みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

苔むすサイケデリア:ロビン・ヒッチコック『SPOOKED』

ロビン・ヒッチコックのアルバムのジャケットといえば、最近(少なくともここ10年は)深いグリーン調と決まっているのであっての連想ですが。しかし実に、ひんやりとした夜の寺院、ではなくて一瞬前まで住民がいたのに、今は苔むしているような夜のベッドタウンで聴くのが似合うポップソングといえば、ロビンさんしか書けまい、歌えまい。なので、僕はロビンさんのジャケットがいつも暗い緑であることには、深い納得をしてきたのでもあったのでした。

Spooked

Spooked

2004年リリース(もう4年経ってしまったのか・・・)の本作はナッシュヴィルギリアンウェルチやデヴィット・ローリングとともに録音。録音にはほとんど時間をかけなかったとか・・・たしか雑誌のインタビューで読んだと思うのですが。ルーツとかカントリーっぽいのかといえば、それを強く感じることはなく、ドブロやテーブルトップギター(たぶん)の揺らめいた感じがロビンさんの曲だとコケオドシじゃなくてサイケ度を高めるようで、いつものロビンさんが、ものすごく(ロビンさんとして)オーソドックスなことを最小の編成でやっているのですが、全編通じて、わたしの主張する「苔むしサイケデリア」*1が充溢しております。
妙に愛嬌のあるオバケがこっちににじり這い寄ってくるような引きずったノリの「Creeped Out」は確かにロビンさんでしかありえない(笑)。目だって明るいノリの「We're Goona Live In The Trees」も聴き取れる歌詞の端々から、簡単な単語の意表をつくつながりで異化作用がたっぷり感じれます。ですが、他のしっとりした曲を聴けばわかるように、それは飛び道具としてではなくて、「これらの曲は長い年月歌いすぎて、もう正直いって俺とディランの曲、って感じだ」と昔リリースしたボブ・ディランのカバー集で言っていたように、自分になじむ「歌」自分を貫いて、地面に根をおろせるものとしての歌しか歌わないという意識が、絶対このひとにはあるのだと思います。でないと、こんな異様な世界ばかり歌っていてぶれない芯を保てるわけがありません。
「Full Moon In My Soul」など、すべての捩れ疲れた魂を癒す名曲かと(・・・いま、おもわず嫌いな言葉を二つもセットで使ってしまいました。「疲れた」と「癒す」です)。
Robyn Sings

Robyn Sings

洋楽を聴き始めた頃(1980年代中頃)、すでにロビンさんはソロアーティストで、風船男とかカエルのこととか夜の電車のこととか、かわいい女の子に産まれたらよかったのに、とかほとんど外界との接触を絶った幻想世界を歌う変な男、という形で紹介されていて、しかもその幻想のどれもがラヴクラフトめいたところがあるのでした。それだけならシド・バレットの衣鉢を継いだシンガーということで納得もいくところですが、パンクのディスクガイド本などを読むと、ロビンさんはパンク時代に「ソフト・ボーイズ」というバンドをキンバリー・リューという人とやっていて、これもまた「君を壊してしまいたい」とか「水の中の月光」などという、陽光のあたらない世界のレノン&マッカートニーというか、捩れた感性のポップソングを若干パンクっぽい速度でやるという筋金入りの人だったみたいです(一時再結成もしたようです)。それから、初のロビンさんの映像作品は「羊たちの沈黙」のジョナサン・デミが監督したみたいです(観てません)。

Underwater Moonlight . . . And How It Got There

Underwater Moonlight . . . And How It Got There

個人的には、10数年前に出た『モス・エリクシール』というアルバムで、ロビンさんに目覚めました。簡単にいえば数あるソロ作の中でもフォークっぽく、またバーズっぽい(かもしれない)。かなり編成的には地味な筈なのですが、しっとりとしたサイケデリアがいい具合の濃度で立ち込めて、「いいうた」がもちろんロビンさんらしく捩れくれてはいるものの、きわめてすんなりと通っている感じは、現在のロビンさんの良さにも直結しております。特に元マジックバンドのモリス・テッパーがギターで参加している曲など、夜の張り詰めた空気をビリビリーと引掻くようでいて、官能的。
Moss Elixir

Moss Elixir

こちらはその名作収録曲「デ・キリコ通り」を、ヴァイオリン(ヴィオラ?違いがよくわからない)と共演したクリップ。

愉しそうです。
そういえば、だいぶ前に書いたエントリーで、ニューヨーク・ドールズのジョナサン・ケインの映画『ニューヨーク・ドール』についての感想を、だらだらと書いたおぼえがありますが、あの映画で死んだケインが目の前(耳の中)に囁くような切々とした歌をうたっていたのもロビンさんでした。ああいった趣向の曲で、ほんとうに優れたものは、たぶん下品に涙など誘いにはいかない。もっと感情が結晶になってしまったようなものなのだと思いましたっけ。
と、若干回想モードで書いていたら、新譜が出ていました。
Shadow Cat

Shadow Cat

新曲のオリジナルアルバムでなくて、レア&未リリース集のようですが。
街のCD屋さんなどでロビンさんの深緑のCDがあったなら、気が向いたら手にとってみてください。

*1:サイケデリア、サイケデリアと何かの一つおぼえのように連呼していますが個人的にサイケデリックというのはファズがぶりぶりかかっていてドラッギーな音を指すのではなく、強靭な「歌心」が屹立している、というようなイメージで使用しています。・・・誤使用かも。