みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

音・ことばに浸みこむ冬の陽:『かれらの日本語』、Four-tet、SIMI LAB、Mount Kimbie、AMY DENIO、リゲティ

起床して瀧道。
曇っていると、常緑樹でも煤けてみえるのが冬の興醒めなところですが、空気は吸い込むたびに内臓の輪郭が明確になるような気がしていい気持ち。
箕面の瀧道は、今年電柱電線の地下への埋設工事を予定しており、そのためか、谷道の道標に、車向けに赤い蛍光のマーカーが取り付けられていた。
登り道ですれ違ったおじいさんは、両側両手に小さな孫二人と手をつないでいて、孫の足元を気にしながら、「壊れたり要らなくなったピアノでも、直したらまた欲しい人がいるの」と両方の孫に優しく話しかけていた。どう考えても「タケモトピアノ」の話しとしか思えなかったが、やはりあのCMの「ピアノ売ってちょ〜だい♪」は子供のハートを掴んでしまうのだなあと感心をあらたにしました。

降り道でやっと日射しが良い具合に谷間に入りこんできた。

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また台湾に行きたいなあと思っていて、それに向けての復習予習ではないのだけれど、 安田敏朗という近代日本言語史研修者の『かれらの日本語』という本を、司馬遼太郎の『街道をゆく台湾紀行』と併読しつつあります。

 
街道をゆく 40 台湾紀行 (朝日文庫)

街道をゆく 40 台湾紀行 (朝日文庫)

『かれらの日本語』の「かれら」というのは、日本植民地時代の「国語」教育により、日本語を自分の言葉として話すようになった台湾のひとびとを指している。自国の言語を他者に話させようとした日本人の誤解と戸惑いが詳細に学究的に書かれているようで興味深い。
台湾では日本語を話す人が多い、ということを2年前に台北に行くときに聞いてはいたけれど、実際現地でちゃんと日本語を話していたのはツアーのガイドさんとタクシーの運転手の劉さんだけだった。劉さんにしても、最近まで日本企業の台湾法人で働いていたから日本語が上手かったのであって、植民地時代の名残であるわけがなかったから、本書でいう「かれら」は徐々に少なくなっていく「世代」の話しでもあるのだろう。

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昨年末の載せ忘れ。
なぜか、Four tetを書き忘れていました。

There Is Love in You

There Is Love in You

Everything Ecstatic

Everything Ecstatic

Rounds

Rounds

Pause

Pause

Four tetは、全部聴いているわけではないけれど、聴いた限りどのアルバムも好きになった。この人のサウンドのカラフルさと実験的な嗜好のバランスがいい。
もともと自分は「フォークトロニカ」という言葉は知っていたけれどそのときFour-tetの音楽を聴いてはいなかった。レコ屋で手に取ったFour tetのREMIX盤『DJ-Kicks』に、David Behrmanの『LEAPDAY NIGHT』が入っていたから、目の(耳の)つけどころが良い人だなと思ったの最初の浅い感想だった。
Exchange Session 1

Exchange Session 1

Exchange Session 2

Exchange Session 2

重鎮ジャズドラマーStece Reidと本名Kieran Hebdenでやったセッションもかなり嵌ってしまう。『Everything Ecstatic』にフリージャズネタが多いのはこのセッションが関係しているのだろうか。

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SIMI LABを聴く。
これも、本来昨年のうちに聴いておくべきだったと思いますが、遅れてしまった。

Dead Man Walking 1.9.9.0

Dead Man Walking 1.9.9.0

  • アーティスト: QN from SIMI LAB,Yusi,OMSB,Riki Hidaka,KYN,USOWA,DyyPRIDE,MARIA,GIVEN,JUMA
  • 出版社/メーカー: Independent Label Council Japan(IND/DAS)(M)
  • 発売日: 2011/12/23
  • メディア: CD
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SIMI LABの主要クルーの一人、QNのセカンド。これを視聴機で聴いて、最初のトラックからして良いなあと思ってしまった。毒もあって面白い音をいっぱい使っているな、ということと、その音とQNのラップの声の相性が、あんまり他にない気がした。ビートもどれがと指摘する能力はないけれど、どこか柔らかい。QNは、言葉の使い方がかなり気になる人。アルバムの『Deadman Walking』も、昔ショーン・ペンが出ていた死刑囚の映画を思い出した。最後にローリー・アンダーソンの『O Superman』のフレーズがループされているのに気づいたとき、不思議と驚きはなかった。それほど全体の音楽に溶け込んでいた。
THE SHELL

THE SHELL

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  • 出版社/メーカー: ファイルレコード
  • 発売日: 2010/07/29
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翌日K2に借りに行ったQNの1st。いきなり歌うJANDEKみたいなギターの弾き語りスキットから始まったりして、やってる音楽そのものを自分で括弧にいれてしまおう、という態度が見えたりして頼もしい。弟にラップさせてたり、随所に抜けのいい笑いや距離感が忍ばせてある…というのは、多分こちらの勘ぐり過ぎで、単純に音楽を楽しんでる。そこが強い。
Page1:ANATOMY OF INSANE

Page1:ANATOMY OF INSANE

  • アーティスト: SIMI LAB
  • 出版社/メーカー: Independent Label Council Japan(IND/DAS)(M)
  • 発売日: 2011/11/11
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そんなわけで本体SIMI LABの1stを聴いたのはQNから数日後だった。先にPVを色々観ていたので聴きやすい(なんだそれ)。MARIAの啖呵の切り方はかっこいいし、微温かつシニカルな(でも陰鬱ではまったくない)QNも良いけど、OMSBeatsの天然な不穏さが面白い。DyyPRIDEの脆さも気になる。

WALKMANのトラックの面白さは「つまずき」がビートを生んでいる感じ、言葉でいえば「どもり」がビートになっている感じ。変な感じなんだけど、ループとシーケンスの力を信じてるというか…。『Uncommon』のトラックなんて、これ以上無いくらいシンプルな要素で出来ているけれど、そこにラップがかぶさっていくことで、ヒップホップのヤバさが全開になっていく。ヒップホップはもちろん大好きなんだろうけれど、それよりもなによりも自分のアンテナに引っかかってくるものなら何でも好きなんだろう。そうとう妙な音も入っているけど、このひとたちはどれもファットなビートにしてしまえる。QNもOMSBeatsも、それぞれトラックメイカーとして別名を持っていたりするのもおもしろい。
人種混成とかそういうのは、今はそれほど重要な要素ではないと思う。SIMI LABの楽は、そういうことの上に成り立っているかもしれないけれど、それだから面白いのではない、と。まずは、やっぱりそれぞれのラップが個性的でいい…と思っていたのだけれど、インタビューを読んでみると、やはりハーフで英語がしゃべれないこと自体がストレスになっていたりして、それぞれマイノリティーとしての思いがあったらしい。それぞれ自分の内側と外側に背景を持っている人たち同士が集まって刺激しあって音楽が作られている。
昨年聴いたCool Kidsのアルバムにノリが近いような気がしていて、それは、売れるために自分をフォーマットに落とし込むような方向ではなくて、すでにSIMI LABというポッセ自体が、音楽の楽しみを即時的に生み出すサイクルになっているから、彼らはそれを表に出すだけでいい。

SIMI LABの名前を一気に拡散させたPV『Walkman』は、しかしこの1stではなくて、QNのトラックメイカー名義のEarth No Mad Fromの『Mud Day』に収録されている(アルバムヴァージョン)。

タワレコで「ジェイムズ・ブレイクの次」と書いてあったので気になったのがMount Kimbie(これもだいぶ遅れてますね)。
CARBONATED

CARBONATED


サンプラーをプレイする二人、結構興奮して観ている自分がいる。お客がみんなヘッドフォンつけてるのがいい。
SIMI LAB関連を聴き漁ってから、Mount Kimbie聴いてみると、どちらもやっていること、音の扱い方が自分は大好きだということがわかったが、くだらないことも思いついてしまったので書き捨ててみます。
ダブステップでラップしてしまうとヒップホップになってしまうが、たとえばQNがMount Kimbieみたいな音をサンプラーから出してもヒップホップとして認知するのに何の支障もないだろう……(あ、それは「グライム」になるのか?覚えたての煙草をふかす中○生の気分です)。ほんまに下らん形式的な思いつき。
ヒップホップの雑食性、みたいなことが書きたかっただけなのですが。

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Amy Deniohttp://www.amydenio.com/body/Biography.htm(Ohioみたいに「デナイオ」と発音するのが正しい様子)が1986年に自分の部屋で完成させた最初のカセット『No Bones』のCD-Rがアマゾンから届く。

No Bones

No Bones

これは、上に挙げたCD群(SIMI LAB、Mount Kimbie)を聴いた後に聴くと、彼らと同じようなことをやっているように聴こえてしまうのがおもしろい。
ただし、Denioの場合は、この時点でサンプラー類を使っていないのは時代もあるのかもしれないしおそらくこれからも使うことはない。彼女にとっては4トラックのTascamのカセットレコーダーが一台あれば十分だったわけだ。声、電・生両方のギター、エレキベース、アルトサックス(後に彼女のトレードマークになるアコーディオンはまだ手にとられていない)、マーチングドラム、鳴りもの各種、キーボード、花火、タブラ、ペーパーバックの本、煙草の小袋、テープループそれにキッチンシンク(!)を使って作り込まれた世界は、しかしそれほど密室的にこもった感じがない。もちろん音質はよくないし、ラテンのリズムで踊りだすわけではないけれど、手作りで場当たりと創意を重ねた音には適度の風が吹き抜けている。
自分がDenioの事を知ったのは、ジョン・ケージが亡くなった直後にCrampsからリリースされたコンピ『CAGED・UNCAGED』だった。
Cage Uncaged

Cage Uncaged

このコンピには、デヴィッド・バーンやデボラ・ハリー、クリス・スタイン、ジョーイ・ラモーン、リチャード・ヘル、SYのリー・ラナルドやルー・リードのMetal Machine Musicの抜粋などのロック勢と、ケージ自身の著書『SILENCE』『ONE YEAR FROM MONDAY』からの朗読、それからジョン・ゾーン、ユージン・チャドボーン(ジェロ・ビアフラと)、エリオット・シャープ、ジョン・ケイルアート・リンゼイなどの「それらしい」人々が参加しており、それぞれが、ケージゆかりの非常に短いピースを寄せ書きにして集めたような風情のアルバムだった。その中で、一番耳を惹いたのが、Amy Denioの作品『Dishwasher』だった。彼女はこのコンピのために録り下ろしたしわけではなくて、それはニッティング・ファクトリーからリリースされていたソロアルバムからの一曲だった。
Birthing Chair Blues

Birthing Chair Blues


鼻歌混じりにキッチンで皿を洗う音が次第にリズミカルに聴こえはじめたと思ったら、エレキベースのフレーズが始まり、Denioの衒いのない歌が舞い上がる…といった曲で、他の収録作品のどれよりも自分にはケージ的に聴こえた。そのあと、Denioが参加していたバンド「(ec)NUDES」(クリス・カトラーがドラム)なんかも手を出してみたが、『Dishwasher』のイメージが強くてあまり楽しめないと思った。

2010年 The STONEでのパフォーマンス。聴衆に掛け声で参加してもらい、それをループにして自身の歌を重ねる。
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Continuum / 10 Pieces for Winds

Continuum / 10 Pieces for Winds

  • アーティスト: György Ligeti,Gottfried Michael Koenig,Cornelius Cardew,Gyorgy Ligeti,Antoniette Vischer,Zsigmond Szathmáry,Karl-Erik Welin,South West German Radio Wind Quintet
  • 出版社/メーカー: Wergo Germany
  • 発売日: 1993/12/08
  • メディア: CD
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最近、KING INTERNATIONALという会社がWERGOのカタログを廉価でリイシューしているのがタワレコに並んでいる。持っているものも多いが、リゲティのコレは持っていなかった。
チェンバロがもはや蜂の羽音のような群音になった「コンティヌーム」、電子楽器のための「グリッサンディ」。どれも今だからまたおもしろく聴ける。