1981年9月の「ミュージックマガジン」:フレッド・フリス:この夏の予定
来週一週間休めることになりました。
これを利用して東京行きを決め、帰りに、前橋文学館で開催されている鈴木志郎康さんの展覧会に行ってこようかと。
とはいえ、仕事の方がちゃんと片付くかどうか…この2日でなんとか形をつけなければなりません。
ところで。この表紙をみてください…。
先日、ドカッと仕入れた「ミュージック・マガジン」のバックナンバーの中の、たまらない一冊(一号?)。1981年〜1982年にかけての「ミュージック・マガジン」は熱い。パンク〜NWの熱気が全く醒めやらずで、中村とうよう氏からして、ジェイムズ・ブラッド・ウルマーやラウンジ・リザーズ激賞で、「煽る」トーンなのが、なんとも凄い。時代のいきおいなのか。まあとにかく、ページをめくっていて楽しい限りです。就寝時に一冊(一号)と思っていましたが、読んでいると音楽が聴きたくなってしまって睡眠薬替わりには、到底なりません。
この9月号は、北中正和氏による「我的分析黄色魔術楽団―加工貿易風覚書」と題するYMO論がトップを飾り、同時期リリースの三上寛の『BABY』と比してパンタの『KISS』の中途半端の危機を訴えた平岡正明氏の「パンタ、もとにもどれ」と題された記事(イラストは吉田カツ氏)、
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輸入盤紹介ではアート・ベアーズのアルバムや、ネヴィル・ブラザーズの『Fiyo on The Bayou』、クロスレビューではジャコの『ワード・オブ・マウス』への評価が激しく分かれている。で、サザンオールスターズは『ステレオ太陽族』で万遍無く良い評価。広告を見ているだけでもおもしろく、クリムゾンの「新譜」は「ディシプリン」だし、矢沢永吉には「世界発売に先駆け、直輸入アルバム・テープ発売中!」との惹句。フェラ・クティは「あのトーキング・ヘッズ、ブライアン・イーノに直接影響を与えたアフロサウンド!」となっていて、プリテンダーズのセカンドアルバムの広告はその下。
記事の中で、個人的にもっとも読み応えがあったのが、竹田賢一氏によるフレッド・フリスのインタビュー。
フリス自身は、この時点で、2年前に解散済みのヘンリー・カウ後の、豊かなソロ/コラボレーション時代に以降していて、記事は、充実の来日ライブを果たしたフリスの声を、生々しく捉えていると思います。ヘンリー・カウ解散の理由についての竹田氏の突っ込んだ質問に対して、フリスは「集団的な責任の取り方」また「グループ内でのジェンダーの問題」があったことを挙げつつ、最終的に、アートベアーズのファースト・アルバム「Hopes&Fears」として知られることになるアルバムを、協議のすえ、「ヘンリー・カウとして」リリースしないことになったこと(「ヘンリー・カウ」としては、「ポピュラー過ぎる」「ソング・オリエンテッド過ぎる」)が、分裂の表面化を決定付けた、と真摯に回想しています。
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けれども私が民族音楽を用いることでこめているメッセージは、これらのものと違います。私たちに身についたアイディアとは異質なものを、自分の音楽のコンティニュイティーの中で生かしていきたいのです。『グラヴィティー』のある曲には多くのカルチャー・ショックが仕掛けられています。ある要素はブラジル音楽から、ある要素はナイジェリアから、別の要素は中国の音楽からとられていて、それが一曲のダンス音楽の中に統合されています。
と語っていて、つまり、バーン&イーノたちが民族音楽素材をそのままコンテクストを「ずらして」新鮮さを混入したのに対して、フリスのそれは、自分の持続性の中に組み込みたい、「脱コンテクスト化」と「再コンテクスト化」の違いを表明しているようにも思えます。
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彼から送られてきたテープはここ半年か一年の間に聞いたもので一番印象的なものだったのです。今までこんな感じの音楽は聞いたことがない、自分の他にこんなギターの弾き方をする人はいないと思っていました。それにヴォーカルが印象的で。そして何よりも私にとって共感できるのは、彼がロックのイディオムの中で即興演奏していることです。ロック・ミュージシャンはよきインプロヴァイザーであり得て、しかも即興で演奏したものはなおかつロックである、そのような可能性を実践したパイオニアがヘンリー・カウだったと思うのです。普通のロック・ミュージシャンは歌をつくり演奏するのに忙殺されていて、即興演奏の演奏家は特定の音楽言語の枠をはみ出ることがない。そんな状態が続いてきましたが、即興音楽はもっと、あらゆるイディオム、方法に対して開かれたものとして、定義しなおされなくてはいけないんじゃないか。最近はその硬直した見取り図も変わってきていますね。スティーヴ・ベレスフォードのアルタレイションズのように。でもカウはそれを7,8年前からやっていました。そしてケイジ・ハイノは、ロックにおけるインプロヴィゼイションの現象形態を非常にクリアーに自覚しています。まさに建設的な方向です。
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彼の(フリスの)フリー・ミュージックは、既成音楽の破壊・解体ではない。演奏構造には中心が存在していた。中心のまわりを大小さまざまな円弧が描いていくように音響が発射されていた。プリペアド・ピアノ的奏法のウルトラ化によって生じる電気ギターの騒音の予測不可能性は、中心をめぐる大小様々の円軌道の上に、職人の端正さで、予定調和的に乗せられていく。それは<遠巻きのクラシック音楽>とも言うべきものであった。逆説的な言い方になるが、フリスの演奏の中心には、<不在の西欧クラシック音楽>が存在していた。
良質な即興演奏が、決して「めちゃくちゃ」ではない、ということを言いたい、というむずがゆい感覚を、上の引用文は衒学的な匂いもありつつ、的確に射抜いている、と思います。
さいごに、竹田賢一氏の記事の最後の部分も、是非、引用しておきたいと思います。
インタビューはさらに、即興演奏をめぐって、音楽家/非音楽家の神話に挑戦しているアート・リンゼイやレジデンツについて、ジャーナリズムが作りだしたシンボルとしてのイーノやフリップの機能など話はつきなかった。そして滞日中この後も何度かフリスとは会う機会があったが、彼にとって最も大きな意味をもったロック・バンドを一つだけ挙げるとすれば、という問いに、68年から72年当時のマジック・バンド、つまり『トラウト・マスク・レプリカ』の時期のキャプテン・ビーフハートだと答えていた。「自分の」ロックを演奏することに大きな自信を与えてくれたからだという。
彼のコンサートには2回だけしか行けなかったが、即興演奏では装われた危うさではなく真の危うさと対決するのだ、と語っていたように、一瞬一瞬で採用するイディオム、楽器、小道具の変化は目を瞠らせるものだった。ただ、終演後、彼の改造ギターに群がる聴衆の視線と、手探りで「自分の」ロック、「自分の」サウンド、「自分の」楽器を発見してきたフリスの姿勢の間に、埋めがたい距離があるように感じられてしかたがなかった。
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最近読んだ本
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いまでは信じられないような宗教論争が、明治初期の神道にはあったのだ。京極夏彦の『狂骨の夢』という作品が、このあたりに近いネタを扱っているが、本書で扱われているような史実は、たしかスルーしていたように思う。昔から、なぜ大国主神オオクニヌシが「国譲り」したのかがよくわからなかった。というか「記紀」は、わからないようにしか書いていないのだと思っていた。しかし、ラフカディオ・ハーンが驚嘆したほどに、出雲国造の人気は、明治初期まで「伊勢」の天皇と劣らないものであったらしい。オオクニヌシを国家として奉ずるか否か、をめぐってのドタバタが本書の肝、「思想としての出雲」だが、これには当然、本居宣長さんの「古事記伝」が大いにかかわっていて面白い。結局、いちど政治的に退けられた「出雲思想」は、国体を揺るがさんとする危険思想とみなされて(出口王仁三郎)いって、そのまんま、というのが、多少切ない。
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