みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

稚気に満ちた時間の触覚:カール・ストーン『Al−Noor』

nomrakenta2008-01-24



昨年は、新世界BRIDGE直前のフェスティバル・ビヨンド・イノセンスで観たカール・ストーンCarl Stoneのパフォーマンスが一番心に残った。
右の写真の、カールさんの風貌からしては、拍子なくらい毒々しい髑髏(か何か)を表面に描いたラップトップがまず個人的には最大のヴィジュアルショック(すいません)であったりもしたし、そこから紡ぎだされる音が聴衆と共有されながらそのフィードバックとして即妙に施されていく、その過程が演奏となっていくところは単純に聴いていて刺激的でビューティフルだった。
もちろん、こういうソフトにはパッチやらパラメーターやらよく知らないんですけどいろいろなプログラミングの過程があるようで、どこまで音素材として用意されているのか自分には判断できなかったのだけれど、それは楽器を用いた演奏となんら遜色もなく、まさしく「生演奏」のタッチがあったから。

今夜は、昨年の11月にリリースされたアルバム『Al-Noor』を聴いてみる。制作には、すべてMAX/MSPを使用しているとのこと。非常に「カール・ストーン」なアルバムで私はたいへん満足です、と正直に書くと単なるトートロジーなので、簡単にアルバム紹介を。

Al-Noor

Al-Noor

1.Al-Noor
2.Flint's
3.Jitlada
4.L'Os a Moelle

『MOM's』は、どんな素材を使ってもカール・ストーン、という名盤だったと思うし、実際今になってもこのアルバムの曲は何度も聴ける。本作は、ベッドルーム・リスニングに特化したような『MOM's』と違って、本作収録の4トラックのうち半分がライブ・パフォーマンスを音源としているせいか、よりクラブ的でビートが効いた仕上がりになっている(気がする)が、「カール節」の凝縮、という点ではひけをとっていない出来。

最も『MOM's』に似たテイストを持っているのは「AL-Noor」で、鎮静剤のような女声のフレーズを加工していく。個人的にはこれが一番好きです。
「Flint's」は、2000年のサンフランシスコでの電子音楽フェスでのライブ音源から。クラフトワークが変調して跳び跳ね回っていくような狂騒の中に醒めた感覚があるユーモラスな出来。
反対に「Jitlada」は、はずむカーテンのような音響の中国語のようにきこえる男声が反復されてモアレのような効果をあげて同じようにユーモラスだが静的な印象のトラックになっている。
20分に及ぶ「L'Os a Moella」は、1960年代ガレージサイケバンド風のジャムセッションの少々ひなびたような演奏の音源が使用されていて、これもまた延々と反復・加工。いつの間にかギターの音がシンセのような音にエフェクトされて溶解していき(ベースの音だけ比較的原音のまま、他の変調を際立たせるためか?)、擬似シンフォニーのような体裁でエンディングを迎える。MAX/MSPでVelvet Undergroudの「SisterRay」を再作成したら、こんな感じなのかもしれない。東京銀座アップルストアでのライブ音源とのこと。

カール・ストーンの「タッチ」とは、素材の選択でもないし、おそらく音楽プログラミングソフトでもない。それは単時的なブリコラージュのセンスであって、時間に介入する一貫した態度からくるものなのだ。
ほとんどの音楽は固定された時間の中で「音を鳴らす」様相の成就を本懐とする(それに異存もないのだけれど)。しかし、カール・ストーンの音楽は、稚気と呼んでしまってもいいもの、それを決して忘れずにいて、聴き手との時間にアクセスしようとしている、そう思ったのだ。