みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

音楽のふたりぶん:98年くらいの「さかな」のホーム・リハーサル映像を『ETCETRA VOL.3』で観る

nomrakenta2008-12-29


ことしは通販でCD買うのも控え目でした(当社比)。
世に出る新しい音楽というものにまたはっきりと距離を感じてしまった一年でしたが、その理由はといえば、やはり、作り手(アーティスト)と売り手(ショップ)と買い手(リスナー)が緊密に形成するようなリアルなシーンから足が遠のいているからだろうなあ、と思う。今年はライブに数えるほどしか行っていない…。『音甘映画館』という素敵なブログを書かれているmikkさんが、いつかお書きになっていたと思うのですが、ぼくたちはCDや本を買うとき、音や文字を買うだけではなくて、買う雰囲気(お店の棚の感じ、店員さんのライフスタイル)そのものをひっくるめて受け取りたいのだと思う。
そんな私にも、ときどき声をかけてくださるショップさんがいらっしゃいまして、いえ音楽じゃなくて(CDも売っておられるけれど)本のほうですが、京都の古書肆『砂の書』さんは、知る人ぞ知る、アートや人文系に強い古本屋さんです。数年前に大阪から店舗を覗きにいって、現代音楽やアートに関して貴重なお話を聞かせてもらったりした(ラ・モンテ・ヤングの「永久劇場」をずっとやっている場所の話には興奮しました)。そのとき、現代音楽関係の本で出物があれば是非メールしてください、とかいって会社のメールアドレスを告げて、そのまま会社を辞めてしまうという甚だ失礼なことをしてしまったにも関わらず、いまでも半年に一回くらいの頻度で、こんなの入りましたよ、とメールを送って頂けるのが、とても嬉しい。
今年、入荷を教えてもらって購入したのがこんなもの。
『ETCETRA VOL.3 Part.1&2』(1998年)
の音楽・アートのコアな動きをフォローしていた映像と印刷物をミックスしたミニコミで、90年代に何冊か出ていた様子。このVOL3には「さかな」の98年くらいの映像が収録されていて、僕が「さかな」が好きで、ここにもエントリーでしつこく書いているのを、『砂の書』さんはご存じだったようです。
このVOL3は、VTR一本ずつにサイケ音楽の小冊子、写真などがついている。サイケ名盤特集も、この時期ではほぼ先駆的なものだったんじゃないだろうか。内容についていうと、はじめて接するアーティストが多く興味深いものだった。「さかな」について書きたいので、できるだけ、さらっといきます。
<<Part.1>>
1.白石民男夜の路上でサックスソロ即興。不審気に近づいてくるおまわりさんから逃げるのがおもしろい。ソロ、と思いきや杉本拓のギターとのデュオ。
2.金沢在住の島田英明のアジャンスマンヴァイオリンの即興ですが、深い残響が異様な緊迫感。ヴァイオリンという楽器を非日常なオブジェにしてしまっている。http://www.myspace.com/hideakishimada
3.平野剛がキーボードで参加しているホワイトヘブン最高のサイケデリアを醸すバンドの全てがそうであるように、ここにも気だるい色気が充満している。
4.多田正美コンクリートの床に円筒を立てて、それを徐々に倒したり、まとめて引きずりまわしたりするパフォーマンス。立てたり倒したりするときに、これも凄い残響音が出るので、音のパフォーマンス、ともいえる様子。個人的には「具体美術?」って思ってしまった。http://www.tada-masami.com/
5.灰野敬二これはハーディーガーディーの即興。少なくとも個人的には初めて観た。僭越ながら、ハーディーガーディーという楽器は、灰野敬二という人にとても似合っていると思う。
と、ここまでがPart.1の内容。個人的な本命は以下のPart.2です。
<<Part.2>>
に関しては、WEB上に説明があったのでこちらを。
http://www.joy.hi-ho.ne.jp/sonic-gypsies/edps/etcetera.html
1.石原洋withフレンズこれも気だるい色気のある演奏。
2.菊池雅晃たぶん98年当時の自分では受け付けなかっただろうなあ…というコントラバス即興。コントラバスという楽器そのものが好きになってしまった今からすると、こういうハードな即興もいいなあと思う。
3.恒松正敏 & Visionsいきなりまっとうなロックが剛速球で炸裂するツネマツ!この頃の音源が聴いていなかったので、嬉しい。EDPS、好きだったなあ。ヒゴヒロシがベースを。
そして…
4.さかな
はじめの2曲は勝井祐二も参加したバンド編成でのライブハウスでの演奏。ってことは「My Dear」リリース後になるのかな…。このころの勝井さんのヴィオラが入った「さかな」が、実ははじめて生で観た「さかな」だった。
あとの曲は、アンプラグドなホーム・レコーディング!貴重な映像です。ホームレコーディングというより、音合わせ・練習だけども、このざっくりした感じは、今の「さかな」のライブの雰囲気そのものだと言っていいかもしれない。プライベートな練習に立ち会わせてもらっているかのような贅沢な時間。曲はポコペンさんのソロから「たのもしい王子」をちょこっと、それからしっとりとポコペンさんが唄いあげる「爪痕」。「太陽」は、これって自分のCD棚未確認ですが、かなり初期の曲だったのでは?それも『マッチを擦る』に入っていたんじゃなかったか?とにかくマリンガールズなんかをもっと不定形にしたような印象が強かった『マッチを擦る』に代表される初期「さかな」ですが(僕だけの印象でしょうか)、このアンプラグドでの演奏は、曲のテンポがしっかり伝わってきて新鮮。ほんとうに初期の曲をもっとライブでもやってほしいなあ…ポコペンさんも西脇さんも、忘れちゃってるもんなあ…(東京ではもしかして頻繁に演奏しているんだろか)古いファンはしつこく聴きたいのですよ。とくに僕は昔のライブを観れなかったので…と、嬉しいぼやきを入れているうちにこの曲は途中でやめちゃってるし。
最後は「Lost Words」。屈指の名盤『光線』から。西脇さんがイントロをちょこっと爪弾くだけで、自分としては熱いものがこみ上げてくる。ポコペンさんの歌唱も素晴らしい。

カーテンを閉め切った部屋で、西脇さんはソファーにゆったりと座りながら、ポコペンさんは椅子に腰掛けながら、ふたりで向かい合って、互いの演奏をたしかめ合っていく。「どこか悪いところない?ここはどう?」みたいな声が聴こえてくるような、ここ数年のおふたりでのライブの雰囲気と、まったく同じ親密な空気。
はじめに二人で始めた「さかな」が、三人で世界に類をみない空気を数枚のCDに刻みつけて、また二人に戻って、今度は大所帯になってロックバンド然となって「さかな」の歌がもっと広い聴衆にアピールできることを証明して、今また二人に戻って長い時間が経つ。これは勝手な印象でしかないけれども、二人以外のメンバーがいることによるケミストリーは、幸運にも、このお二人が向きあって音楽をつくりだすときのケミストリーを侵食し得なかったんじゃないだろうかとさえ思う(まったく、勝手な空想です)。
つい、「つくりだす」と書いてしまったけれど、もっと自分のなかのニュアンスに正直に書くと、「さかな」の音楽の印象は、「つくりだす」というような意図的なものではなくて、もっと自然発生的なムードで、しかも脆弱でかつしなやかで強いものだ。大文字の「音楽」とか「うた」っていうものがあるとしたら、二人が向きあって演奏するとき、音楽は、ふたりぶん切り取られつつ、決して全体を失わずに緩やかに深い呼吸をしている。決して大きいとはいえないのに、それは小文字ではないのだ。それは決して「二人分の音楽」ではなくて、「音楽が二人分」ということ、なのだと思う(ような気がしている)。僕らは、ひとときそれに触れる、あるいは通り過ぎることができる(もちろん、ただ通り過ぎるには惜しすぎる時間だ)。

music 愛しても愛してもくれなかったね
music 輝く宝石のような
music その優しさはみんなのものだけれど
music 愛しても愛してもくれなかったね

ポコペンさんが呟いたのは『光線』の中の『Affection』という曲だったけれど、今なら、この歌詞だけは、ふたりの、「さかな」の、事実と違うんじゃないか、と思ってしまう。
極上のボサノヴァのようにリラックスしながら、気がつくと非日常なエアポケットに嵌りこんでいるような、稀有な、大好きな、この頃の、そして今でも、な「さかな」です。
VTRの最後は、
5.Ayuo高橋鮎夫カルテット(鍵盤ハーモニカ、ベース、パーカッション、シタール)による演奏。これもまた、凄い。
2本のVTRを観て思うのは、90年代といわゆる00年代とで、どうしてここまで、メディアに対する熱意の質が違うんだろうか?ということ。MySpaceYouTUBEではなかなか感じることができない、シーンを手作りしていくことへの愛情、みたいなものが伝わってきて、ものすごいものを失ってしまっているような気がする。いや、失っていないもの、もある、か。