みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

ヴィム・ヴェンダース『パレルモ・シューティング』@九条シネ・ヌーヴォ

まずはヴェンダース映画の私的な思い出から。
『ベルリン天使の詩』が日本で公開されたとき、たしか高校生だった。
なによりもまず音楽の(ロック)の使い方にやられてしまっていた。白い湯気のたつコーヒースタンドでながれるタキシードムーンだったり、もちろん、「二度とやるか」と内言で吐き捨てられた次の瞬間にたたきつけるような演奏が始まるニック・ケイヴ&バッドシーズの「フロム・ハー・トゥー・エタニティ」だった。

From Her to Eternity

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大学のドイツ語の授業では、テキストに『ベルリン天使の詩』の脚本が使われていた。おかげで今も「内言innere Sprache 」は憶えている(他は忘れてます)。
ベルリン・天使の詩 デジタルニューマスター版 [DVD]

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そのあとビデオ屋さん(VTRだった)で『パリ、テキサス』を観たり、『都会のアリス』や『まわり道』『さすらい』『アメリカの友人』『ニックス・ムービー/水上の稲妻』『ことの次第』を観た。
パリ、テキサス』や『アメリカの友人』『都会のアリス』のようにドラマ部分がわりとはっきりしているものはとっつきやすかったが、他の真性ロードムーヴィーは実際に途中で眠ってしまったりということは白状しておきます。
大学の講師のなかには、映画通のロシアアヴァンギャルド研究者などもいらっしゃって、その講師にいわせれば、『ベルリン天使の詩』は、思弁的な高みから安易な語り口にヴェンダースが堕ちた象徴のような作品ということなのだった。
そうやって、ヴェンダース・ブームをやり過ごして、ほぼフィルモグラフィーをコンプリートしてから、『夢の涯てまでも Until the End of the World (1992)』を待った。これは不当に評価が低い映画だと思っていて、なぜDVDにならないのかわからない。
しかし個人的にはそのあとの『時の翼にのって/ファラウェイ・ソー・クロース! In weiter Ferne, so nah! (1993』で、さすがにヴェンダースはしてはいけないことをしたんじゃないだろうかと考えてしまった。ここで、熱としてはいったん沈静化してヴェンダースの新作を必ず観る、という風でもなくなってしまった。
『ミリオンダラーホテル』などはヴィデオになって随分してから観た。


さて、『パレルモ・シューティング』。
ヴェンダースのヨーロッパへの復帰作。ホッパーとの2回目のコラボレーションにして遺作、CANのイルミン・シュミットがサントラを作っているなど話題性もある(最後のは局所的な話題かもしれない)。
ホッパーは、『アメリカの友人』以来30年ぶりになるヴェンダースとの仕事らしい。白い(灰色)の服に身を包み主人公の行く先々に姿を現し矢を射掛けてくる<死神>(というか<死>そのもの)という怪しい役柄で、これをチラシかなにかで知ったときはやりすぎ感があったが、実際ホッパーの演技を映画で観ていると、堂々とした怪演ぶりに無理矢理な感じはなかった。
アメリカの友人』で共演したブルーノ・ガンツが、黒い衣装に身を包んで『ベルリン天使の詩』では<天使>を演じたから、ホッパーには白い衣装で<死神>を、ということなんだろうか?(それはあまりに単純な解釈だとは思うが・・・)

妊婦姿のミラ・ジョヴォヴィッチに仰天してしまいましたが、2007年に無事出産しておられた様子。冒頭の撮影時期のそのあたりということか。『ミリオンダラー・ホテル』以来となるミラは現実の女優ミラ役として登場する。ミラの要望が、主人公をして「現実」に目を向かせることにつながっていくから、割と重要な役回りといえるだろう。

パンフレットも購入しなかったし(馬鹿でかい冊子だった)細かな設定は間違っているかもしれませんが、理解した大筋としては、主人公フィンは、モード写真もこなせば美術館で個展もやる世界的な写真家(であるようす)だが、名声の恩恵に浴して適当に付き合う女には不自由しないが、妻とは離婚調停中で電話で争いが絶えない。母の死をきっかけに(死への恐れというより)死そのものを受け入れることができず、不眠に悩まされながら夢と現実の境目が危うい状態にいる。

ひとつの写真のなかに夕日と朝日を簡単に同居させてしまえるデジタル画像で仕事するフィンは、それが生にも死にも根拠を持たない表層的な情報に過ぎないことに気づいている。
ハイウェイで危うく衝突事故を起こしかけたフィンは激しく動揺する。車を路傍に乗り捨てたまま入ったパブでファインは、「ルー・リードの幻を見ながら」、ジュークボックスから流れる「サム・カインダ・ラヴ」の歌詞の一節をフィンはハミングする。

他よりもましな愛というものはない
考えと表現のはざまに人生というものがある


このときから、フィンの視界に、ホッパー演じる<死神>がちらつき始める。
運河をゆく船の「パレルモ」という名前を見て急にパレルモへ行くことを決める。

パレルモの街路で、インスピレーションに任せてアナログのカメラのシャッターを切りつつさまようフィンの姿は、即興的な喜びにあふれているように自分にはみえた。写真を撮る<shoot>と銃撃の<shoot>を軽やかにダブらせながら、映画終盤のホッパーの「it's loaded.」という台詞で何かしら成就するものがあったようにも思う(これは個人的に受け取り方だ)。
ジョヴァンナ・メッゾジョルノの顔のアップが奇妙に暗転していく終わり方も、秀逸だったと思う。イングマール・ベルイマンミケランジェロアントニーニに捧げられているのもヴェンダースらしい。
ヴェンダースの語り口ってここ10年くらい、とてつもなく安定しているのかもしれない。

それにしてもフィン役の男優の、ときおり見せる目つきが鋭いんで怖かったんですが、長寿パンクバンド「ディー・トーテン・ホーゼン」のヴォーカルのひとだったんですね。

Reich & Sexy

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