みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

2月から3月にかけて〜『PINA』、Fred Mcdowell『TheAlan Lomax Recordings』、Glenn Jones『The Wanting』Jack RoseとのDVD『The Things That We Used to Do』


2月の末か3月の第1週だったと思いますが、ヴィム・ヴェンダースの『PINA』が梅田で上映していることを知って、仕事を定時ダッシュして観に行きました。ピナ・バウシュ舞踏団をヴェンダースが撮った3D映画、ということで、なんでも最近のヴェンダースはもはや3D映画しか撮る気にならないと言っているとの記事を何かで読んでいたのですが、その言葉の裏付けは確かにこの映画から感じました。
もしかしてこの組み合わせに「お芸術過ぎる」と感じている人がいるとしたら、とんでもない、とても「フィジカル」な映像体験だと言っておきたい。

冒頭、ゆらめく薄いカーテンの裏から舞台に出てくる舞踏団の行列を、カーテンの端が斜めに観客に迫ってくるように過ぎりながらのショットから、舞台の踊り手の真ん中に入り込んで撮るやり方、これが踊り手たちの遠近がとてもリアルに感じ取れて、3D映画をまだ進んで観る方ではない自分としてはこの映画は、はじめて3Dであることの必然を感じさせてくれた作品になりました。
舞踏団のいるヴッパタールという街も『都会のアリス』以来縁のある都市だろうし、有名な吊り下がったモノレールといい、とても立体的な想像力をかき立てる都市だったんじゃないだろうか。ヴェンダースは本当に良い素材を得たものだとも思った。
ピナ・バウシュご本人の映像はあまり出てこないけれど、舞踏団のパフォーマンスはどれも面白く感じた。舞踏というものに全く疎いので、自分には研ぎ澄まされた人間の身体のひとつひとつの動きとそれが集団化したときの言葉にならないドラマみたいなものとして受け取っていたと思う。

2月24日は、スタンドアサヒで、東京に行くKさんの送別会。Kさんが手掛けた友川カズキのDVD『花々の過失』はまだ本編を観ていないのだけれど、丁寧に作られたブックレットは友川さん若かりし頃の写真や絵画作品が一杯。
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2月月末29日はエポックでの東瀬戸悟さんのトークイベント『Fuer Immer』。Laibachの話でした。Laibachは自分の中ではインダストリルなイメージが先行していて避けるわけでもないのだけれど殆どまともに聴いたことがなかった。東瀬戸さんの映像選曲とお話で、ライバッハが旧ユーゴスラビアからスロヴェニアへの母国の変遷を見事に受け止めていたコンセプチュアル集団(新スロヴェニア芸術)の音楽ユニットであることを理解。世界各国の国家を歌った『VOLK』のライブ映像で観た「君が代」は興味深いものでした。

Volk Dead in Trbovlje [DVD] [Import]

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日本での上映がどうなるのかよく知らない映画『Iron Sky』の音楽もLaibachが担当しているそうで、これも早く観てみたい。

この映画、月の裏側で70年生き延びてきたナチがUFOで地球に逆襲しにくるというとんでもない(故に殊更に映画的な)お話しらしい。

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このあたりで、職場でほぼ同期の人間が不本意な形で職を去ることが決定。自分も片棒を担いだ形になっていたのが割と気が塞いだ。

3月になって9日は、夜から中津のIさんのお宅で、シャツ受け取りパーティー。年明けに数人でお願いしていた手作りシャツを受け取る会でした。プレーンな白の生地で、胸ポケットのスリットが凝った形で気に入っています。
11日は、未だ終わることのないあの日からとりあえずでしかない1年。昼から滝道を上り、瀧の上で黙祷。引き返す下り道でバッグにR09を入れていたのに気づき録音開始。

滝道の下り30分くらい。絶えず聴こえるのは自分の足音(下りなのでかなり速い)と箕面川の川音、それからすれ違う人たちの声。19′30″過ぎあたりから偶然滝道で横笛を吹いている人に出くわしたのでその音がかなりはっきり入っている。最後は阪急箕面駅に到着して工事中の音とかバスの音。
午後から家人は揃って脱原発デモへ、僕は千日前の美園ビルのバー『ヨコワケテリー』で、Kaさんが企画のIsさんのDJイベントの第二回『世界中の音楽を抱きしめよう Vol.2』に。内容は1959年までの世界の音楽


そして、今日は朝から雨なので、早々に部屋で音楽漬けを決め込んで、最近購入したアナログを聴いていく。

Alan Lomax Recordings [Analog]

Alan Lomax Recordings [Analog]

アラン・ローマックスが1959年に録音したデルタ・ブルースのフレッド・マクドウェル。このとき、ローマックスは2度目の南部録音旅行で、一度目はそのほぼ20年前マディ・ウォーターズなどを発見した実りあるものだった。その前回を凌ぐとは到底思っていなかったのかもしれない。マクドウェルの事はまったく想定外の出来事だったらしく、他のバンドの録音に仕事帰りのマクドウェルがギターを持って現れたのがきっかけのようだ。その演奏を聴いてブッ飛んでしまったローマックスはすぐにマクドウェルの自宅で演奏の録音の約束を取り付けたが、当日録音して欲しがる他のミュージシャンが大勢押しかけたらしい。そこでローマックスははっきりと「俺はマクドウェル以外誰も録音する気は無い」と言い切ったのだとか。
自分がフレッド・マクドウェルの録音を初めて聴いたのは多分10年くらい前だと思う。ビーフハートのマジックバンドで、Vlietは新人だったモリス・テッパーを部屋に缶詰にしてマクドウェルの『RedCrossStore』を何回も聴かせてコピーさせたというエピソードを知って、これは聴いてみたいと思った。当時はまだジョン・スペンサー経由で聴いたRLバーンサイドやセデル・デイヴィスなどのラウドでフリーキーなモダン・ブルースが余波的に耳に慣れていたからマクドウェルの鉈のようなスライドギターはまさにその先祖という感じだった。プラス、この下の盤でのストレートなゴスペルに打たれてしまった。
Amazing Grace: Mississippi Delta Spirituals By The Hunter's Chapel Singers Of Como, Miss.

Amazing Grace: Mississippi Delta Spirituals By The Hunter's Chapel Singers Of Como, Miss.

激しいリフとスピリチュアルな歌。ブルースの原型がわかりやす過ぎる程に充満していて尚聴くたびにドキドキするマクドウェル録音。
マクドウェルはもちろんマディ・ウォーターズサン・ハウスと比肩しうる存在だ。しかし音楽的にいえば、彼らの祖父にあたる」。かつてローマックスはそう書いたらしい。


続いて、カル・デ・サックの頃から気になっているギタリスト、グレン・ジョーンズのThrillJockyからの最新アルバム(これもアナログで2枚組)。

Wanting [Analog]

Wanting [Analog]

グレン・ジョーンズが何枚かソロギターのアルバムを出しているのは知っていたのだけれど、ちゃんと一枚買って聴いたのは今回のアルバムが始めて。ジャケットを開くと父親から貰った初めてのギターを嬉々として抱える少年グレンの写真がのっている。言うまでもなくABC面と全てグレン・ジョーンズの12弦ギターやバンジョーの演奏で、D面の長い曲のみ、あの凶暴なドラマー、クリス・コルサーノが微妙なタッチの音響をオーヴァーダブしている。全編は表面的な音楽の新しさ等とは真逆の世界のジョーンズの演奏で、流麗な高音の動きも必ず不穏なドローンにひっそりと伴われていて聴き飽きる地点を探すのが難しい極上ブレンドだが、このD面(The Orca Grande Cement Factory At Victorvilleという曲)はさらに面白い。
カル・デ・サックはティム・バックリーやニコをカヴァーしたファーストアルバム『Ecim』からとんでもないバンドだったけれど、カル・デ・サックやジム・オルークを聴いているうちに自然とジョン・フェイヒーを聴くきっかけになっていった。それにはPELTのジャック・ローズのような人がいたことも大きかったかもしれない。アヴァンギャルドアメリカーナなフィンガースタイルギターがどちらも何の譲歩も必要とせず聴けるような空間が出来ていた。
そこからグレン・ジョーンズがはじめている演奏がようやく理解できるようになってきた気がする。
少しでも今より多感な時期に、グレン・ジョーンズのカル・デ・サックやジム・オルークのガストル・デル・ソルといったバンドに接することができた事は自分にとってとても有難い事だ。

Things That We Used to Do [DVD] [Import]

Things That We Used to Do [DVD] [Import]

PELTからさらにディープなギターソロを展開したジャック・ローズは2009年に亡くなってしまったのだけれど、その直前に撮影されていたのがこのグレン・ジョーンズとのDVD。最初にローズとジョーンズのデュオ演奏が10分くらいあるが、言葉が出てこない演奏。そのあとローズ、ジョーンズそれぞれのソロとコンサートも模様。全部見終わると、なんとなくこの二人の音楽の違いというものが感じ取れてきたように思う。意外にジャック・ローズはセンチメンタルな感情性が表に出てきてそれが強さだが、グレン・ジョーンズの方は、上でもちょっと書いてみたように不穏さを手放さない感じがする。ちょっと挿入する泣きのフレーズでも泣いて逃げ出したと思ったらくるっと回って手にナイフを構えていそうな感じがする。これがフェイヒー的なものだと言い切れる程自分はフェイヒーのリスナーではないので残念だが、この感じはそれこそカル・デ・サックのファーストから通底不変のものだからグレン・ジョーンズの持ち味と思って間違いはないのではと勝手に思う。
最後に収録の30分のインタビューではあのForcedExposureのバイロン・コウリーが聴き手を努めて、二人からPELTやカル・デ・サック、フェイヒーやロビー・バショー、果ては生まれて初めて行ったコンサートの話まで引き出している(ちなみにローズはマイルス・デイヴィス、ジョーンズはドアーズ(!)とのこと)。インタビューで二人のギタリストが並んでいるのを観ていて初めて気づいたのが、ジャック・ローズが1971年生まれで、グレン・ジョーンズより10歳も若かったのだという事。終始赤ら顔だったからもしかしてお酒が原因だったのだろうか…。
グレン・ジョーンズのソロとこのDVDどちらもジャケットの古い印刷物のギターを持ったマスコットの絵柄が魅力的。もしかしてグレン・ジョーンズという人はギターに関わる印刷物のコレクターなのかもしれない。そのギター奏法と同じく位、ギターを持った動物キャラ・コレクションの引き出しがあるのだとしたら楽しい事だな、と考えたりする。