みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

いそがしい週明け、心地よい疲れ そしてなぜか、榎本武揚。

週明け。同僚有休。程よいプレッシャー。いつものてんてこ舞。帰りはiPodに入れた『bird and diz』を聴きながら難波から梅田まで夜の御堂筋の脇道を徒歩クルーズ。最近やっと、妖しいかっこよさが攫めるような気がしてきています。イーストウッドの映画のフォレスト・ウィテカーは良かったな(というか、ウィテカーならなんでも許せる人間です)。

Bird & Diz

Bird & Diz

帰宅して風呂上りに、自分のはてなアンテナをぼんやり見ていると、仲俣暁生氏の【海難記】で、古川日出男の『ベルカ、吠えないのか』が文庫化されたことを知る。自分は読んだから買わないですけど。
あれは、いい小説です。
古川日出男って今まで数冊しか読んでいないのだけれど、この小説はひとに勧められる、というか読んでみて欲しい。犬のように死んでいく人間たちと、神話的な犬たち。数年前に読んだので朧気で申し訳ないですが、そんな感触がのこっています。これ、失敗するのは当然としても、誰かが映画化したら、その蛮勇だけでも買いなんだけどなあ。
読んでいない人(特に若い人:サリンジャーがどこかで「ぼくは、おもに若い人のために書いています」とか言っていたらしいけれど、そんな意味で「若い人」)は読んだほうがいいと思います。ちょっと旬が過ぎてしまったのかもしれないが佐藤優の『自壊する帝国』なんかと併読してみるのも乙かと(このあたり、「砂の書」さんの書き方をお借りしています)。

ベルカ、吠えないのか?

ベルカ、吠えないのか?

実は、2年ほど前、このブログを書き始めるようになったとき、ほとんど最初のブックレビュー(というのもおこがましいもの)がこの小説でした・・・というのはどうでもいい話ですが。


最近就寝前は、藤原書店から4月末に出た『近代日本の万能人・榎本武揚』を拾い読みしています。

近代日本の万能人 榎本武揚

近代日本の万能人 榎本武揚

冒頭の対談では、対ロシア外交ということで佐藤優も登場。バランス感覚のテクノクラートということで、佐藤氏の武揚への評価は高いようです。
幕末の「函館戦争」の顛末までがどうしてもクローズアップされてしまう榎本武揚は、五稜郭以後、明治政府に入った後は、徹底的に実務派としてロシアと樺太・千島交換条約を締結するなどの大役をこなしたり、メキシコ移民事業を立ち上げて結果的には失敗したりもしたわけだけども、このあたりの物語化されることを拒むような大きな振幅が、個人的には堪らない魅力ですが。

メキシコ移民のあたりは、本書にも寄稿している山本厚子氏の『時代を疾走した国際人 榎本武揚 ラテンアメリカ移住の道を拓く』asin:4797215410がおもしろかったです。これによると、最初の「榎本移民」はチアパスに上陸している。・・・チアパス!サパティスタ!(おいおい)

サパティスタの夢 インディアス群書(5)

サパティスタの夢 インディアス群書(5)

武揚が見ていたオルタナティブな日本の姿は、その後の「大日本帝国」とは若干異なっていた様子。「瘠我慢の説」なんて、霞む霞む。

とかいいながら、きっかけは案の定、安部公房の『榎本武揚asin:4122016843でした。司馬遼太郎の『燃えよ剣』のあと、興味が沸いたのは、榎本武揚でした。安部公房の抽出する榎本武揚像は、実像うんぬんは置いといて、好きです。安部工房バージョンの武揚なら、諭吉の「瘠我慢の説」など、気の利いた台詞で片付けたろうなあ、などと妄想してみたり。

榎本武揚から世界史が見える (PHP新書)

榎本武揚から世界史が見える (PHP新書)

これもおすすめです。武揚が北海道を目指した複雑な理由がちょっとわかる。「鯨油」というのに驚いた。