物語が、いきのびる:映画『MIST』
DISCASで届いた洋画「MIST(霧)」を、やっと観る。映画化されたのは知っていたけれど、そのあと忘れてしまっていて。
DISCASで見つけて頼んだら、すぐ回ってきた。
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- 作者: カービーマッコーリー,Kirby McCauley,広瀬順弘,真野明裕,矢野浩三郎
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「シャイニング」よりも「IT」よりも、物語のバランスのうえで、見事な均整を保っていると思います。
突如、正体不明の霧に包まれたスーパーマーケットで孤立した人々の心理、といってしまうと、いかにもですが、兵士たちが密かに倉庫で首を吊っているのを発見するクダリとか、客たちを狂気に煽動していく「あの女」をついに射殺してしまうクダリとか、そして、全体が見渡せないような巨大な「もの」が頭上を通り過ぎるクダリとか、とにかくキングの描写の細部が、鮮やかな映像として脳裏に焼きついてしまっていたようで、本当は、この映画を観るのは、リメイクものがその映像化という行為そのものによる非言語的振舞(「陳腐さ」という言葉をなんとか引っ込める)によって、常に、いくらかは原作読者の期待を反古にしてくれる、その信頼すべき作用を、逆に頼みにして(…倒錯的でもある)、お祓いになるんじゃないのかとも頭をよぎった、というのもあったのですが…今回に限っては、甘い「読み」でした。ダラボン監督気合い入っていました。
「ショーシャンクの空に」だとか「グリーンマイル」のようなものは別として、キングの「一応ホラーもの」の映画化としては、これは最上級のものだと思います。マーク・アイシャムの荘厳な音楽も、非常に(非情に)罪作りな効果をあげています。
最上級と思っていたキューブリックの「シャイニング」に対してキング自身が不満を表明して、自分でつくった「シャイニング」には、こんどはこっちがゲンナリしたという経験があるキング原作映画なので、揺らいでますが。
原作のラストは、たしか、「HOPE(希望)」という文字で終わっていたと思います。
こども心にも「…それは甘すぎる」と感じた記憶がありますが、今思うとそれはキングの優しさ、というより、テクスト自体は絶望で飽和していたから、最後にその文字を置いてみたということだったかもしれない。なにしろ、サミュエル・R・ディレイニーもかつて書いたように、「結末が有効であるためには、曖昧でなければならない」*1のだから。
ダラボン監督のこの映画では、その曖昧さは、むしろ、もっと酷な方向へと押しやられているのだ、と考えることができるのかと。「子供にみせられない」「道徳上・教育上よくない」という議論も呼んだであろうエンディングですが、趣味悪いと思われても、これはよくやったと、ぼくは思いたい。この映画自体に問題があるとすれば、それは単に、観客に対して、今でもあなたは映画というものをたまには本当に慄然させてくれることを許せるものとして許容できていますか、と問うているフシがあるだけだ、とも思います。
最近の原作ありやリメイク作品で、すでに共有された原作(あるいは初作)の「物語」に、誠実に拮抗しつつ、最後で以外な通路を用意しているものというと、数年前になりますが、ニキータ・ミハルコフがリメイクした『十二人の怒れる男』があったかと思います。
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「物語」にとって、一番重要なのは、あらゆるレベルの「配置」が、鑑賞者のなかで、どう生き延びるかであって、一時的にまとった「道徳上のメッセージ」でないのは、いうまでもないし(皮相的にこう書いているのではなく、力説したいところです)、藤井貞和氏の言葉を待つまでもなく、物語は語られるたびに、違って当然だし、語り部のこめたい強度の放物線の着弾点が、元のそれを超えている分には、こちらとして幻滅する理由はないと思う。
小説と異なって、映画(映像)には、物語への期待が思わず滞留してしまったり、あらぬ方向へと「拡散」してしまったり「飛び火」してしまう可能性が溢れているのであって、物語自身を、テクストのプロットの枠組みに閉じ込めてしまうこと、それを目的としていては、「物語られるもの」のいのちは、小さいものになってしまうのだと思う。ダラボン監督は、黒澤明が「天国と地獄」でエド・マクベインの「キングの身代金」に対してしたのと同じ、とまでは言わないまでも、同じベクトルで、キングの「物語」に対して、最上級のオマージュも、捧げているのだと思うのです。