みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

『キツツキと雨』、チェリー家のひとびと:CherryThing, Neneh Cherry, Don Cherry, Eagle Eye Cherry

キツツキと雨 通常版 [DVD]

キツツキと雨 通常版 [DVD]

地味な作品なんですが、かなり面白く観れた。
本の中で本を書いているとか映画の中で映画を撮影しているとか、そういうメタちっくな趣向のお話が好きな傾向にあるのはこれは私の元々の性分ではありますが、小栗旬の青年監督が現場から逃走を図りながらも撮影する映画がゾンビ映画で、その設定の中に滅亡しかけの人類が時折ゾンビの子供を産むなどというアメリカの映画少年がそのネタだけでゾンビ映画を撮ってしまいそうな斬新な(笑)ネタをたたみ込みながら、ロケ地で撮影に協力する羽目になった林業者の役所広司はその台本を読んで感動して泣きもするという・・・『キツツキと雨』という作品全体が、人はつかの間出会って、またそれぞれの生活に戻る、でも出会う前とは確実に何かが違っている、という大切な事の中心を丁寧にあつかっていて、ところどころどうしても吹き出してしまうコミカルな演出にもベタつくような後味はない。
映画とは一つには、もちろんこういう物語を、映画自身のことを、協同してつかの間の世界を創る事を(そしてつかの間の世界であることを)物語り祝福するために作られるのだな、と思い至らせてくれる。

Cherry Thing

Cherry Thing

Neneh Cherryとマッツの爆裂パンクフリージャズ「The Thing」(来阪ライブ行けなかった…)のコラボ盤。やっと聴きました。The Thingの演奏がバカデカくバカ鋭いだけじゃなくて、バカ繊細なのに狂喜するとともに、Neneh Cherryが優れた歌い手だったことをあらためて認識。NYの廃液デュオSuicideの暗黒子守唄「Dream Baby Dream」のしなやかで愛おしげなカバー。それからIggy & The Stoogesの名盤『ファンハウス』からはもっとも単調かつダウナーなナンバー「Dirt」をあえてというか納得のチョイス、最後はLou Reedがニコに捧げた「Wrap Your Troubles in Dreams」、Ornette Coleman, MF Doomというセンスだけでも楽しませてくれますが、完全にこのバンドの音楽として聴こえてくる。まちがいなく、今年ベストの一枚。

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Knee Deep in Hits

Knee Deep in Hits

その、Neneh CherryがDon Cherryの実娘ではないということはつい最近まで知らなかった。「ロウ・ライク・スシ」から「Buffalo Stance」がクリアヒットしたとき、たしか自分はRip,Rig&Panicの事を知っていて、一人にんまりとしていた記憶があります。90年代のトバ口で、自分が知っているヒップホップはデラソウルかNeneh Cherryという状態で(Jurassic5もGangstarrも知らなかった、今聴いてこんなに好きなのに)、自分はポストパンクを掘り起こして聴いていた。The Pop Groupから割れ出たRip,Rig&PanicのCDで輸入盤屋に置いてあるのはこの上の編集盤だけだった(5年くらい前に全作品CD化された)。昔のミュージックマガジンを読むと、PIGBAGは絶賛でもこのRip,Rig&Panicだけは「インテリぶってる」とか酷評しか載っていない(とうよう氏ですが)のは最近知った事で、大学の頃の自分には、この編集盤に漲る「何処にも向かわない」ような自由な空気がまったく得難いもののように感じられて何度も聴いた。収められているのは彼らの曲の中でもフリージャズとパンクとファンク混成の霞がかったようなフリーキー度が低い(つまり「まともな」)曲が中心だけれども、例えば「Sunken Love」のNeneh Cherryの歌声は今でも時々脳裏で再生して瑞々しい。
ちなみにON-U界隈のNEW AGE STEPPERSの諸作は最近になって聴いたのだけれども、Rip,Rigのほうが強烈な刷り込みで自分には薄い印象だった。

鉄火肌。

ああ、この曲!あったなあ〜

90年代の後半にWIRE誌を読んでいたら目隠しジュークボックス(この企画はミュージックマガジンWIREからパクったものだ)でNeneh CherryがDon Cherryの「Brown Rice」を聴いて「懐かしい。この音楽の側で育ったのよ」みたいな事を言っていた。

BROWN RICE

BROWN RICE


自分が「Brown Rice」の何とも言えない魅力に気づいたのはこれもまた最近の話です。


Don Cherryといえば、70年代の最後のあたりでLou Reedと一緒にやっていたのでした。先日の淀川花火の時にIさんにDon Cherryと共演しているLou Reedのライブブートを貸してもらって、そうだそういえば「Bells」というアルバムにはDon Cherryがペットを吹いている「All Through The Night」という曲があったなあと思い出した。ライブも何度か一緒にやっていたのか、と。貸してもらったブートのライブはアルバム「Rock & Roll Heart」の頃のライブのようだった。冒頭に7分くらいの即興ジャムがあって興奮する。ただ、Cherryとしては、この時代、自分自身の音楽はかなり民族音楽色の強い自由なものをやっていただろうから、Lou Reedの曲だと退屈ではなかったかな、などとも思ってしまう。
それでYouTubeを探してみると、

アルバム収録の中期の名曲『Temporary Thing』のライブ音源があった。Cherryのペットが後半を盛り上げている。

「All Through The Night」のライブ音源もあった。バンドサウンドはほとんどヒップホップのベーストラックのように聴こえる(もちろん悪い意味でなく)。Lou Reedが最初の白人ラッパーだという説もあながち収まりが悪いわけじゃない。

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そういえばDon Cherryの実子のEagle-Eyeはどうしてるんだろうと気になったらYouTubeを一時間くらい彷徨う事になってしまった。とはいえ、Eagle Eye Cherryは恥ずかしながらヒット曲「Save Tonight」しか知らない。

あらためて聴いて、いい曲だなあと思った。かなりハイトーンなのに抑えが効いた声質や、カッティングの疾走感が清々しいギターはわかり易い魅力だとして、歌としては何がいいんだろうと思って歌詞をここから拝借して何度も再生して考えてみた。

Go on and close the curtains
Cause all we need is candle light
You and me and a bottle of wine
Going to hold you tonight
Well we know I'm going away
And how I wish, I wish it weren't so
So take this wine and drink with me
Let's delay our misery

Save tonight
And fight the break of dawn
Come tomorrow
Tomorrow I'll be gone

1コーラスだけだけれども抜き出してみると、要するに「朝が来たら俺はここから去らなきゃ( I'll be gone)」という、ツアー中のバンドマンの恋をいくらか戯画化したような歌詞なのですが、Eagle Eyeの歌い回しは抑制が効いていて何気ないけれど個性的で飽きさせない。
良く聴くと、例えば3行目のa bottle of wineのつぶやくようでいて転がるようなアクセントや、それ続くGoing to hold you tonightは殆ど一気に吐き出されていて一つの単語のようにも聴こえてフックが効いていて「これはどうなるのかな」と思わせる(と思う)。そのあと3行はやや普通にメロディーを追って歌詞を聞き取らせて最後のLet's delay our misery(俺たちに訪れる筈のみじめさを先送りにしよう)と所は悲しいくらい強い決意を込めてサビの感情を迎え撃とうとしている(ように聴こえる)。
ひとことで言えば、味のある歌い回しという事になるのだろうが(それで済ませたくないのでこねくり回しているのです)。

静かな感情の高ぶりを積み重ねる歌い方が、『Save Tonight』をここまで観客に大合唱させるようなヒット曲にしているように自分には思える。

アコースティック・ヴァージョン。

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そうだ。このCherryさんもいたのだった。

David Ornette Cherry。でも殆ど聴いた事がない(申し訳ない)。父の恩師からミドルネームをもらったDavid Ornetteのピアノ。初めて聴いた。美しいな。

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彷徨っていて見つけたスラッシュの「Sweet Child of Mine」。となりの人、アクセル・ローズが歌うよりも好きだな。

あと、最後に。
この人↓凄い。