蝸牛の歩みで惨い爪痕を残した台風がせめて:「思想地図」、伊藤比呂美、Lois Weinberger、『ステイクランド』、EP4など
蝸牛の歩みで惨い爪痕を残した台風がせめて残暑も持ち去ってくれたのかと思うと、まったくそうではなく、昨日は汗をボトボトかきながら門真まで運転免許証の更新に出かけた。
5年前にきたときはちゃんと京阪古川橋駅で降りたようだが、今年はまったくそれを忘れていて、通勤定期で蛍池まで出てあとはモノレールで終点門真市まで行ってしまい、降りた時点でどうすればいいのかまったくわからなくなってしまった。新しい免許証にはICチップが埋め込まれているらしい。「中型」という区分が出来ているのを知った。
行きはモノレール、帰りは京阪にしたが、車中と試験場の待ち時間(けっこうあった)に読んでいたのは現代詩手帖の9月号「伊藤比呂美 特集」と「思想地図β2」。
思想地図は普段買わないし読まないのだけれど、この号は手に取ってしまった。藤村龍至氏の「復興計画β:雲の都市」で提案されている「リトルフクシマ」計画は復興案というだけでなく「格差解消」から「リスクヘッジ」「クラウド化」へというヴィジョンを内包していて、また、埼玉からみて東北の方角にある福島を鎮魂する広場「丑寅の森」を有している。こういう考えをする建築家がちゃんといるという事だけで、少し気持ちが安らかになってはいけないのだろうか?
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マイノリティだと思っていれば、男はこれからやりやすいですよ。
こういう言葉にグッとくる(…)。
いわゆる「現代詩」に興味がなくても、伊藤比呂美は読む、というひともたぶんいるんだろうと思う。
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そういう「雑草感覚」から連想がすぐさま連なってしまうアーティストが、自分にとってはこのLois Weinberger。
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数年前、金沢の21世紀美術館に、アルディッティ四重奏がジョン・ケージの作品を演奏するのを聴きに行ったときに開催されていた展覧会ではじめてこの作家をそれと知ったのだけれど、そこで「展示」されていたWeinberger夫妻の作品―水に浸した古雑誌(古新聞)からニュキニョキ生えた雑草の暴力性は、明らかにアルディッティの演奏よりも強烈な印象を残してくれるものだった。
「エコ」な感じというのは食わせ者で、同時に暴力性も確かに/かすかに感じるのは、それらがビオトープからは切り離されているものでもあるからかもしれなかった。
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こう暑いと、仕事している平日以外の日中は虚脱状態になってしまい、金曜の夜に借りて帰ってきたDVDを観たりしている。その中で割りと良かったのが、この『Stakeland』。
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監督は閉じられたお約束のガジェットの中で、腐った贓物を飛び散らせることに淫する気はまったくなかった様子であって、この作品は、むしろ古式ゆかしい少年の成長物語(ビルドゥングスロマン)というに値する作品になっている。
まず、この映画の災厄はゾンビではなくて、吸血鬼。しかし、その区別はほどんどどうでもいい。
死にかけのやつが本当に死ぬか吸血鬼になるか半々な確率であるようにみえるのもあり、ゾンビと吸血鬼を足して二で割っているというのか、いやむしろゾンビでも吸血鬼でもそんなことは大したことではないと考えているようなフシがある。
音楽はゾンビ映画にありがちなおどろおどろしたものは一切なく、武満徹なら「映像から音を削りとった」ような、とでもいいそうなくらい映像にマッチした静かなタッチ。
映像も、ゾンビとかSFものという括りを取っ払って思い起こしてみても、人の表情や行動、車の移動、光線の強弱、そういった映像の「つらなり」だけで何かを語ろうとしている。これは映画として、とてもまっとうなことだ。
先のビルドゥングスロマンをなおも引きずって書いてしまうなら、『まわり道』時代のヴィム・ヴェンダースが撮ったゾンビ映画、という形容も的外れでもないのではないかと思ってしまう(『パレルモ・シューティング』楽しみだ)。
呑んだくれの吸血鬼ハンターに弟子入りして成長していく少年が、強さと儚さを合わせ持っていて素晴らしいと思う。『ヒッチャー』(1986)でのC・トーマス・ハウエルよりも良い、と書けば伝わるひとには伝わるものがあるだろうか。
タイトルに含まれる「Stake」という言葉から最初に連想したのは、デ・ラ・ソウルのアルバム『Stakes Is High(掛金はデカい)』だった。
しかし、あとで検索してみたら「くいを打つ」とか「(特に中世の火刑用の)はりつけ柱」みたいな意味があるようだ。一応、吸血鬼の登場を神の顕現ととらえる邪教徒が北米の大半を領有しているような設定であったり、ロードムービー風に流れていく街の風景のなかに天日干しにされて焦げた吸血鬼の磔が見られるのでそのあたりなんだろう。
そう、「北へ向かう」というかなりまっとうな「ロードムービー」感覚をしっとりと描くことも出来ているところもヴェンダースっぽいのかもしれない。
この映画、終わり方もまた秀逸だと思う。
お約束として、育て親役の吸血鬼ハンターの「ミスター」(本名は最後までわからない)は少年のもとを去るが、その去り方にも描き過ぎないでいて残心が効いている。別離と成長、というあまりにもベタな主題を「ゾンビ/吸血鬼」という商業フレームのなかで見事に映し撮ってくれた名作だろう。
また、現実の災厄にまみれた年を送ることになった島国の人間にとっても、この映画はまっとうな感触を残すだろうとおもう。
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ベンジーではないですが、細胞に入り込んだままの音楽というのは、自分にとっては、中学・高校の頃に必死になって探して後追いで聴いたこのあたりの音です(とはいえ、EP4は最近のリイシューがほぼ初めて)。パブロ・ピカソの「Not Moving」など、今の耳で聴いても最高の質感をもったダブロックである。硬質なのにエロティックということは、つまりイマジネイティブ。
今年は「すきすきスウィッチ」の『好きだよ』のリイシューもあって、それだけでも自分の音楽リスナー人生のなかでは実りのある年なんですが、最近のこのあたりのSuper Fuji Discs のリイシューは凄いものがある。