みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

ウィー・ドント・プレイ・リクエスツ。:ワイヤーの1979年のドイツライブを見直す

On the Box: 1979 [DVD]

On the Box: 1979 [DVD]

先日も書きました通り、最近初期ワイヤーに嵌っております。
ドイツのテレビ番組らしきもので1979年にやったライブ映像。貴重なインタビューも20分収録。
スタジオ内の素朴な観客が痛々しくも歯がゆくナマうれしい。
セカンドの『Chairs Missing』をリリース後のもので、サードの『154』の曲を披露しています。
「We Don’t Play Requests.」とは、多分『Pink Flag』の曲をせがんだ聴衆に向けて、アンコールの前に、ベースのグラハム・ルイスが吐き捨てた言葉。ステージの後にインタビュアーに「ドライだね」といわれて、ルイスは「そうか?つうか俺達リクエストに応えたことって一回もないんだよね。そういうバンドなの。」というふうな事を答えていた。客が望むジュークボックスのようなバンドの対極にあったバンド、というよりも、常に「表現したいこと>表現形態」というアートプロジェクトが「ワイヤー」だったのだろうから、パフォーマンス空間であるステージに「リクエスト」というサービスが入り込む余地も余裕もなくて、彼らとして自然だったんだろう。
演奏を聴いているとこの時点で、このバンドが本当に「アイ・アム・ザ・フライ」や「1.2.XU」や「Too Late」を本当に演奏していたんだろうか?という程、別のバンドのように思える。一曲一曲はとても短いが、ぐったりするほど知的なテンションが漲っている。『Mercy』がハイライトかと。
コリン・ニューマンのような歌い方をする新しいバンドは、今でこそ一杯いるようだけれども、個人的にはこの頃のワイヤーの、パンク版文楽のような演奏にこそ心が奪われる。
考えてみればミニマルパンクな「1.2.XU」でさえ、自分達の素材と最小限で採り上げるポップ要素に対してシニカルな見方を提示していたのだとさえいえるんだろう。

この映像をあらためて観て気付いたのは、GのBCギルバートが一人後ろに引っ込んでいて、VO+Gのコリン・ニューマンとBのグラハム・ルイスは双頭フロントのように見えるような位置取りであること。
ルイスはコーラスもやっているし、インタビューでも相当語っていて、姿勢が前のめりだし、シュワ州知事をナヨっとしたような(?)個性的なルックス。ニューマンは、ステージではダダイスティックな切れ味のパフォーマーだが、語る物腰は、ルイスよりは柔らかく、証券マンか何かのようにきちっとシャツにタイで短髪、今の世に登場しても十分イケている(うわ、とうとうこの言葉を・・・)。ギルバートは学者のような佇まいでトップが短く後ろが長い変な髪形が妙にマッチ。Drのロバート・ゴートゥベッドは、インタビューでは全く喋らず眠そうだった。
前の書き込みで「ダイエットしたサイケ」と書きましたが、英WIRE誌の「めかくしジュークボックス」で、BCギルバートが初期のピンク・フロイドに関してこんなコメントをしているのを発見(かかっていた曲は、Astronomy Domine)。

いわゆる「ニュー・サイケデリア」のことだね。そう言われても、われわれはまったく理解できなかった。私は間違いなく違うけど、グラハム・ルイスやコリン・ニューマンは影響されていたかもしれない。でも、影響されたとしたら、直接的な影響ではなく、じわりと染み入ってくるような影響だよ。シド・バレットに影響された可能性はあるかもしれない・・・・コリンは確かに60年代生まれだから、時代性としたはぴったりだ。ワイヤーのときは、すごく若かったんだ。子どものころ、友だちと一緒に遊んでいたときに、ピンク・フロイドが話題になったのかもしれない。

工作舎 刊「めかくしジュークボックス」p.133

ワイヤー自身が、今の多くの新しいバンドに、じわりと染み入っている遺伝子である筈だ。