みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

季節はずれの手づくり世界言語:さかな『ワールド・ランゲージ』

秋です。今朝、箕面の瀧道をのぼっていると、全面的な紅葉ではないけれど、ところどころのもみじのグリーンからイエロー、橙への無数のグラデーションが鮮やかでした。
この『ワールド・ランゲージ』は、水音のサウンドエフェクトが奇妙な清涼感をかもすので、夏に最適なんですが、思い立ったときに書いておかないとまたいつになるやら、なので。

本作は、1991年の夏、サードアルバムの『夏』asin:B000FQJ70I&リリースされた「さかな」史上唯一の実験作、といえる作品。バンドのHP上でも「しょうもないアルバム」とまで書かれ、最近のリイシューの対象にもならない不遇な作品といえます。長いファンの中でも、どう接していいかわからない困ったアルバムとして記憶の奥深くにしまいこまれているのではないでしょうか?
それというのも現在の「さかな」の本質である「よい曲・よい歌」という概念から可能な限りかけ離れた一曲29分の長いインスト、それもいわゆるまっとうな楽器演奏ではなくて、基本となるのは林山人氏(この作品を最後に脱退)の水槽の水を波立たせているようなサウンドエフェクトであり、そこに西脇氏のギターの爪弾きとポコペンさんの歌、というより「発声」、そしてモーターのうなる音が点描的に現れたり消えたりしてサウンド・スケープというか、点描的な「音のなりゆき」につきあう形での、アンビエントという便利な言葉さえちょっと違うような気もする実験作品になっているから。
久しぶりにインナーを開くと、ライトグリーンの一色刷りで、本作の「図形楽譜」というか「進行表」が刷られていることに気付きました。ギター、ヴォーカル(+オカリナ)、ラジオノイズ、水のサウンドエフェクト、モーターノイズ、使用(演奏)されている全楽器ごとに、このタイミングで鳴らすということが、極めてニュアンス的にドローイングで書いてあります。当時は「??」な感じで雰囲気程度のものかと思っていたんですが、今日改めて初めからこの「進行表」を追いながら聴いてみると、「図形楽譜」のようなアカデミックな手続きではなくて、もっと直裁に「ここでこれをやる」ことをメンバー間でとりきめておいた、いわば、この作品唯一の「約束事」だったのではなかろうかと思った。例えば、水のSEの行で、「水しぶき」のような線描になっているところでは、なにやら大きなものを「どっぼーんっ」と水に投げ込む音がする、ポコペンさんのヴォーカルパートにしても、細かい点による「音の群れ」になっているところは重ね録りのように複数の「声」が重なっている。「表」の最後にだけ書いてあるラジオノイズのいくつかの印は、作品がラジオからとったなにかの曲の断片が断片的に用いられて終わることをちゃんと予告しています。そんなふうに思い直して「音の立ち現れ」に向かいなおしてみると、なかなかおもしろいことに気付きました。
そして音と声が重なりあうところは、こんな風↓で、ちょっと笑ってしまう。

ハハヘヒ♪ ポ・ヘブー♪(ばしゃばしゃ)ラーピ・ララーピ ポ・ヘブー♪(ぼこぼこ)(ばしゃ!)ラーピ・ララーーピ ポ・ヘブー♪

ポコペンさんのヴォーカルパフォーマンスは、メレディス・モンクMeredith Monkの声のたのしさを不思議さを気付かせてくれる作品(特に「フェイシング・ノース」)を連想させもしますが、クルト・シュヴィッタースの「原音ソナタ」の痛快さもあるように。

Facing North

Facing North

以前「実験音楽」と「現代音楽」(あるいは前衛音楽)は、違うという話があることを書きました。それは「現代音楽」のアカデミズムをある瞬間放棄できる自由が「実験音楽」のフィールドではあるわけで、そこにはいろんなノイズの形をした可能性が流れ込んでくる。その自由さはビートルズの実験をあげるまでもなく、ポピュラー音楽をつくる人たちにも開かれたものでもあったわけです。本作はそういう開かれていて伸びやかな「実験」の中で聴かれるべき。たとえば、アンビエント・ミュージックからアカデミズム臭さを抜き去って、自転車でのんびりと自走しはじめた洗いざらしジーンズのような奇跡の作品なのであり、初期の「さかな」が抱えていた/大事にしていた「なにか形のさだまらないもの」が突出して発露した時間の記録として、心ある誰かにはきちんと憶えておいてもらいたいLOHASなエアポケットが、本作です。
「こんなものは誰にでも作れる」とおっしゃるなら、是非つくってください。僕、お金だして買いますから。

ポール・マッカートニーとアヴァンギャルド・ミュージック―ビートルズを進化させた実験精神

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ザ・ビートルズ

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