歩くから、書くし、歌う。:ソロー、ロバート・ワイアット曲集
みもこころも圧迫するような湿気が、今日はひさしぶりに感じられなかった。
夜の8時半に仕事あがりで、難波の町に出ると、風が絶えずに吹いていて、あんまり気持ち良いので、2週間振りくらいで、四ツ橋筋を、難波から梅田まで歩いた。
35〜45分くらいで歩ける距離である。
昨年まで御堂筋を歩いていたのだが、御堂筋だと梅田に至ってからの接続が良くなく、いちど地下に潜ったりしなくてはならなかったのだけれども、四ツ橋筋なら、そういうこともなく、気持ち良く最後まで歩けることに気付いたので、最近はこのコースにしている。
じわっと汗をかく程度だが、通り過ぎながら思うこと・そこから誘発される考えというのは、精神的にはかなり良いフィードバックがある。有名なエッセイ『歩く(Walking)』に書いてあったが、ヘンリー・D・ソローは、毎日5時間以上歩いていたらしい。歩きながら考えることのほうが、座って考えることよりも有益だということは、あるのだろうか。たぶん、ひとりで考え、結論もとりあえず自分で保留出来ることを考えるには、歩いた方がいい。あたりまえか。でも、歩かずにひとりで考えていると、不健康に結論が出せないまま中断してしまうことも、歩行は必ず、その自分が選びとっているリズムを通して、とりあえずの結論を肉体的なシグナルとして発してくれるので、区切りを与えてくれると思う。
そういえば、ちょっと前に出た『散歩の文化学』という2冊本は、考えるよりも、遊ぶよりも、政治するよりも、殺すよりも、「散歩する」人間という魅力的なアイデアを立ち上げていて、ベンヤミンから荘子まで素材として扱っていく壮大な論考で、面白そう。まだほんのとっかかりしか読めていないが、不思議なことにソローについてはまったく触れられていないようなのだった。
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9時までに梅田に着けば、ジュンク堂に立ち寄れたのだけれども、これは、今月仕事場のすぐ傍に巨大な店舗が出来て昼休みでも寄れてしまうので、有り難みがなくなってしまった。もちろん、今夜は寄れなかったので、特に買い物するつもりもなくマルビルのタワーレコードに寄ってしまった。
ジャズ・クラシック売り場で発見したのが、ダニエル・イヴィネックが監修するフランス国立ジャズ・オーケストラによる、ロバート・ワイアット曲集『アラウンド・ロバート・ワイアット』だった。
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ワイアット自身が歌っているジョン・グリーヴスの「The Song」は、「ShipBuiding」(こちらも当然収録・ヤエル・ナイムが歌っている)を凌ぐ名曲だと思うが、柔軟なアレンジで見事に生き返っている。
それにしても、ロバート・ワイアット曲集というのは、冒険的なセンスであるイメージも与えつつ、実は手堅い選択だと思う。以前、このブログのエントリーで、僕はワイアットがもちろん大好きだれど、どこかその声は、唯一無二ながら(だから?)怖いなあとも思う、みたいなことを書いた。その感想は今も変わらず、毎日聴くにはワイアットの声は意味深長というのか、高尚すぎるというか、あなたの声に寄り添う自信がない…という気にさせると感じていますが、ワイアットは当然声だけが特徴的なのではなく、そのジャズや現代音楽の知的なエッセンスをスノビスムに埋没させることなく、魅力的なニュアンスに昇華した親しみのあるメロディーに定着させてきたこと、その点だけ考えても稀有な人なのだ。ソフト・マシーンを馘になる遠因にもなった「Moon in June」を聴いてもワイアットの「ポップ」感覚が、難しい諸要素の折り重なった襞に細い針を貫通させるように、研ぎ澄まされた(ように思えるほどの)ものだったこと。それを、この盤ははっきりと認識し直させてもくれます。
Disc2に収録された「Rangers in the night」など、原曲はモーガン・フィッシャーの名作コンピ「ミニアチュールズ」に収められた1分足らずの小品なのに、ここでは「壮大」に4分超。魅力的なメロディーが質を担保する見本である。
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**追記**
一日経過してから、落下事故のあと車椅子生活のワイアットのエントリーのタイトルに「歩くから、歌う」とは何事かと、自分の迂闊さに驚愕してしまいました。タイトルを書いたとき、ソローのところを書き直していたので、頭の中は「歩く」ことで占められていました。個人的な感覚として、書くことも歌うことも(歩きながらあたまのなかでよく歌う)、歩くことからインスピレーションを受けることが多いので、結局じぶんはじぶんのなかでしかものを書けていない。
ここでタイトルを訂正すると、もっとみっともないので、もし怪訝な思いを持った方がいらっしゃったらここでお詫びしておきます。
**追記**
あとから考えたタイトル→「歩くから、書くし、歩かなくとも、歌う。」