みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

クリスチャン・ウォルフ「Look She Said」

ジョン・ケージ易経を教えたというクリスチャン・ウォルフ。マイケル・ナイマンの「実験音楽―ケージとその後」では、アメリ実験音楽の始源でもあるニューヨークスクールの一人として、アール・ブラウンと共に、ケージやフェルドマンより過激な印象を残すし、『ジョン・ケージ小鳥たちのために』では、ケージによって「音の自由」をめぐる対話の中で、ミニマルミュージックのテリー・ライリーやシュトックハウゼンに対置されてたりしています。そんなこともあって、ウォルフの音楽全体が、実験的不確定性カオスのど真ん中に位置するようなイメージを与えがちです(それも一部分ではあります)が、このダブルベースのための作品集「Look She Said」(サブタイトルは、「Complete Works for Bass」です)では、それほどアナーキーさは感じられない。フォークソングをベースにしたものもあり、トロンボーンがからむ曲などは何かしらとぼけた味わいすらある、かなり聴きやすい部類で、むしろ「実験」を期待する人は、はぐらかされたと思って怒るかも。
しかしこの作品集は、ウォルフのダブル・ベースという楽器への関心(巨大なボディに比して静謐な低音)があらゆる方向・可能性に拡散しつつ収斂した結果であり、偶然性や不確定性よりはむしろ、奏者の技量と特性(名手ロバート・ブロック/Bang on a Can)を信頼した上で、楽器に徹底的に向き合い、その結果、禁欲的な世界を作り上げている。そういった意味での豊かな実験結果でもあるのかと。ちなみに6-9の「Jasper」は、無論現代美術の巨匠ジャスパー・ジョーンズへのトリビュート。