みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

ふちがみとふなと『フナトベーカリー』、いとうせいこう『波の上の甲虫』

nomrakenta2008-08-02


名盤であることは、わかっていた。
京都の、いや関西の、いや日本が誇る「最小最濃」の歌のベーカリーの(知る限り)6作目は、その旺盛なライブ活動でお客さんの反応ですくすくと育ってきた歌たちがこの上なく納まりよく居場所を見つけているようで、昨年結構「ふちふな」のライブをおっかけていた身としては、耳に馴染んだ曲が多く、歌詞カードではじめて詳細な意味がわかるなど、細かいところから大きなところまで嬉しい限りの作品で、どうも本作が一番長く聴いていくものになるんじゃかいかなあという予感がしています。

好きなところは、もちろん自分がライブに通い始めたころに多分出はじめていたレパートリーが総まとめで収録されている(レンズ、フロイキ仮面、ふなとベーカリー、シロクマ大迷惑…)ところでもありますが、前作『ヒーのワルツ』や『ハッピーセット』が割とソング・オリエンテッドなところで勝負していた気がするんですが(もちろん「ふちふな」的な意味で、ですが)、本作は船戸さんのウッドベースのフリーキーかつアンチームな響きも前面に出てきていて、「フロシキ仮面」や「シロクマ大迷惑」のようにライブでコミカルな曲がある反面、しんみりと、また渋い世界も全開。そこが聴いていて心地よい、そんなアルバムになっているところでしょうか。
京都の町屋(?)でなされた録音は、たぶんほとんど一発録りだったのでしょう。ライブの空気そのものがパックされてます。ちょこちょこ入るマリンバや三味線のゲストも効果的。ジャケットは数枚のカードになっていて、各カードの表面にはグレゴリ青山など関係者さんたちの漫画が刷られています。


ブックオフで発見した、いとうせいこう1995年の「リゾート」・メタ・フィクション。
ボラカイという南洋の島にバカンスにきた「小説家」がでっちあげの旅行記を手紙に書いて編集部に送るうちに、現実と虚構が混じり合う…というのがわかりやすい説明でしょうが、小説という「かたり」の本性そのものに、南の島への憧憬とともに肉薄してみせた、限りなく名作に近い佳作、かと。
適度な細部の描写が、最小のコストで南洋の島の日差しや、あっという間に乾いてしまう海水に濡れた服をイメージさせる技術は文句ない。それプラス、小説の「かたり」のメタなところを嫌味ではなく作者自身が驚き・愉しみ抜いているのが伝わってくる。読み継がれるべき作品。

私は波の上の甲虫など読んだことがありません。
――引用ではありません