みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

Eric Thielemans×高岡大祐@十三・宝湯


 年末から待ち焦がれていたライブ。ベルギーの、スネアドラムだけで人の声のような豊かなニュアンスを響かせてしまうというドラマー、Eric Thielemans。

 来日ツアーの大阪初日の旧グッゲンハイム邸にはいけませんでしたが、最終日の今日は絶対、と思ってました。案の定、こんな日にかぎり仕事が長引いてしまって、ひやひやしましたが、なんとか開演に間に合う。
 宝湯は、大阪十三の本当の銭湯。休日の月曜にライブスペースになっているというのはどこかのブログで読んで知ってはいましたが、はじめて。思わず、ほんまにライブやってんのかな、と入るとき躊躇してしまいました。入ると、番台に企画のKさんがいらっしゃってホッとして入場。すでに30人くらいのお客さんがビール飲んだりしてワイワイしていた。すでに来ていたIさんと合流(あとでHさんも)。
 この日は、銭湯の男用の脱衣所の細長いスペースでライブをするという趣向(いつもはどうなのかは、よくわからない)。

 会場で、Ericさんご本人から、LP『Snare is a Bell』一枚だけ残っていたものを購入。
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【藤田陽介(自作パイプオルガン)】
 昨年12月のコモンカフェでの山内桂さんとの共演で、藤田陽介さんの自作パイプオルガン「くだ鳴り」の演奏を初めて聴いていたので、本日は二回目の体験。手押しふいごで金属パイプを共鳴させる「くだ鳴り」の音は、カツーンと硬質なコモンカフェの空間で響いたのとはまた異なる響きに思えたけれど、音の立ち上がりや減衰、思わずうっとりとなる。
【デカルコマリィ(Dance)×田中康之(Percussion)】
 舞踏家デカルコマリィは初めての体験。田中康之さんの打ち鳴らす電気パーカッション(これがまたいい感じ)に導かれて、番台手前の台のうえから登場して、脱衣所に攻め込んできて、細長い空間を消尽しつくしていた。目の前で踊る身体って、すでに言語であって、音楽なのだと感じる。最後にしっかり笑いをとって退場されたのも流石。風のような潔さだった。
【Eric Thielemans(Drums、Percussions)×高岡大祐(Tuba)】
 お二人の演奏が始まると、もはや身動きができなって全身耳にしてしまいたいと強く願っている自分がいた。Eric Thielemansはスネアドラムではなくてバスドラひとつと、小さなシンバルや親指ピアノやペットボトル(!)、空き缶(!)などを織り交ぜた鳴りものを使用。高岡大祐さんはチューバ一本。しかし、この音楽は、なんだ。冒頭Eric Thielemansは、バスドラを細かいビートで連打してドローンのような状態にしたうえでそこに波のようなうねりを自在に生み出していたのですが、手首の動きは一切見えなかった。
 それから、Eric Thielemansが自転車の車輪のスポークを弦がわりに弓で弾き始めたとき、チューバの音と混じり合って信じられないような美しさが現れた。聴いているのではなくて音が目の前に掴めるんじゃないのかと思った(と、いうよりもちろん掴みたかったのだ)。
 次第に二人の演奏が、パーカッションであるEric Thielemansが車輪を降ろしたあとはペットボトルをクシャクシャ空き缶をベコベコさせるような演奏にシフトしていったとしても、それらが非常にメロディアスであって、高岡大祐さんのチューバの高低さまざまな倍音がむしろパーカッシヴであるように、お互いを無限に交換し合っているような錯覚がしてきたのには驚いた。
 音がつぶつぶと際立ち続けていつまでも聴いていたかったけれど(おそらく全てのお客が)、素晴らしい演奏が常にそうであるように、終わりがあるのでした。

For the Love of Ornette

For the Love of Ornette

 ツイッターで知った元プライムタイムのベーシスト、ジャマラディーン・タクーマのアルバム。その名も『オーネットの愛のために』!自分を男であり、音楽家として鍛えてくれた恩師オーネット・コールマン自身をアルバムに招いて、ほぼ半分の曲を共作。オーネットのアルトも変わらず(それが凄いと思うのですが)軽やかに儚くも切ないフレーズを踊り、タクマのベースは重厚な泥水を跳ね上げては底に潜って曲を強くうながす。
 ライナーには、タクマが一時期音楽など二度とやらない、と心に決めて引っ込んでいた時期があって、そのときオーネットがタクマの母親を訪れ、息子さんを音楽に復帰するように説得してほしいと陳情したとのエピソードが書いてあった。タクマはもちろんそれで音楽に戻ってきた。
 あと、ジャケがいい。手書きのようなニュアンスのロゴ。この色使いって、自分としては、どうしてもオーネットの「サムシング・エルス!」を思い出させてくれます。初々しさと情熱と音楽への敬愛において、比肩する盤となっていると思う。
Something Else!!!!:The Music Of Ornette Coleman

Something Else!!!!:The Music Of Ornette Coleman