みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

結ばずにほころぶ/のりしろを歩く:西川文章×半野田拓×Tom Hall×Tim Olive@中崎町カフェコモン

nomrakenta2010-04-01


むしろエイプリル・フールは、一年でいちばん嘘がつきにくい日ではないのかというツイッターでのつぶやきに頷きながらの新年度。

かなりアグレッシヴな人事異動があり、気持ちがリセットさせられる。とくに無理からでもない感じが自分でも意外。

昼休みに書店で手に取ってみた森博嗣の『創るセンス 工作の思考』の序文のことばにいきなり感じたこころのなかでのはっきりとした頷き。

 簡単に結論を書いてしまえば、「上手くいかないことが問題」なのではなく、「上手くいかないことが普通」なのだ。「こうすれば上手くいく」と教えたこと、またそれを鵜呑みにしたことこそが問題の根元である。
――森博嗣の『創るセンス 工作の思考』p.11

自分の仕事に照らして考えると、まったくその通り。鵜呑みにしたこともあるし、上手くいくと教えつつもある自分。そうではない。その上手くって誰にとってウマイのか?
そこで思考が留る癖がつく。ルーティンワークが起源する。

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6時に会社を出て、地下鉄を乗り継いで中崎町のcommon cafeへ。
先日のムジカでもらったビラで、西川文章さん、半野田拓さんの即興デュオと、年始に京都で興奮したノイズメーカー・Tim OliveとTom Hall(このかたは初見)の即興デュオがあることを知ったので、半野田拓さんは久しぶりなのでこれは絶対観なければ、と。

西川文章×半野田拓のデュオは両者ギターでの演奏。
静寂から立ちのぼってくるというより、二本のギターから醸されるノイズが静寂を立ち上らせ上書きしていく。アトモスフィアをコントロールする渋すぎる西川ギターに、コリコリと絡んでいく半野田ギターの、コココココココ…コ…という響きが、弧をえがく。
疎にも密にも、どちらにも寄り付かない。アレルギーで調子の悪い両目のことを忘れて没頭させてくれる至福の時間。

次の結ぼれ(Knots)のために、結ばずに、ほころぶ。

次のTim Olive×Tom Hallは、Tim Oliveは先日通りのセットでテーブルトップギター(というのかノイズ発生器)といろいろな小物。Tom Hallはラップトップ。店内を暗くして刻一刻と変化していく植物の映像のプロジェクション付き。

ラップトップからの電子ノイズがある種のドミナントを形成していたが、音ののりしろを拡充しながら安易な収斂は回避して、大きな起伏を目指す。

最後は、4人によるセッション。
開始前に見計らったかのように、環状線を走る電車の音がかすかに。4人分の大音量がくるかと思えば、パワーバランスがほどよく按配されて、なお互いの音をよく聴きあっているのもわかる、かなり聴き応えのあるセッション(お客の反応、薄かったのですけれども)。
特に中盤、スイッチのオン/オフだけでギターを弾きつづける西川氏の演奏に目と耳が惹きつけられていった。
そういえば西川氏は、Tim Oliveとの共演作から好きであるはずなのに、ちゃんとギター即興を聴くのは初めてかもしれない。「かきつばた」も聴くごとに好きになるバンドですが。
半野田拓のギターもサンプラーもおり交ぜながら差延の襞をくり出し続けて、終盤比較的オーソドックスな奏法が出たけれど、これが無用な意志を持たない加減で放り出されているような感触であることが良い。半野田拓さんは僕の(アンチ)ギターヒーローであったりもする。

10時前には終わって、中崎町から環状線の高架下を辿るようにして梅田に向かう。梅田は長いのにこの道を歩くのは初めてなので新鮮な気持ちで、空腹を忘れていた。のりしろを歩く。

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Hazel

Hazel

会場であいまに流れていたので懐かしく。
The Sea and Cake

The Sea and Cake

この二枚のアルバムが自分の心象風景だった時代が確かにある。そして、今聴いてもやはり他では得難い洒脱でくるんだナイーヴさが、ある時期からじぶんの音楽への嗜好をある程度、しかし確実に変えてしまったことを思い出す。

創るセンス 工作の思考 (集英社新書)

創るセンス 工作の思考 (集英社新書)

スカイクロラ』を読んだんでおもしろそうと思った。冒頭を読むだけでも筋金入りの工作少年ぶりがうかがえ、『スカイクロラ』での戦闘機などのオールド・メカニックへの神経のゆきとどいた描写は、なるほどこのあたりからくるのか、とも。