みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

「世界の調律」を自作する:Gayle Young 『According』

nomrakenta2006-12-01


京都のレコード屋さん「メディテーションズ」さんから通販で購入。ドローン系音楽のCD-Rです。
このGayle Youngという人は、「Musicworks」という先鋭的な音楽誌の編集者で、70年代後半から、パフォーマーとしても、創作楽器のデザイナーとしても活躍している調律システムの専門家とのこと。トロントのヨーク大で、Richard TeitelbaumやDavid Rosenboom、それから最近鬼籍に入ったJames Tennyとともに現代音楽を学んだ人である様子ですが、ぼくは初めて知りました。ほかには、Hugh Le Caineの伝記を書いたり、「Amaranth」というどんなピッチにも対応可な動かせるブリッジを備えた24弦楽器を80年代に考案したりしているようです。
本作収録の3つのコンポジションは、もともと、アーティスト・Reinhard Reitzensteinの同名の環境彫刻(1978〜1980。いわゆる「エンヴァイロメント芸術」)の作品の一部として作曲されたもの、とのこと。
どうしても気になってしまうジャケット写真の彫刻のリングは、Reinhard Reitzensteinの作品。リング状に男女が向き合う形は、なにやら異教的な雰囲気です。
According To The Moon 微妙な震えを含んだソプラノ、アルト2つの女声による瞑想的なドローン。メレディス・モンクから最低限のポップさまでついに抜き去ったような印象。 
In Motion この曲では、Gayle Young自身が自作楽器「Columbine」を演奏しています。この音はちょっと特筆ものだと思います。
この「Columbine」ですが、拡張された(←よく意味がわかりません。extended、と書いてある)純正律(just intonation )で調律された40〜61本の鉄製チューブで構成された打楽器で、ジョン・ケージのプリペアド・ピアノを通り抜けてきたような、とでも形容したくなるどこかノスタルジックな残響がとても豊かな鉄琴のような音です。一音一音きき耳をたてるような序盤から、次第に乱打になっていくさまがちょっと鬼気迫ってもいる。
Theorein Reinhard Reitzensteinの声とGayle YoungのColumbineの演奏、とクレジットされていますが、ここでのColumbineは、テレビのテスト音波みたいな「イーーーン」という持続音。打楽器というイメージからは遠く感じます。アンプリファイされているのかも。ボーカルはほとんど稀で、息を吸ったり吐いたりする音のみ。

いずれもミニマル・ミュージック、というよりは、音環境をデザインする意図から出来たもののようで、「特殊な」聴き方を要求する面もありながら、「世界の調律」ISBN:4582765750みがあっておもしろいと思います。「調律」、「創作楽器」というタグから考えれば、「巨人」ハリー・パーチ Harry Parchなんかとも関連が出てくるのかもしれません。
Gayle Youngに関して、詳しくはここ↓
http://www.deeplistening.org/DLArtists/young/young.html

あるいは、こちら↓
NEW TUNINGS FOR NEW INSTRUMENTS

世界の調律 サウンドスケープとはなにか (平凡社ライブラリー)

世界の調律 サウンドスケープとはなにか (平凡社ライブラリー)

実験音楽に端を発する、ノイズにも開かれた「耳」でもって「サウンドスケープ」(環境という楽器)という概念と実践を創出した古典、と認識しています。

私は、本書を通してずっと、世界をマクロコスモス的な音楽作品として扱っていくつもりだ。こうした考え方はあまり一般的でないが、私はこのことを絶えず執拗に喚起していきたい。(中略)最近の定義のひとつにジョン・ケージの次のような言葉がある。「音楽は音である。コンサートホールの中と外とを問わず、われわれを取り巻く音である。ソローを見よ。」
p.23

と書かれたのは1977年のこと。
1984年のインタビューでケージは、M.シェーファーに関してこう答えてます。

私がシェーファーの音楽を楽しむのは、彼が環境音の世界全体に注目するからです。彼は私とは違った仕方で音を経験するようドアを開くのです。私が開けたドアを通れない多くの人が彼の開けたドアなら通ることができるのです。わかりますか。でも重要なのは人々が聴くことができるということなのです。
     リブロポート「MusicToday」No.18(1993)ケージ没後特集 より p.104

さて、ムックリの練習をしなくちゃ。まだまだ全然鳴らないのである。