いぬのなまえ:打海文三『覇者と覇者』『ハルビン・カフェ』、Atomic『Retrograde』
昨日、瀧道へ登るために、家から小学校に向けて登っていく道のバス道の信号の手前で、
大きな土佐犬がのそっと目の前に出てきました。
飼い犬だろ、と思ったら首輪から伸びている筈の紐が見えず、飼い主も見えない。
しかもその犬、なんのためらいもなくストストこちらに近づいてくる。でかい!その筋肉の俊敏さとか、剥きだしたときの犬の犬歯(なんじゃそりゃ)が一瞬にして「これは勝てない、やられる、生物的に」という思いが脳裏を過ぎったのと、飼い主の初老のおじさんがおっとりと家から出てこられて、情けなく身体を竦ませている僕に向かって「大丈夫ですよ」と落ち着いた声をかけてくれるのは同時だったのだけれど、でも不思議なもので、竦む体を自分で感じるのと並行して、0.5秒くらいの間でぐっと近づいてくるその犬の目の優しさにも気づいていました。土佐犬さんとしては、「なにおまえ、なに?」という感じで、単に散歩に出る嬉しさと、弾みの好奇心で近寄ってきただけみたいでした。
警戒心のかけらもない土佐犬さんの目を見ていると、頭がほんの鼻先まできていたので、思わず頭を撫でようとて手を出すと「だいじょうぶですよ」と飼い主さんが声をかけてくれるので、なでなでしながら、鼻もふんふんと近づけてくるので、むにゅむにゅやってあげる。こちらがもっと遊びたくなった時には、ふっと体を反らして歩き初めた飼い主さんの方へすとすと歩いていきました。一瞬びびってしまった自分をちょっと恥じつつ、あんな風に人に慣れた犬っていいなあとも思い、犬を飼う人の気持ちもなんとなくわかるような気がしました。
ああ、そうだ。このこ、なんていうんですか?って、犬の名前をきけば、もうちょっと遊んでいられたのかもしれない。ペット飼育歴が全くないと、こういう犬とか猫を媒介したコミュニケーション能力はゼロなのだなあ、と思いながら、瀧道をいくと、猿のコロニーがかなり低いところ(昆虫館の辺り)まで降りてきて餌を探していた。
百年橋のところまで登って、自然研究路までいこうかと思うと、ロープと看板が立って封鎖されていた。とはん路の整備をやるようだ。確かに雨のたびに流れ落ちて崩れかかる土砂で、道の体(てい)を為してしない部分が多くて、結構あぶないんではないかと思っていたので、ついにやるのか、という感じだったが、工期が来年の2月末まで、と書いてある。あからさまに年度内の帳尻合わせな感がしたが、しょうがない。これから二か月は他のルートを開拓しなきゃ、という結論でした。
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今日は、著者の急逝のため未完となってしまった打海文三の応化クロニクル・シリーズの最終作『覇者と覇者』を読み終わった。図書館から借りていたのです。
前作・前前作のボリュームには達しておらず、下巻の半分くらいのところで中断されている。打海文三の描く、孤児兵たちの(連作タイトルの元にもなってそうなノーマン・メイラーも真っ青になりそうなほど)ドライな暴力と精液に充ち溢れながらも、どこか肯定的な世界をもう読み次いではけいないというのは、多くの読者にとって残念なことですが、一応物語の大きなウネリとしては、内乱終結・新政府樹立まで本来の上巻分がカバーしていて、ちょっと安心したところもあります。
打海文三という作家自体つい最近このシリーズで知ったばかりなのですが、ブック◎フで190円で買った『ハルビン・カフェ』が衝撃だった。物語の仕掛け自体はなんとなく予想がつきつつ読み進むのですが、各々アクの強すぎるキャラクターたちがこれでもかというほどウネリながらプロットを強引に押し拡げていくようにも感じるのは、やはり作家の筆力なんでしょうね。しかもこの『ハルビン・カフェ』、それぞれの章の扉に、あの大江健三郎も参考にした原広司の『集落の教え100』からの言葉を引用している。例えば、
人間が意識の諸部分を共有するように、諸部分がそれより小さな諸部分を共有するようにして、集落や建築をつくれ。
この方法が幻想的な世界の基礎である。
みんなでつくらねばならない。みんなでつくってはならない。
作家が、このような言葉たちを、作品のなかに響かせながら、あるいはともに併走しながら、重厚な警官たちの反乱(「反乱が老けゆくこと」!)物語を、潜りつつ、回想しつつ、話者の時間を交差させ構築していったのかどうか、それは知らないけれども、そしてかんたんに幻想的といえる作品では『ハルビン・カフェ』はなく、幻想性へ到る険しい道を徹底的にハードボイルドでセクシーに描いた傑作なのかもしれないと思いもするのだけれど、単に、こんなすごい引用と拮抗するどころか、食いまくってしまっているようにも感じれる小説の愉しみを、他人に教えてしまいたくなるわけです。
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良い、良いときいていたAtomic。
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アコースティック楽器の軋み、歪み、ユニゾン。スティーブ・レイシーが完全にフリージャズへと遷移する前に、モンクやエリントンをアヴァンにアレンジして即興に飛び出す寸前の興奮をPrestigeの音源に定着させていた頃か、もしくはオーネット・コールマン、ドンチェリーの双頭カルテットにこれ以上ないくらいぴったりとピアノが入ってきた、という感じを受けてしまいます。これは他のアルバムも聴かなければ。