みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

読了:二人の利休:野上弥生子『秀吉と利休』、井上靖『本覚坊遺文』

野上弥生子『秀吉と利休』をやっと読み終わる。あいだにいろんな本を挟んでしまって3ヶ月くらいかかってしまった。なので読後感に濃密さがないのはまったく自分のせいです。本書と、以前日記にもつけた↓

本覚坊遺文 (講談社文庫)

本覚坊遺文 (講談社文庫)

↑こちらの作品で、千利休を描いた小説を二つ読んだことに。
『本覚坊遺文』での利休は、その死後に弟子だった本覚坊が折に触れて面影を垣間見ようとする幽かな存在であって、その切腹の理由も本覚坊がおぼろげに推察するような形。
反対に『秀吉と利休』での利休は、朝鮮出兵をひかえた独裁者・秀吉と緊張感もって対峙しながら、石田光成一派との確執が原因となり、切腹までしだいに追い詰められていく過程を人間関係の機微や季節感、社会情勢などと一緒に第三者の視点から緻密に描かれている。大徳寺の自刻像を咎められ謹慎中の利休がはっきりとその死を予感した時、一休宗純が示寂の時「死にとうない」といったエピソードを口にする場面がある。ひょっとして利休の「休」は一休から来ているとか、そういう事実があったりするのだろうかと、ふと思った。*1
「侘び数寄」というものに関して何らかの合点がしたくて読んだ2冊でしたが、『本覚坊遺文』の殆ど幻想小説のような雰囲気は期待していたものに近かったような気が。反対に野上弥生子の描く主人公は天下一の茶頭でありながら「売僧」と呼ばれても恥じることのない現実的な人間・利休であって、山上宗二の死について息子から問い詰められて絶句するなど、人間的な厚みがある。

『秀吉と利休』を読んで、その後日譚として、『本覚坊遺文』を読んでみる、ということも可能かも。

へうげもの(1) (モーニング KC)

へうげもの(1) (モーニング KC)

こちらは週刊モーニング連載中のコミックですが、利休の弟子となった古田織部が主人公。安定した力量でおもしろい。利休もかなり「黒幕」的な役柄で登場。各話のタイトルが洋楽邦楽を問わず有名な曲名かそのもじりになっている。ちなみに『本覚坊遺文』で古田織部が自害する話が出てきます。


先日の<極私的>というコトバに関するエントリーで、詩人の鈴木志郎康さんご本人からコメントを頂き、そして映像作品のDVDまでお借りできることになってしまいました・・・。今はただただ<極私的>映画を楽しみにして待っている状態です。

*1:講談社学芸文庫の村井康彦著『千利休』では、「名利共に休す」の意、とのことでした。