重にも感じられる音のヴェールができるさかなの音楽の秘密がちょっとわかったような気が。
開始前、ポコペンさんの定位置の足元にマイクがセッティングされているので「?」となっていたら、ポコペンさんは、歌とブルースマンのようなギターカッティングとをこなしながら、タップ・シューズでパーカッションまでするのだった。西脇氏のリッケンバッカーのトーンへの配慮は、曲全体を通したリフとなっても途切れることはなかった(西脇氏の右手の爪は、ピッキングのためか長い。絵筆を持つのに支障はないのだろうか?)。
時折、ケイルが抜けた後のヴェルヴェット・アンダーグラウンドの、こちらが戸惑ってしまうくらに底なしに優しげで、ギターという楽器を愛してやまない風情がどうしてもちらついてしまった(『Ⅲ』とか『LOADED』とか『LIVE』ですね)。
俺は多分、とても幸せな音楽ファンなのだと今日は素直に思うことができた。それは平静な感慨だった。
- アーティスト: さかな
- 出版社/メーカー: インディーズ・メーカー
- 発売日: 2006/04/27
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話しかけてほしそうな歩き方
話しかけずにはいられない歩き方生きのびてる
生きのびてる
あの優しいほほえみが
From “Rambling Rose”さかな