高橋悠治×内橋和久『二人会』@新世界BRIDGE
先日の「ポジティブシンキング!」に比べると、満員と呼べそうな入りだった。
今夜の即興セッションは休憩を挟んでの二部構成。高橋悠治はピアノはもちろんLaptopも操作。空間的なノイズや「遠い」や「赤い」といったふうに聴こえた、ほとんど意味を削ぎおとされた音声を緊張感ある間で演奏に差し込んでいた。内橋和久は昨日と同じくギターとエフェクター類(だと思いますが・・・)を駆使して断絶性と密度という相反する要素を両立するようなプレイ。
もちろん、わたしの陳腐なコメントなど、あらかじめ無効なクオリティでした。
打楽器などは一切なかったのだけれど、二人の演奏からは大きな鼓動のようなリズムがびしびしと伝わってきた。その証拠に演奏に聴き入っていく人たちは次第に頭を激しく上下させていくのだった。
だんだん二人の即応関係が地ならしされていく後半もすごかったけれど、導入部数分のどぶ板を踏み抜いたサティのようなピアノの部分がおもしろかった。
僕の斜め前に、神経症らしい人が座っていて、演奏がスラッシュするたびに、身体を反応させていた。それがまた、リズミカルな動きで、比較的ゆるやかな部分で指揮するようなそぶりもしていらっしゃたが優雅なものだった。二人の濃密なインタープレイに唯一付け加えて良い音があったとすれば、このひとが、手に持ったビニールコップを指で弾く音がそれだったかもしれない。
短いがタイトで比較的ユーモラスだったアンコールが終わったあと、内橋和久が「高橋悠治さんは7月のFBIにも二日間来てくれます。これがこの場所の本当の最後のイベントになります」と言って、あらためてこの場所がなくなるのだ、と凛然とする。
ケージの「ソナタとインタリュード」や藤井貞和との「泥の海」、ジェフスキーの「不屈の民変奏曲」(そしてもちろん「ゴルトベルク」)といった個人的マスト盤やその他日本の現代音楽の最重要作の演奏を残してきたこの人と、同じカフェスペースでビール飲める空間など、やはり普通はありえないのだろうか。
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『高橋悠治コレクション1970年代』を読み直していると、エリック・サティに関する文章があらためて素晴らしいと思った。
高橋悠治は、短い各断章の最後部分で何度もサティの言葉を引用しながら、
さきへすすもう。このテーマにはあとでもどってこよう。
と書いて、ついには「このテーマにはあとで〜」さえそぎ落とされて、
「たいへん年とった時代」に、たいへんわかく、わたしはこの世界にやってきた。」(サティ)
さきへすすもう。
と終わらせている。
この文章、サブタイトルが「記憶喪失の教訓」なのだとしても、テーマに戻ることが一切なかったことで読者が裏切られたのではなく、逆にもっとも美しいかたちで鼓舞されたのだと気付けるのは何故なんだろうか。
高橋悠治|コレクション1970年代 (平凡社ライブラリー (506))
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