みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

勅使河原宏の映画を2本CATVで観た。:『他人の顔』、『動く彫刻ジャン・ティンゲリー』

最近、仕事の内容クオリティー・チェックが新基準になるにつれて、今まで普通にこなしてきたことを改めて仕切り直す必要が出てきて、通常の業務でも帰宅後どっと疲れていることに気づく。乗り切らねば。
昨日の7日(水)は非番だったので徹底的に無為な一日を過ごすことに。

日本映画専門チャンネルをつけると安部公房原作・勅使河原宏監督の『他人の顔』(1966年)が始まったのでそのまま釘付けに。勅使河原監督の映画は恥ずかしながら『砂の女』しか観ていなかったし、原作も『箱男』は結構好きで3回くらい読んだと思うけれども、『他人の顔』は一度も読んだことがなかった(こういうムラがよくあります)。
事故で顔面というものを失った男が辿る不条理の理(ことわり)を描いたような話で、男を仲代達矢が演じ、男の妻を京マチ子が、男に「他人の顔」を提供する精神科医役を平幹二郎(若い!細い!映画が半分進まないと分からんかった)が演じている。岸田今日子が平医師と不倫しているナース役。市原悦子がヨーヨーに執着する娘役で登場。音楽は武満徹ビヤホールのシーンでエキストラで登場)。結構印象的なイタリア映画みたいな旋律が耳につく。美術は、耳の彫刻で有名な三木富雄。診察室などは現代美術のギャラリーのような浮世離れした空間だが、ここが心理描写ともなっていて上手い。脚本化も安部公房自身が行っている。
当然ながら、『輝け60年代―草月アートセンターの全記録』asin:4845902397がまとめていた草月アートセンターの熱い時代の匂いが濃厚。
冒頭から「顔」を失った男のレントゲンを通した骸骨が喋りだす異物感たっぷりのアップから、包帯ぐるぐるの「犬神家」のスケキヨ状態を経て、やっと仲代達矢の顔が拝めたと思っても、それは精神科医が用意したプラスチックの顔であり、本人の顔ではないという設定だから、もとの「素顔」というものが入念に観るものから隠されていることになる。仲代達矢の表情の作り方は、装着直後のぎこちない感じから、大分慣れてきて妻を別の顔で誘惑する場面、それから実は妻ははじめから夫だとわかっていて誘惑を受けていたことがわかり、あらためて夫との溝が確認されてしまい、家から男を閉め出してしまうシーンまで、確かにプラスチック製ならこうかも・・・と思わせながらも「自然に」みせてしまう。
ついに誰でもない人間になった男が、自分の来歴を知る唯一の人間である医師を殺害して、夜の街に溶け込んでいこうとする最後に「他人の顔」だったはずの「自分の顔」を撫でさする形相が、なんとも恐ろしい。普通のスリラーでは描写不可能なタイプの怖さ。『砂の女』を観たのはずいぶん前だが、これほど強い印象ではなかったような気がする。
ここで持ち出すの適当かというと微妙だが、たとえば「甲殻機動隊」(劇場版第一作)では同じような構造のラストシーンといえるんじゃないのかと思うが、あちらは自分の内面自体が揺るがない「ゴースト」としてあって、それがどんな場所にも顕現できるという可能性を示唆していのものだったのかと。反面この『他人の顔』の場合は、自分の内面自体が外面である「顔面」(駄洒落みたいになってきた)に侵食されて無くなってしまい、「誰でもない者」となって都市に紛れ込もうとしている。「誰でもない者」の存在を許容する都市、という設定は、『箱男』などでも持ち出される安部公房らしいモチーフだったなあと想起。
いずれにしても、モノクロの画面も美しく、なんだか久しぶりに質の高いを映画を観たなあと充実した時間でした。

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夕方には『動く彫刻 ジャン・ティンゲリーがあり、これは15分くらいの短いものだった。60年代にジャン・ティンゲリーJean Tinguely)が来日し、南画廊で制作・展示をしたときに撮影されたフィルムを80年代にまとめたもの、ということだろうか。
ティンゲリーは、廃材となったさまざまな機械の断片を組み合わせて動くオブジェにしてしまう作家(90年代に没)。「機械を目的から解放してやりたいのだ」と。愉快な永久運動を続ける目的の無い機械群は、シュールな生き物が自由を謳歌してさえずり合っているようにも見え、サウンドアートとしてもおもしろい。
オブジェは、クレーのリトグラフさえずり機械』とか、デュシャンの『大ガラス』に描かれているなんだかよくわからない機械群がそのまま現れたようにも見える。
そういえばティンゲリーが何かのインタビューで(多分、東野芳明との)こんな内容のことを言っていたようにおもう。

ピカソデュシャンは現代美術の両極だ。自分はそのどちらになりたいとも思わない。その間でやることがたくさんあるんだから。

ニュアンスちょっと違うかも。
ただデュシャンはともかく、ピカソの匂いはティンゲリーからはまったくしないと思うんだが。陽気なダダ因子はやっぱりシュヴィッタースあたりからでは?と思う。

この短編の後は『アントニオ・ガウディ』だった。建築音痴のため、ガウディの建築をここまで細部まで撮った映像を観るのははじめてでした。聖家族教会。いまだ建築中(・・・そうですよね?)、というのは壮大な話だ。
『ガウディ』以外はこっちのボックスで観れる様子。

勅使河原宏の世界 DVDコレクション

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それにしても、勅使河原監督が『箱男』を映画化しなかったのは示唆的だな、と勝手に妄想する極私的後日談(石井ソーゴ氏が撮る話があったらしいですが)。