みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

自転車でガムラン!:リチャード・ラーマン『トラヴェロン・ガムラン』

emレコーズさんがまたすごいのを。

MUSIC OF RICHARD LERMAN 1964-1987

MUSIC OF RICHARD LERMAN 1964-1987

自転車のスポーク。
というと、わたしなどは大昔の少年ジャンプで連載されてた『ブラックエンジェルズ』を連想してしまうんですが、感受性豊かな皆さんなら、幼き頃自転車の車輪を回す中に棒かなんかを差し当てて心地よい金属音の合唱に耳をすました経験をお持ちなんじゃないでしょうか。
そんな原初的な「音」の楽しみを、まさに「自転車を楽器として使用」した音楽として堂々たる作品にしてしまった漢(おとこ)・リチャード・ラーマンの2枚組みボックスセットです。
目玉の「自転車音楽」はDISC1の『Travelon Gamelon』つまり「旅するガムラン」の演奏で、コンサートホールで、野外で(自転車レースの形で!)の録音が収録されてます。
とにかくまずCDエクストラの自転車演奏の映像から入った方が、より楽しめるのではないかと(こういう実験音楽というかサウンドアートは実際パフォームしている様から伝わってくるものが相当おもしろい)。
大の大人が4、5人ステージに並んで自転車の車輪をぐるぐる回してコロコロコロコロンポロポロポロポロンと音を奏でるさまは、神々しいものが。確かに音色もガムラン風といえば風ですが、レンジの少ないプリペアド・ピアノのような素朴な感じです。ヴァイオリンの弦なんかで擦ってキイキイ音なんかも出してます。
しかもこのコロコロコロコロンポロポロポロポロン、決して適当に鳴らされているわけではなく、どのサイズの車輪のどの部分を鳴らすとどんな音が出るのか具体的な音のマッピングをして、楽譜らしきPDF書類もちゃんとつけてくれている(しかも表紙デザインの♪記号の●部が車輪になってる。コレはツボです)。音色的にも相当配慮が為されているようで、独自に改良を施した圧電マイクが拾う音は微細な回転するスポークのエコーも逃していない。
最初は車輪一つで「演奏」しますが、次第に別の車輪の「演奏」が加わってくると、ユニークなポリリズムのアーチがゆっくりとたちあがっていくようで、それがなんだかとてもいいのですね。
丁寧に作ってあるインナーのブックレットには貴重なパフォーマンス写真が多々掲載されていて、大勢の自転車ライダー達が、特殊なピックアップをスポークに搭載してボストンやザグレブの町中を走り抜ける様子を捉えています。

なぜ自転車の為の音楽なのか?タイトルが最初に浮かんだのです。(中略)タイトルの持つ韻律、そのトラヴェロン・ガムランという言葉のもつ含みは、捨て置くわけにいかない良いアイデアに思えました。その上また、自転車をひとつの楽器やイメージとして音源に用いることに興味をそそられました。カードをホイールに付け、スポークに当てて音を鳴らした子供時代の記憶が、さらにこの作品を追求するはずみとなったのです。

本盤ライナーより:ラーマンのコメント

いい。ラーマンさん貴方、いいです。
是非、本場のガムランと、ジョン・ケージの『プリペアド・ピアノのためのソナタとインタリュード』*1あたりとで三つ巴の共演をして欲しい。
リチャード・ラーマンは、60年代から自作楽器での演奏やサウンド・アーティスト、パフォーマー、コンポーザーとして40年以上活躍している人、ということですが、僕は初めて聴きました。ブックレットには、デヴィッド・チュードアやパウル・パンハウゼンなんかの固有名詞も見て取れる。

DISC2は、一聴して、電子音楽風のコラージュやドローン風のものが多い感じ。自作楽器での演奏や、音の出し方にかなり工夫があるように書いてあるので、これもエクストラ映像があれば、より面白さがわかりやすかったかな、と。

*1:よく、ガムラン風の音色、と形容されます