みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

モートン・フェルドマン『For Philip Guston』

ケージと共にアメリ実験音楽「ニューヨーク派」を代表するフェルドマンの1984年作の記念碑的作品(らしい)で、CD4枚・4時間超の長大な曲。この大曲は、友人でもある画家のフィリップ・ガストンに捧げられているが、その境界が果てしなくぼやけていくような音世界は、ガストンの画風でいえば、60年代以降のシュールで風刺的、キャラクター的な形象が出てくる絵画よりも、それ以前、50年代の筆触が陽炎のような気配の抽象絵画の作風をイメージした方がしっくりくる。
フルート、パーカッション、ピアノの三つの楽器が入れ替わりで(つまり殆ど重ならずに)極めてスローなピッチで演奏されていくスタイル*1で、徐々に「合奏」になっていく場面もあるが、そのころまでには、普段よりも各楽器の音色やピッチに敏感になっているのに気付く。
こういった感覚は、確かに抽象表現主義の絵画の巨大なカラーフィールドの中を目がさまよっている時のものに似ていて、「音によるタブロー」といわれるのも納得できる。*2イメージを享受するのではなくて、能動的な聴取の態度を要求してくる。
とにかくこの長さとスローさに引いてしまうかもしれないが、数あるモートン・フェルドマンの長い曲の中でも、楽器の音色が特にとっつきやすいもので、はまるとトローンとしたワビサビ状態を延々と味わえる。

フィリップ・ガストンの画集では、僕が持っているのはこれ。↓

*1:この収録用にこの三つの楽器用に編曲されている様子。他の情報ではピッコロなど他の楽器の名もある。

*2:M.フェルドマンは他にも美術家あるいは芸術家に捧げた作品を書いている。例えば、マーク・ロスコ、フランク・オハラ、ジョン・ケージ、サミュエル・ベケットなど。