みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

富岡多恵子『物語のようにふるさとは遠い』

現代詩人・作家の富岡多恵子による歌謡曲への詩からのアプローチということだったようですが、<不気味>といっていいほど奇妙な抑揚の詩人の歌唱は、単なる「詩の朗読もの」ではなく、かといって歌謡アルバムでもなく、本作にワンオンドオンリーな強度を与えています。

歌詩は重い現代詩ですので、これをそのまま歌うと歌唱力やことばのクオリティがどうであれ、ある種のアングラフォークになってしまうことは容易に予想がつきますが、それを他にないものにしているのが、作曲、アレンジ、演奏までこなしているYMO結成以前の坂本龍一の仕事だと思います。
歌伴という基本は守りながらも、相当奇妙で現代音楽的に響く局面もあり、ニューウェーヴが好きな人なら結構いけるアレンジだと思います。

重い言葉を微妙にニューウェーブ的なサウンドが中和し、多焦点的なサウンドに詩人の言葉が核を与えているかと。
こういう一筋縄ではいかない作品を聴くと、あらためて「うた(詩)を歌う」ということは・・・・と、考えさせられてしまいます。
シュヴィッタースの「原音ソナタ」に即して形容するなら、「原詩フォーク」でしょうか ・・・て、相当強弁ですか。
というのが、「音楽」側からみた場合の僕の評価ですが、一方「現代詩」の側からみれば、異種格闘技的な領域に突出した達成度の高い作品という事にもなるのではないかと思います。

それにしてもジャケ写真が良いと思ったら、アラーキーでした。