みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

SONIC YOUTH『Smart Bar Chicago 1985』

Smart Bar Chicago 1985

Smart Bar Chicago 1985

アマゾンに注文していたものが昨年内に届いていた。
現在休止中でメンバー各自のプロジェクトで活動中のソニック・ユースの1985年シカゴのバーでのライブ音源。時期としては、まだバンドの「初期」といえる、サードアルバム『Bad Moon Rising』をリリースそしてSSTから『EVOL』をリリースするまでの谷間の時期。ソニックユースの自らを「アメリカン・ギター・バンド」とする自覚が方向性にもはっきり出てきた時期といえるかもしれない。
プレイしている曲も『Confusion is sex』と『Bad Moon Rising』からが大半だが『EVOL』に収録されて代表曲のひとつになる『Expressway to Yr Skull』のかなり早い時期ヴァージョンがある(しかしほとんどこの後と変わらないからこの時点で完成された曲だったようだ)。内容が素晴らしいとの前評判だったが、確かに、本盤で聴けるソニック・ユースの音は、ハードコアパンクのように荒削りでいながら、一枚岩ではない。長大なヴェールが重なったようなある位意味荘厳さのあるギターノイズが突っ走っていく演奏が聴けるのはファンにとってはありがたい。
この時期のライブブート盤としては、これまでは『Walls Have Ears』が有名一枚で、ヴォリュームと内容もかなり濃ゆい。しかしこの『Smart Bar Chicago 1985』によって、『Walls Have Ears』よりもさらに時期的に『Bad Moon Rising』期ど真ん中の演奏が聴けるということになった。
また、この時期は、ドラムのボブ・バートを馘首にしてハードコア・パンクのクルーシファックスにいたスティーヴ・シェリーにスイッチした直後という意味でも重要。
個人的にはボブ・バートの原始的モーリンタッカードラムも捨てがたいのだけど、この時期のメンバーはバートの演奏能力でバンドの音楽が制限されていると考えていたようで、バートは何度かクビされては呼び戻されるという扱いを受けている。それが結局シェリーに定まったというのがこの時期なのだろう。

ソニック・ユースは、デビュー当時から、ノイズ・バンドと思われてもいわゆる当時のインダストリアル・ノイズのバンドではなく、テレヴィジョンとミニマル・ミュージックとノー・ニューヨークの間の嫡子でありつつ、徐々にアメリカンギターバンドとしての本性も出していった結果「オルタナ・バンド」という粗すぎな括りの中でも結局納まりが悪かったという、ほとんど類のないバンドだった。ロック・オルタナティヴの原初的なイメージにソニック・ユースは親和するかもしれないが、ソニック・ユースは「オルタナ」ロックバンドではない。

これはデビュー作『SONICYOUTH』が、きわめてオブスキュアなミニマル・ギター・アンサンブルであったことからも明白な事だと思う。
しかし、このころのサーストン・ムーアは、同著でのキムの証言によれば「ハードコア・パンクしか聴かなかった」という興味深いエピソードもある。ハードコア・パンクに拮抗可能なバンドとして、次の『Confusion is sex』ではハードコアパンク的にドロドロ溶解した音像になっているという小断絶をごく初期においてやってのけている。『Confusion is sex』での、凍てつき猥雑でキリモミするような音像は、ある瞬間から陶然とその中に浸ってしまえるような危険なものだが、ここにははっきりとギター・バンドとしての胎動がある。
続く『Bad Moon Rising』は、語法に磨きをかけてきた変則チューニングでのノイズ奏法の初期の集大成であり、アメリカン・カルト・カルチャーを独特の角度で切り取ってみせた。名曲『Death Valley 69』は、ブラック・サバス的なリフをこの時点のソニック・ユースのギターで奏でればここまで独自なサウンドになるという好例のひとつであり、そこにリディア・ランチがゲストで参加もするというボーナスもあった曲だ。このとっておきな曲を、この1985年、シカゴのスマートバーでのギグでは、冒頭2曲目にぶつけてきている。続くのはアルバム冒頭の『Intro/Bravemen Run』。図らずもここでアルバム『Bad Moon Rising』が逆向きにループされてしまっている。

探してみると、この映像は同じく1985年のライブでの『Death Valley 69』。

ちなみに、ジャケットの何枚かの写真をみると、足元にエフェクター類がほとんど見えない(上手く隠れてしまっているのかもしれないが)。かつて唯一邦訳された「SY本」に、オープン・チューニングで十分音のヴァリエーションが表現できているのでエフェクターをそれほど必要としなかったという記述を読んだ気がするが、それを確認できるかのようなライブ写真だ。


この盤が届いてから、昔出たソニックユースの伝記本『コンフュージョン・イズ・ネクスト(ソニック・ユース・ストーリー)』アレック・フォージ著(1994年、日本語訳は1996年初版)を読み返してみると、現在ソニック・ユースが無期限休止中なだけに、かなり興味深く読めた。
それでソニック・ユースのアルバムも編年的に聴き返してみたのだけれど、個人的にやはり『Dirty』から『ExperimentalJetSet』あたりのグランジ〜ロウファイ期のアルバムにあらためて愛着がわくということはなかった。
何度も聴き返しているのは、最初期からこのライブ盤まで、それから『DayDreamNation』と『Goo』、そして『Thousand Leeves』から『ムーレイ・ストリート』あたりのアルバムになる。


Sonic Youth

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