みみのまばたき

2006-2013 箕面の音楽・文学好きの記録です。

もとより、一筋なわではない:ヨーロッパの伝統音楽集『Patchwork Europe』

ドイツの現代音楽レーベルWergoのSCHOTT MUSICが、1911年から1954年にかけて録音されたヨーロッパ全域の伝統音楽の「超」が数個付きそうな歴史的音源をコンパイル
アイルランドスコットランドイングランド、フランス、ポルトガル、スペイン、ノルウェー、ドイツ、オーストリア、イタリア、チェコサルディーニャ、シシリー、フィンランドポーランドハンガリーアルバニアギリシャルーマニア、ロシア、ウクライナ・・・(なんかスパムみたい)。
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通して聴いていると、古い音源特有の遠くから聴こえるような感じ(ヒスノイズなどはあんまりないように思える)と、当然国によるメロディーやハーモニー、リズム感の一曲一曲での多様な相違(多様でありながらどこか通低している)が混淆しながら自律している様子がなんとなくわかってくるわけで、それは、まさに「パッチワーク」という印象で、どこかに焦点を絞るというこちらの姑息さを封じられてしまう。
編者のChristoph Wagner氏は、ライナーでこんな意味のことを書いている様子。

伝統音楽?この単語は「親しみある曲と家庭的な歌」といった文化的な継続性と永続性を意味している。過去のメロディーは、現在の急激な進展ぐあいとはちがってじっと揺るがないものに思える。
だが、こんなノスタルジアはただの幻想だ。しかも誤ってさえいる。現在われわれが「伝統的」だと思っている音楽の多くが、その発生現場においては、ラディカルでモダンなものだったのである。

産業革命による技術の革新で楽器自体が変貌していき、政治的社会的大事件や大都市の出現・・・そういった19世紀と20世紀の間のいわずもがなな歴史的な大変化と無縁なところで、ここに収められた「伝統音楽」が鳴っているわけではない。全然その逆で、急激に流動する状況の中で、楽師たちも最新の流行にとびつき世の中と歩調を合わせていかなければならない・・・楽器や流行が変われば、新しい人々のための新しい音楽が生まれ、そして当然奏でられなくなる音楽もでてくる・・・。これは、そんな中ですくい取られた「ざわめくままのヨーロッパ」なのだ、ということでしょう。