みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

Purely,frankly,Suddenly,CardBoard!!:突然段ボール『純粋で率直な思い出』

nomrakenta2007-09-07



突然段ボール」はご多聞にもれず『ホワイトマン』が好きだった。
やっぱり88年に出た「レベル・インコーポレイテッド」で初めて聴きました。その中で一番好きな曲だった。何回も聴いた。いや今も聴きつづけている曲のひとつです。
「ほとんど判断停止になるくらい乾いた諧謔」というのが僕の「突段」に対する印象でした。
その後やっと『成り立つかな?』の唯一無二のプレハブ(C:湯浅学実験音楽のすきま風の美を知り、20周年記念の3枚組み未CD化曲集成盤『アイ・ラブ・ラブ』のボリュームに、「諧謔」などという言葉が端から撫で聴いた浅いものであることを思い知りました。
[rakuten:ebest-dvd:11034075:detail]
兄・栄一氏が鬼籍に入られた後の初のフルアルバム『純粋で率直な思い出』[asin:B000UZ6W8Eは、なんとデビュー前1977年〜1988年のレアトラックを集成した『初期未発表集No.1』(色んな意味で、本作と聴き比べるべし!→ココ*1から「所在無し」、「叩け抽出プラン」、「ミルクを飲もう」、「ジャッジ」(NOWAVE風ジャムで本作の一つの聴きどころ)そしてアルバムタイトルにまでなってしまった「率直で純粋な思い出」が再録されています。初期曲にほんのりダダ風味のアート感覚が横溢しているのは当然としても、前半の「ミサイルの長旅」〜「ハンディキャッパー」に続く倦怠と絶望をかきむしりながら疾走する勢いは、今の時代ほんとに得がたいもの。
単純に初期が良かったね、などという軽率な人々を吹き飛ばす力があるかと。

『初期未発表集No.1』で聴くことができる「率直で純粋な思い出」とその歌詞は、かなりアイロニカルなものですが(そしてそれが突段の基本的な味でもありますが)、このニューアルバムのタイトルとして再生したそれは、実はアイロニーを何重にも裏返した末に、存外まっすぐなものになっているんじゃないかと思う。
ジャケットが『成り立つかな?』を模していつつ、20数年前と現在の違いを如実に示しているのも、この意味で納得できるんじゃないかと。

全歌詞が栄一氏のものであることは、俊二氏が、栄一氏の存在に寄りかかっている事を示しているのではなく、今ほんとうに「存在しない」ことにさえ、ひとつの要素として上手く距離がとれていて、突然段ボールという現在進行形のバンドが成り立っている。中心がしっかり座ったいい感じが伝わってきます。

突段は、いつまでたっても噛み砕けない、腑に落ちない、座りの悪さを一本通すことにかけては世界一のバンドだと思う。それはこのアルバムでも変わっていない。
『アイ・ラブ・ラブ』に引き続き、湯浅学の名ライナーが言うように、

アートっていったらお芸術だと思ったら大まちがいだってことを突然段ボールはずっと伝えて来たのである

これはデビューアルバムだ。
確実な間違いを犯しながらそれでもそう呼んでも損はないと、純粋で率直に、そう思います。

*1:僕はこのCD−Rの存在をネットで知って日本カセットテープレコーヂングに注文しました。「ホワイトマン」以前の粒だったポップソングの数々に驚愕しながらも、実は音質の悪さが残念ではありましたので、本作での再録はその意味でも嬉しい。