夜が明けたら、フライング
USTREAMで浅川マキの追悼放送を聴きながら、小沢健二がライブ活動を再開する、というニュースがいろんなひとに衝撃を与えているのに気づく。
なんだろう、この気分。
大学生の頃の自分にとって小沢健二のアルバム『LIFE』は聴いているのが当然のアルバムであって好き嫌いの問題ではなかったことを思い出します。
そして、それは浅川マキも実は同じで、好き嫌いではないシンガーなのだけれど、じぶんの中では歌の住処が違うという気はしている。浅川マキの歌のほうが今の自分には切実だ、ということはない。でも新鮮、ということではあるのかもしれない。
『夜が明けたら』なんて、歌い出しの感じ、アナクロニズム込みであってさえ、おもしろい。「わりといい町だったけどね」。言い捨ててられたい。勝手に町を男に脳内変換しますから。少なくとも今自分が聴く浅川マキには、聴き手自身を架空してみるという楽しみがあることに気付く。その点は、たとえばトム・ウェイツを聴くときのギアの変え方と通じるけれど、浅川マキの場合は架空のかかりかたがあえて半端な感じでちょうどいい。半端なエアポケットのなかに、歌い手に染み込んできてもらいたい感じ、というのか。
『LIFE』のCDがどこにあるのかわからず、今の自分が小沢健二をどう聴くのが試せないのは生憎、というのが誠実なのかどうかも、ここでは決めたくない。ぼやぼやと、しておきたい。
フリッパーズ・ギターはあまり知らず、やっと『暗闇から手をのばせ』のCDシングルを買ってから、『LIFE』を買って、元ネタのスライ&ファミリーストーンの『LIFE』なんかも手に入れたりしつつ、またやっと遅ればせな恋愛なんかしながら僕の学生時代というのは、ご多分に漏れない範囲で小沢健二のおかげ様の部分はあったのだと思うけれど、そのあと『球体の奏でる音楽』以降の作品を聴いたか、というと全く聴いていない。紅白で小沢健二を観てからは、まったくフォローしなかった。この時点で書いている資格が怪しいものだけれど、ツアーでは「Life Coming Back!」という歌声が、とても胸に響くのだろうか、むしろ初めて実感として昔からのリスナーに共有されるんじゃないかな、と思ったりする。
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帰りの電車で、人からもらった文庫本、森 博嗣の『スカイ・クロラ』を読んでいると、
その直後に、戦闘命令が下った。
「フライングだ」僕は土岐野に言ってやった。
しかし空には、それ以外に何があるだろう?
――p.223 森 博嗣『スカイ・クロラ』
ただの息抜きのダジャレと思えるような部分なのだけれど、この主人公のつぶやきを読んだ瞬間、それまで雑念から切り替えがきかずに字面を眺めているだけだった頭の中に、戦闘機が舞う空のブルーが、ふいと拡がった。
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